1,211 / 1,544
第十九部・マティアスと麻衣 編
日本好きの入り口
しおりを挟む
「すっごい人ですね」
原宿駅の西口から出た麻衣は、溜め息をつく。
「山手線って有名だから、実は乗るの夢だったんです。でもやっぱり東京の電車ってめちゃくちゃ込んでたな……」
目の前には代々木公園の緑が広がっているが、観光地なのと新年で人が多い。
マティアスには「はぐれたら困るから」と手を握られ、恥ずかしい。
麻衣は勿論、男性とデートをした事がないし、手を繋いだ事もない。
(手汗かきそう……)
意識すると余計に汗をかきそうだったので、緑を見て気持ちを癒やす事にした。
「東京の中にもこういう癒やしスポットがあるって、ちょっと意外でした。勝手なイメージで、ビルしかないと思ってたので。や、でっかい公園があるとか知識では知ってたんですが、実際に来てみると違いますね」
「そうだな。俺も長年日本に憧れていたが、実際に来てみると、百聞は一見にしかずだと思った事は多い」
「日本好きの入り口って何だったんですか?」
「……そうだな。最初はアロクラが紹介してくれた〝かなまら祭り〟だった」
「ぶふぉっ!!」
麻衣は盛大に噴き出し、あやうく鼻水を出しかける。
かなまら祭りと言えば、知らない人はまったく知らない祭りだ。
だがそのご神体や祭りの性質から、一度覚えたら忘れられない奇祭でもある。
神奈川県にある神社で行われる祭りで、もともとは江戸時代の遊女が、性病除や商売繁盛について願掛けをした祭りが発端らしい。
現在では商売繁盛、子孫繁栄、子授け、安産、縁結び、夫婦和合を願って、ピンク色をした巨大な男根を模した神輿を担ぎ、屋台でも男性器の形の飴が出されるようだ。
(私も深夜のバラエティ番組で知って大爆笑したもんなぁ。そのあともちょっとネットで調べたっけ)
その時は香澄にも話して、ネタにして笑って終わり……だったのだが。
まさかここでマティアスが口に出すとは思わなかった。
「知っているのか? マイ」
「え? いやぁ……あー……、テ、テレビでちょっとやってて……」
あの祭りを堂々と「知ってる」とは言いづらい。
「そうか。興味があるからいつか二人でいかないか?」
「え……えぇ……? べ……別にいいですけど……」
デートに誘われたかと思ったら、かなまら祭り。
果たしてこれは喜ぶべき事なのだろうか。
(この人、『珍宝館』とか知ったら興味津々で行きたがるだろうな)
麻衣はバラエティ番組で紹介されていた、群馬の〝大人のテーマパーク〟を思いだし、笑いそうになって唇を歪める。
(けど、伊香保温泉がすぐ近くみたいだから、アリって言えばアリかな)
ズレたマティアスを相手にしていると、デートコースまでズレてしまう。
ロマンチックにしようと思うとうまくいかず、予想外な時に距離を詰めてくる男だ。
(まぁ、いっか。他のカップルと比べるもんじゃないよね。そもそも見た目からデコボコカップルだし)
考えながら歩いていると、マティアスが自分を見つめているのに気付いた。
「何か?」
「いや。これから一緒に過ごせるのだと思うと、嬉しい」
彼は真顔でいきなり甘い言葉をぶっ込んでくる。
「うっ……。そ、そりゃあ、う、うん……。楽しいデートになるよう、お互い努力しましょう」
「いや、それもそうだが、これから札幌に行って住まいを探すだろう? 仕事も目処がついたし、楽しい未来があるってワクワクするものだなと思って」
(それ、ワクワクしてる顔!?)
心の中で突っ込みつつ、口では別の事に突っ込みを入れる。
「えっ!? し、仕事、もう探したんですか?」
(行動が早すぎる!)
