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第十九部・マティアスと麻衣 編
大人の選択
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「いやぁ……。マティアスさん、私と一緒になるって言ってくれてるじゃない。どこで働くつもりか分からないけど、札幌にきたら東京ほど稼げないと思うんだよね。彼の今までの収入を考えると、申し訳ないなって思って」
「ん……、分かる。佑さんたちに比べるとマティアスさんは一般人の部類だけど、財力は凄くあると思う。資産があって生活に困らないとはいえ、自分に合わせる事で収入が落ちたら……って、申し訳なくなる気持ちは分かるよ」
お互い札幌出身なので、故郷を悪く言うつもりはない。
けれど札幌にいたからこそ、地方都市ならではの欠点も自覚しているつもりだ。
東京にあって札幌にはないものは沢山ある。
全国放送の番組でよく聞く百貨店も、札幌にはない。
新規事業のChief Everyカフェも、当分は東京中心で展開して、今後の収益が見込めそうなら地方に展開を……となるのが普通だ。
他の企業の色んな店舗も、ほとんど同じ戦略をとっているだろう。
イベントだって東京、大阪ではするけれど、他の都市では開催されないものは多い。
アーティストだって、集客や確保できる金額を考え、東京、大阪にしか来ない場合もある。
美味しいものだって、人が大勢集まる東京だから、色んな種類のものが沢山ある。
勿論、札幌にも美味しいものはあるが、母数となる人口や店の数が違う。
そもそも、東京は最低賃金は一番高い。
マティアスはこだわらない性格をしているし、資産だって相当あるようだから、どんな仕事をしても生活には困らないだろう。
そうであっても、麻衣が申し訳なく思う気持ちは十分すぎるほど分かる。
「だから『私が東京で暮らしたら解決するのかな?』って思ったんだ。もちろん私だって再就職だし、お互いすべてが順調になる訳じゃないけど」
思っただけだとしても、麻衣の気持ちの変化が嬉しい。
「東京に来ると私がいるよ! 麻衣に何かあったら、すぐに駆けつけていつでも話を聞けるよ。再就職も、家探しも手伝う!」
「香澄だって私に側にいてほしいんでしょ?」
「うん。私たち、両想いだもん」
笑い合い、香澄はゴロゴロ転がって麻衣にぴったりと体をつける。
麻衣は仰向けになったまま、ぼんやりと言った。
「……私、社会人になって一人暮らしして、車であちこち行って、大人になっていたつもりだった。でもまだ気持ちが子供のままだったかもしれない。大学進学で本州に行った友達はいるし、結婚で札幌を出た子もいる。『私は札幌で十分だし』って自分に言い聞かせていたけど、結局は地元を離れるのが恐かっただけかもしれない。香澄が好きな人を見つけて身軽に東京に行ったのを見て、『私は……』って改めて思い直した」
麻衣の言葉を聞き、香澄は必死にフォローする。
「私だって家族が大好きだし、本当は札幌にいたい。麻衣が抱いてる気持ちは、子供とかじゃないよ」
「……でも香澄は〝選んだ〟んでしょう? 私から見ると大人の選択に思える」
佑の手をとったのは事実なので、香澄は「うん……」と頷く。
「私、最初は香澄に捨てられた気がして寂しかった。でも、今なら分かるよ。友達は友達で、好きな人は好きな人。一生側にいてくれるって言っても、女友達と恋人は違う。私は御劔さんの代わりになれないし、御劔さんは私の代わりになれない。それをすっごい理解した。だから、一時的にでも、少し恨んじゃって……ごめん」
素直に謝ってくれる麻衣に、香澄は微笑む。
「ううん。私も衝動的に札幌を出て、麻衣を裏切った気持ちになってずっと申し訳なく思ってた。私こそ、ごめんね」
お互いにギューッと抱き合い、ほんの少しだけ泣く。
「もし麻衣が本当に東京に来るなら協力したい」
「ありがとう。東京人の香澄がそう言ってくれるなら心強い」
「んふふ、まだペーペーだけどね」
笑い合ったあと、麻衣は溜め息混じりに言った。
「明日マティアスさんと出掛けるけど、考えてる事を言ってみる。彼なりに今後の事を考えていると思うけど、私の意見も言いたい。彼を選んで人生が変わるなら、住む場所とか色んなものが変わるのは当たり前。これからどうやったら二人で幸せになれるか、話し合ってみる」
「うん。決まったら教えて」
「ん!」
二人は手を繋いでから、また寄り添ってクスクス笑った。
**
「ん……、分かる。佑さんたちに比べるとマティアスさんは一般人の部類だけど、財力は凄くあると思う。資産があって生活に困らないとはいえ、自分に合わせる事で収入が落ちたら……って、申し訳なくなる気持ちは分かるよ」
お互い札幌出身なので、故郷を悪く言うつもりはない。
けれど札幌にいたからこそ、地方都市ならではの欠点も自覚しているつもりだ。
東京にあって札幌にはないものは沢山ある。
全国放送の番組でよく聞く百貨店も、札幌にはない。
新規事業のChief Everyカフェも、当分は東京中心で展開して、今後の収益が見込めそうなら地方に展開を……となるのが普通だ。
他の企業の色んな店舗も、ほとんど同じ戦略をとっているだろう。
イベントだって東京、大阪ではするけれど、他の都市では開催されないものは多い。
アーティストだって、集客や確保できる金額を考え、東京、大阪にしか来ない場合もある。
美味しいものだって、人が大勢集まる東京だから、色んな種類のものが沢山ある。
勿論、札幌にも美味しいものはあるが、母数となる人口や店の数が違う。
そもそも、東京は最低賃金は一番高い。
マティアスはこだわらない性格をしているし、資産だって相当あるようだから、どんな仕事をしても生活には困らないだろう。
そうであっても、麻衣が申し訳なく思う気持ちは十分すぎるほど分かる。
「だから『私が東京で暮らしたら解決するのかな?』って思ったんだ。もちろん私だって再就職だし、お互いすべてが順調になる訳じゃないけど」
思っただけだとしても、麻衣の気持ちの変化が嬉しい。
「東京に来ると私がいるよ! 麻衣に何かあったら、すぐに駆けつけていつでも話を聞けるよ。再就職も、家探しも手伝う!」
「香澄だって私に側にいてほしいんでしょ?」
「うん。私たち、両想いだもん」
笑い合い、香澄はゴロゴロ転がって麻衣にぴったりと体をつける。
麻衣は仰向けになったまま、ぼんやりと言った。
「……私、社会人になって一人暮らしして、車であちこち行って、大人になっていたつもりだった。でもまだ気持ちが子供のままだったかもしれない。大学進学で本州に行った友達はいるし、結婚で札幌を出た子もいる。『私は札幌で十分だし』って自分に言い聞かせていたけど、結局は地元を離れるのが恐かっただけかもしれない。香澄が好きな人を見つけて身軽に東京に行ったのを見て、『私は……』って改めて思い直した」
麻衣の言葉を聞き、香澄は必死にフォローする。
「私だって家族が大好きだし、本当は札幌にいたい。麻衣が抱いてる気持ちは、子供とかじゃないよ」
「……でも香澄は〝選んだ〟んでしょう? 私から見ると大人の選択に思える」
佑の手をとったのは事実なので、香澄は「うん……」と頷く。
「私、最初は香澄に捨てられた気がして寂しかった。でも、今なら分かるよ。友達は友達で、好きな人は好きな人。一生側にいてくれるって言っても、女友達と恋人は違う。私は御劔さんの代わりになれないし、御劔さんは私の代わりになれない。それをすっごい理解した。だから、一時的にでも、少し恨んじゃって……ごめん」
素直に謝ってくれる麻衣に、香澄は微笑む。
「ううん。私も衝動的に札幌を出て、麻衣を裏切った気持ちになってずっと申し訳なく思ってた。私こそ、ごめんね」
お互いにギューッと抱き合い、ほんの少しだけ泣く。
「もし麻衣が本当に東京に来るなら協力したい」
「ありがとう。東京人の香澄がそう言ってくれるなら心強い」
「んふふ、まだペーペーだけどね」
笑い合ったあと、麻衣は溜め息混じりに言った。
「明日マティアスさんと出掛けるけど、考えてる事を言ってみる。彼なりに今後の事を考えていると思うけど、私の意見も言いたい。彼を選んで人生が変わるなら、住む場所とか色んなものが変わるのは当たり前。これからどうやったら二人で幸せになれるか、話し合ってみる」
「うん。決まったら教えて」
「ん!」
二人は手を繋いでから、また寄り添ってクスクス笑った。
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