【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第十九部・マティアスと麻衣 編

佑の闇のあるモテ遍歴

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「っそ、そうじゃ……っ。……うー、……う……妬いてる……かも……」

 反抗しつつも素直に肯定した香澄を見て、佑はクツクツと笑う。

「高校生の恋愛なんて、ままごとみたいなもんだよ。俺は恋愛より趣味を優先したし、早い内に進路を決めた。目標に向かって邁進するのに必死で、女の子の事はほとんど考えていなかった」

 佑はスカートを確認して満足し、ビニールを被せてソファの背もたれに置く。

「でも、モテたでしょ? 告白とかされた? クラスの目立つ系グループとかにいたんでしょう? 卒業式にボタンがなくなったりとか……」

「やけに興味津々だな?」

 佑はクスクス笑い、トップスを探し始める。

「告白はされたよ。高一の頃に付き合った人がいたけど、別れたあとは告白されてもすべて断った。そのうち『告白しても駄目だ』って思われたんだろうな。呼び出される事もなくなった。そもそも俺は〝クォーター〟〝祖父がクラウザー社会長〟とか、色眼鏡で見られるのが嫌で堪らなかった。知ってる限り、俺に話しかけてきた子は、全員その話題を口にしたな。だからそういう子と付き合って時間を浪費するなら、自分のやりたい事を優先しようと思ったんだ」

 香澄は何とも言えず、黙る。

 もし先輩に佑のような人がいたら、絶対に憧れていただろう。

 それでも今なら言える事はある。

 学生時代に「格好いいな」と思った先輩の〝良さ〟は、結局記号的なものだった。

 目立っていた、バンドをしていた、スポーツができたとか、そんな理由が大半だ。

 今思うと、性格も分からないのに、よくもまぁキャーキャー言っていたなと思う。

 年上だから、自分よりずっと大人だと思い込んでいたのもあるだろう。

 けど大人になれば、たった二、三歳差で〝あの人は大人だ〟とは言いきれない。

 佑は五歳年上で有名人の富豪だが、香澄が関わった途端に残念な人になる。

 人は他人が思っているほど、大人ではない。

 佑の婚約者になったからこそ、一方的な想いを向けられ、理想像を押しつけられる迷惑さを分かっているつもりだ。

 香澄自身も、健二によって〝彼女とはこうあるべき〟という押しつけに苦しめられた。

「憧れって無責任な感情かもしれないね。相手が自分の理想と少しでも違っていると、『期待していたのと違った』って一方的に失望しちゃう」

「本当にそれだ。学生時代によく『そういう人だと思わなかった』って言われたな。『どう思ってたんだよ』って言いたくなる。勝手に〝御劔佑〟を作ってほしくなかった」

 彼の主張を理解しながらも、一方で……と思った事を言う。

「でも、学生時代から女の子に期待していなかったって……、悲しいね」

 すると、佑はフハッと笑う。

「香澄は俺にモテてほしいのか? そうじゃないのか?」

 佑はひとしきり笑ったあと、さっぱりとした表情で言う。

「特に寂しくはなかったよ。物心ついてからずっと『そういうもの』だと思ってた。〝御劔くんの取り合い〟も〝御劔くん協定〟も、早い段階に飽きた。俺は物じゃない」

(わあ……)

 そんな世界があるのか、と香澄は彼が抱えていた闇の深さを知る。

(こんなにねじ曲がった人になっても、仕方がないのかも)

「小学生高学年にはもう、モテたいって気持ちはなくなっていた。周りには『嫌み、自慢だ』って思われたけど、誕生日やバレンタインが憂鬱だった。大勢から贈り物をされても、全員にお返しをしないと不平等になるし、気持ちにも応えられない。お礼だけ言って何も返さずにいたら、『ケチ』と言われてつらかった。同性からもひがまれて、針のむしろだったよ」

「……なるほど」

 聞くだけでキツすぎる。

 クラスに必ず一人はモテる男子はいたが、そんな気持ちになっていたとは知らなかった。

 香澄は友達が好きな人に『プレゼントを渡すだけ渡したい』と言っていたのに協力していた側なので、佑の言葉を聞いて申し訳ない気持ちになった。

「思春期にはキスやセックスに興味を持った。……高一の頃かな」

「……まぁ、自然の流れだね。誰もが通る道だもん」

 自分にも思春期はあったし、香澄だってそういう事に興味を持った。
 その上で、大学生時代には健二と付き合ってする事はした。

 割り切っているはずなのに、どこかモヤモヤする。

「経験はしたけどハマらなかった。確かに気持ちいいけどそれだけだ。それに、一度体の関係を持つと、酷い言い方だけど『私のもの』扱いされて、自由が利かなくなった」

「ん……」

 香澄は曖昧に頷く。

 今、自分が彼を独占しているので、何と言ったらいいのか分からない。

 嫌がられている訳ではないのに、どこか落ち着かなく申し訳ない。

「起業した頃も性欲はあったけど、恋人がほしいとかモテたいとは思わなかった。自意識過剰だけど、恋人になったら相手の〝大切〟が俺だけになるのが怖かった。俺に恋をしたのが原因で、他はどうでも良くなって依存されたら、責任を取れないと思っていた。……俺は酷い男だよ」

 佑の言葉を聞いた香澄は、「等身大の男性だな」と安心した。

 この告白を聞いて、彼の事を「酷い男」なんて決して思わない。
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