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第十九部・マティアスと麻衣 編

同じのにする

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「少し落ち着ける場所で話そうか。座れる所がいい」

 そう言ったあと、マティアスは進行方向を変えた。

「このまま公園の中に入ると、冷たいベンチしかないから、一度戻ろう」

 そして原宿駅まで戻り、駅の近くにあるカフェに入った。

「な……何か、ごめん……。そこまで大した話じゃないんだけど……」

「いや。俺たちの未来についてなら、十分大事な話だ。暖かい場所で落ち着いて話そう」

 マティアスはホールスタッフに「二名だ」と告げ、奥にあるお洒落なソファ席に案内される。

 店内は落ち着いたウッド調で統一されていた。
 天井からはシャンデリアが下がり、大きな白い窓枠は洋館を思わせる。

 二人が案内された席は、重厚感のある茶色い革張りのソファ席だ。

 店内には他にも椅子席、カウンター席もある。

 カウンターでは間接照明がグラスホルダーのワイングラスを照らし、大人な雰囲気を醸しだしていた。

 席まで案内される間、いかにも東京の若者という男女が席についているのを見て、居心地が悪くなる。

(釣り合ってないって思われてるんだろうな)

 誰も何も言っていないのに、そう思ってしまう。

 だがほぼやけくそで「私、この人と結婚するんだもんね!」とキレ気味になっていた。

 本当は誰も自分たちの事など気にしていないかもしれないのに、勝手に被害妄想を感じてしまうのは、我ながら闇が深い。

 溜め息をつくと水とメニューが出され、マティアスが麻衣にメニューを見せてくる。

「丁度いい時間だし、ランチを食べようか」

 言われて腕時計を見ると、確かに昼時だ。

「ふ、二人で見よう」

 麻衣はそう言って、メニューを二人で見られる角度にする。

「マイは優しいな」

「そんな事ないです。普通」

 友達とも家族ともこうしているので普通なのだが、マティアスに言われると恥ずかしい。

「基本的なランチメニューはおかずを三品選ぶみたいですね。ドリアランチもあるけど……選べるほうがいいかな」

 麻衣はそう言いながら選べるメニューを見て、心の中で「うっ……」となる。

(選択式になると、ガッツリした料理を選びたくなるけど……。サラダとか選んだほうが女子っぽいのかな。ただでさえ太ってるのに、肉ばっかりとか、沢山食べるとか思われたらやだな……)

 悩んでいるうちに、マティアスは肉料理と魚料理、サラダを選んだ。

「……お、……同じの……に、する……」

 小さい声で言うと、マティアスは怪訝そうにこちらを見てくる。

「俺と好みが一緒だと思っていいんだろうか? それとも合わせてくれているのか?」

 黙っていると、マティアスは少し考えたあとに言う。

「俺は好きな物を頼んだから、マイも好きな物を頼むといい。こういうのは好きな物を頼めから嬉しいんだろう?」

「で、でも……」

 チラッと近くのテーブルを見ると、痩せたお洒落な女の子がサラダを食べている。

(きっと美容やカロリーに気を遣っているんだろうな)

 そう思うと、もっと恥ずかしくなった。

「……じゃあ、シーザーサラダと、生ハムサラダと、さわらのレモンソース……で」

「草ばっかりだな」

 そう言われ、「草って」と笑ってしまった。

 そんな麻衣の顔を、マティアスが覗き込んでくる。

「本当に食べたい物か? 食べたい物がないなら、別の店に行ってもいい。まだオーダーしていないから、店に迷惑は掛からないだろう」

「い、いえ」

 うろたえる麻衣に、マティアスは言葉を続ける。

「マイはカスミと一緒にいる時、肉やラーメンが好きだと言っていた。一緒に出かけた時も、肉をうまそうに食べていた。でも今のマイは、食べる事を遠慮しているようだ。選ぶのが苦手か?」

「そんな事……」

 そのタイミングで、グウウ……、とお腹が鳴ってしまった。
 店内BGMと人の話し声で聞こえなかったと思いたいが、とっさに両手でお腹を押さえる。

 マティアスはしばらく麻衣を見つめていたが、淡々と言った。

「俺はエスパーではないから、マイが何を考えているか分からない。遠慮しないで思っている事を素直に言ってほしい。俺にも周りにも気を遣わなくていい。マイが遠慮や無理をしても、俺は察してやる事ができない。結果的に違和感を覚えて、隠し事をされている気持ちになる」

 それもそうだと思った麻衣は、赤面しながら説明した。
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