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第十九部・マティアスと麻衣 編
好きな物を食え
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「……お肉とかガッツリしたのを選んだら、『そんなの食べるから太るんだ』って思われそうで怖い。痩せてる子は皆サラダを食べてる。……私は肉が大好きだから、女っぽくないと思われそうで……怖い」
またマティアスの前で、自分の弱い部分を晒してしまった。
あまりに恥ずかしくて、声が少し震えてしまう。
俯いていると、向かいに座っていたマティアスが立ち、麻衣の隣に座った。
「えっ!? えっ……」
皆の前で触れられるのかと思い、麻衣はとっさに立とうとした。
だが腕を引っ張られ、座らされた。
マティアスは麻衣の両腕をしっかり掴み、まっすぐ見つめてくる。
「好きな物を食え」
短く言われ、ドキンッと心臓が跳ね上がった。
「〝周り〟とか〝皆〟とか、そんなものを気にするな。今マイとデートしているのは俺だ。俺はマイが喜ぶ顔を見たい。なのにマイはどうして名前も知らない奴らに遠慮するんだ?」
じわっ……と喜びが胸の奥から溢れてくる。
涙ぐんだ麻衣に、マティアスはさらに言う。
「ドイツの女性は遠慮しないぞ。大きなジョッキで好きなだけビールを飲む。肉を食べてソーセージをたらふく食べて、でかい口を開いて豪快に笑う。誰にも遠慮しない。体が大きかろうが痩せていようが、好きな物を食べる」
「でも……ドイツの女性って痩せててモデルさんみたいじゃないの?」
「個人差がある。日本でもそうだろう? 誰かに遠慮して食べるのを遠慮して、何が楽しい? 人生は長いようで短い。食べる事が好きなら、好きな物を食べて過ごせ。誰かのために痩せようと思わなくていい。いつか『痩せたい』と思ったなら、その時に頑張ればいい。だが俺や他人のために遠慮するな」
マティアスの言葉が、胸の奥に染みこんでいく。
麻衣は痩せている友達を「可愛い」と思い、香澄は自分の推しだと思っている。
羨ましいと思う気持ちがあるのは否めないが、大好きな友達には幸せになってほしいと本気で思っている。
逆に有名人や、SNSに出てくる自撮り女子を見て、冷めた気持ちになっているのも事実だ。
香澄に影響を受けて、SNSなどでコスメを検索すると、インフルエンサーによるメイク動画や新作紹介投稿が出てくる。
自撮りして投稿する女性たちは、ぱっちり二重で鼻筋の通った美人だ。
アイプチを使ってメイク動画を投稿している人の素顔はは、確かに地味かもしれない。
けれど麻衣は「痩せてるから、顔さえ作ってしまえば美人になるよね」とひねくれた思いを抱いてしまう。
『可愛くなる努力をしている人には、恋人や旦那さんがいる。私にはそんな人はいない』
興味を持つくせに相手を否定し、言い訳して努力しない自分を情けなく思っていた。
佑の本には『自分を好きになるためにはどうすればいいか』が書いてあり、そうなれたらと心の底から願っている。
けれど鏡を見ると、むちっとした下ぶくれのフェイスラインに、丸い体の輪郭、凡庸な顔立ちの自分がいて、溜め息しか出ない。
それなのにマティアスとデートすると、急に〝女〟を出して小食ぶる自分がいる。
そんな浅ましい自分を見透かされた気がして、カーッと赤面した。
けれど彼は決して馬鹿にしない。
「何が食べたい? どれを『美味しそう』だと思う? お互い好きな物を食べて笑顔になろう。〝遠慮〟はいらない」
真面目に聞いてくるマティアスを見て、不思議な気持ちなった。
(どうしてこの人は、嫌な顔一つしないで面倒な私に向き合おうとするんだろう)
香澄は麻衣のすべてを受け入れ、肯定してくれる特別な人だ。
コンプレックスも分かっていて、解決するためならいつでも協力すると言ってくれるし、愚痴も聞いてくれる。決して何かを無理強いしない。
だが麻衣は香澄以外の友人には、あまり自分の弱さを見せない。
気まずくなる話題は出さず〝いつも明るい人〟でいようと努力している。
友人たちも分かってくれていて、嫌な事は言わないし、返事に困る事も聞かない。
だがマティアスは麻衣のコンプレックスに触れ、「気にするな」と言ってくる。
マティアスと一緒にいると、価値観が変わってきそうで少し怖い。
ぼんやりしていると、チュッとキスをされた。
「わっ」
驚いたあまりテーブルをガタッと動かしてしまい、周りから一瞬注目を浴びる。
またマティアスの前で、自分の弱い部分を晒してしまった。
あまりに恥ずかしくて、声が少し震えてしまう。
俯いていると、向かいに座っていたマティアスが立ち、麻衣の隣に座った。
「えっ!? えっ……」
皆の前で触れられるのかと思い、麻衣はとっさに立とうとした。
だが腕を引っ張られ、座らされた。
マティアスは麻衣の両腕をしっかり掴み、まっすぐ見つめてくる。
「好きな物を食え」
短く言われ、ドキンッと心臓が跳ね上がった。
「〝周り〟とか〝皆〟とか、そんなものを気にするな。今マイとデートしているのは俺だ。俺はマイが喜ぶ顔を見たい。なのにマイはどうして名前も知らない奴らに遠慮するんだ?」
じわっ……と喜びが胸の奥から溢れてくる。
涙ぐんだ麻衣に、マティアスはさらに言う。
「ドイツの女性は遠慮しないぞ。大きなジョッキで好きなだけビールを飲む。肉を食べてソーセージをたらふく食べて、でかい口を開いて豪快に笑う。誰にも遠慮しない。体が大きかろうが痩せていようが、好きな物を食べる」
「でも……ドイツの女性って痩せててモデルさんみたいじゃないの?」
「個人差がある。日本でもそうだろう? 誰かに遠慮して食べるのを遠慮して、何が楽しい? 人生は長いようで短い。食べる事が好きなら、好きな物を食べて過ごせ。誰かのために痩せようと思わなくていい。いつか『痩せたい』と思ったなら、その時に頑張ればいい。だが俺や他人のために遠慮するな」
マティアスの言葉が、胸の奥に染みこんでいく。
麻衣は痩せている友達を「可愛い」と思い、香澄は自分の推しだと思っている。
羨ましいと思う気持ちがあるのは否めないが、大好きな友達には幸せになってほしいと本気で思っている。
逆に有名人や、SNSに出てくる自撮り女子を見て、冷めた気持ちになっているのも事実だ。
香澄に影響を受けて、SNSなどでコスメを検索すると、インフルエンサーによるメイク動画や新作紹介投稿が出てくる。
自撮りして投稿する女性たちは、ぱっちり二重で鼻筋の通った美人だ。
アイプチを使ってメイク動画を投稿している人の素顔はは、確かに地味かもしれない。
けれど麻衣は「痩せてるから、顔さえ作ってしまえば美人になるよね」とひねくれた思いを抱いてしまう。
『可愛くなる努力をしている人には、恋人や旦那さんがいる。私にはそんな人はいない』
興味を持つくせに相手を否定し、言い訳して努力しない自分を情けなく思っていた。
佑の本には『自分を好きになるためにはどうすればいいか』が書いてあり、そうなれたらと心の底から願っている。
けれど鏡を見ると、むちっとした下ぶくれのフェイスラインに、丸い体の輪郭、凡庸な顔立ちの自分がいて、溜め息しか出ない。
それなのにマティアスとデートすると、急に〝女〟を出して小食ぶる自分がいる。
そんな浅ましい自分を見透かされた気がして、カーッと赤面した。
けれど彼は決して馬鹿にしない。
「何が食べたい? どれを『美味しそう』だと思う? お互い好きな物を食べて笑顔になろう。〝遠慮〟はいらない」
真面目に聞いてくるマティアスを見て、不思議な気持ちなった。
(どうしてこの人は、嫌な顔一つしないで面倒な私に向き合おうとするんだろう)
香澄は麻衣のすべてを受け入れ、肯定してくれる特別な人だ。
コンプレックスも分かっていて、解決するためならいつでも協力すると言ってくれるし、愚痴も聞いてくれる。決して何かを無理強いしない。
だが麻衣は香澄以外の友人には、あまり自分の弱さを見せない。
気まずくなる話題は出さず〝いつも明るい人〟でいようと努力している。
友人たちも分かってくれていて、嫌な事は言わないし、返事に困る事も聞かない。
だがマティアスは麻衣のコンプレックスに触れ、「気にするな」と言ってくる。
マティアスと一緒にいると、価値観が変わってきそうで少し怖い。
ぼんやりしていると、チュッとキスをされた。
「わっ」
驚いたあまりテーブルをガタッと動かしてしまい、周りから一瞬注目を浴びる。
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