麻衣はマティアスを見て、思わず足を止める。
「カイから誘いを受けて、Chief Everyに入社する事にした。最初は店長からだが、ちゃんと稼げるように努力する」
「えっ…………、と……」
まだ何も話していないのに、マティアスは色々決めてしまったようだ。
(どうしよう……)
立ち止まっていると、マティアスが目線を合わせて尋ねてくる。
「まずかったか?」
「や……。その……」
一度決めてしまったなら、撤回すれば佑にも迷惑を掛ける。
(もっと早く自分の意見を言っておけば良かった)
そう思っても、まさかこんな短期間に仕事を決めるとは思わなかった。
原宿駅の西口から出た麻衣は、溜め息をつく。
「山手線って有名だから、実は乗るの夢だったんです。でもやっぱり東京の電車ってめちゃくちゃ込んでたな……」
目の前には代々木公園の緑が広がっているが、観光地なのと新年で人が多い。
マティアスには「はぐれたら困るから」と手を握られ、恥ずかしい。
麻衣は勿論、男性とデートをした事がないし、手を繋いだ事もない。
(手汗かきそう……)
意識すると余計に汗をかきそうだったので、緑を見て気持ちを癒やす事にした。
「東京の中にもこういう癒やしスポットがあるって、ちょっと意外でした。勝手なイメージで、ビルしかないと思ってたので。や、でっかい公園があるとか知識では知ってたんですが、実際に来てみると違いますね」
「そうだな。俺も長年日本に憧れていたが、実際に来てみると、百聞は一見にしかずだと思った事は多い」
「日本好きの入り口って何だったんですか?」
「……そうだな。最初はアロクラが紹介してくれた〝かなまら祭り〟だった」
「ぶふぉっ!!」
麻衣は盛大に噴き出し、あやうく鼻水を出しかける。
かなまら祭りと言えば、知らない人はまったく知らない祭りだ。
だがそのご神体や祭りの性質から、一度覚えたら忘れられない奇祭でもある。
神奈川県にある神社で行われる祭りで、もともとは江戸時代の遊女が、性病除や商売繁盛について願掛けをした祭りが発端らしい。
現在では商売繁盛、子孫繁栄、子授け、安産、縁結び、夫婦和合を願って、ピンク色をした巨大な男根を模した神輿を担ぎ、屋台でも男性器の形の飴が出されるようだ。
(私も深夜のバラエティ番組で知って大爆笑したもんなぁ。そのあともちょっとネットで調べたっけ)
その時は香澄にも話して、ネタにして笑って終わり……だったのだが。
まさかここでマティアスが口に出すとは思わなかった。
「知っているのか? マイ」
「え? いやぁ……あー……、テ、テレビでちょっとやってて……」
あの祭りを堂々と「知ってる」とは言いづらい。
「そうか。興味があるからいつか二人でいかないか?」
「え……えぇ……? べ……別にいいですけど……」
デートに誘われたかと思ったら、かなまら祭り。
果たしてこれは喜ぶべき事なのだろうか。
(この人、『珍宝館』とか知ったら興味津々で行きたがるだろうな)
麻衣はバラエティ番組で紹介されていた、群馬の〝大人のテーマパーク〟を思いだし、笑いそうになって唇を歪める。
(けど、伊香保温泉がすぐ近くみたいだから、アリって言えばアリかな)
ズレたマティアスを相手にしていると、デートコースまでズレてしまう。
ロマンチックにしようと思うとうまくいかず、予想外な時に距離を詰めてくる男だ。
(まぁ、いっか。他のカップルと比べるもんじゃないよね。そもそも見た目からデコボコカップルだし)
考えながら歩いていると、マティアスが自分を見つめているのに気付いた。
「何か?」
「いや。これから一緒に過ごせるのだと思うと、嬉しい」
彼は真顔でいきなり甘い言葉をぶっ込んでくる。
「うっ……。そ、そりゃあ、う、うん……。楽しいデートになるよう、お互い努力しましょう」
「いや、それもそうだが、これから札幌に行って住まいを探すだろう? 仕事も目処がついたし、楽しい未来があるってワクワクするものだなと思って」
(それ、ワクワクしてる顔!?)
心の中で突っ込みつつ、口では別の事に突っ込みを入れる。
「えっ!? し、仕事、もう探したんですか?」
(行動が早すぎる!)
麻衣はマティアスを見て、思わず足を止める。
「カイから誘いを受けて、Chief Everyに入社する事にした。最初は店長からだが、ちゃんと稼げるように努力する」
「えっ…………、と……」
まだ何も話していないのに、マティアスは色々決めてしまったようだ。
(どうしよう……)
立ち止まっていると、マティアスが目線を合わせて尋ねてくる。
「まずかったか?」
「や……。その……」
一度決めてしまったなら、撤回すれば佑にも迷惑を掛ける。
(もっと早く自分の意見を言っておけば良かった)
そう思っても、まさかこんな短期間に仕事を決めるとは思わなかった。
12
お気に入りに追加
2,511
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる