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第十九部・マティアスと麻衣 編
佑の闇のあるモテ遍歴
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「っそ、そうじゃ……っ。……うー、……う……妬いてる……かも……」
反抗しつつも素直に肯定した香澄を見て、佑はクツクツと笑う。
「高校生の恋愛なんて、ままごとみたいなもんだよ。俺は恋愛より趣味を優先したし、早い内に進路を決めた。目標に向かって邁進するのに必死で、女の子の事はほとんど考えていなかった」
佑はスカートを確認して満足し、ビニールを被せてソファの背もたれに置く。
「でも、モテたでしょ? 告白とかされた? クラスの目立つ系グループとかにいたんでしょう? 卒業式にボタンがなくなったりとか……」
「やけに興味津々だな?」
佑はクスクス笑い、トップスを探し始める。
「告白はされたよ。高一の頃に付き合った人がいたけど、別れたあとは告白されてもすべて断った。そのうち『告白しても駄目だ』って思われたんだろうな。呼び出される事もなくなった。そもそも俺は〝クォーター〟〝祖父がクラウザー社会長〟とか、色眼鏡で見られるのが嫌で堪らなかった。知ってる限り、俺に話しかけてきた子は、全員その話題を口にしたな。だからそういう子と付き合って時間を浪費するなら、自分のやりたい事を優先しようと思ったんだ」
香澄は何とも言えず、黙る。
もし先輩に佑のような人がいたら、絶対に憧れていただろう。
それでも今なら言える事はある。
学生時代に「格好いいな」と思った先輩の〝良さ〟は、結局記号的なものだった。
目立っていた、バンドをしていた、スポーツができたとか、そんな理由が大半だ。
今思うと、性格も分からないのに、よくもまぁキャーキャー言っていたなと思う。
年上だから、自分よりずっと大人だと思い込んでいたのもあるだろう。
けど大人になれば、たった二、三歳差で〝あの人は大人だ〟とは言いきれない。
佑は五歳年上で有名人の富豪だが、香澄が関わった途端に残念な人になる。
人は他人が思っているほど、大人ではない。
佑の婚約者になったからこそ、一方的な想いを向けられ、理想像を押しつけられる迷惑さを分かっているつもりだ。
香澄自身も、健二によって〝彼女とはこうあるべき〟という押しつけに苦しめられた。
「憧れって無責任な感情かもしれないね。相手が自分の理想と少しでも違っていると、『期待していたのと違った』って一方的に失望しちゃう」
「本当にそれだ。学生時代によく『そういう人だと思わなかった』って言われたな。『どう思ってたんだよ』って言いたくなる。勝手に〝御劔佑〟を作ってほしくなかった」
彼の主張を理解しながらも、一方で……と思った事を言う。
「でも、学生時代から女の子に期待していなかったって……、悲しいね」
すると、佑はフハッと笑う。
「香澄は俺にモテてほしいのか? そうじゃないのか?」
佑はひとしきり笑ったあと、さっぱりとした表情で言う。
「特に寂しくはなかったよ。物心ついてからずっと『そういうもの』だと思ってた。〝御劔くんの取り合い〟も〝御劔くん協定〟も、早い段階に飽きた。俺は物じゃない」
(わあ……)
そんな世界があるのか、と香澄は彼が抱えていた闇の深さを知る。
(こんなにねじ曲がった人になっても、仕方がないのかも)
「小学生高学年にはもう、モテたいって気持ちはなくなっていた。周りには『嫌み、自慢だ』って思われたけど、誕生日やバレンタインが憂鬱だった。大勢から贈り物をされても、全員にお返しをしないと不平等になるし、気持ちにも応えられない。お礼だけ言って何も返さずにいたら、『ケチ』と言われてつらかった。同性からもひがまれて、針のむしろだったよ」
「……なるほど」
聞くだけでキツすぎる。
クラスに必ず一人はモテる男子はいたが、そんな気持ちになっていたとは知らなかった。
香澄は友達が好きな人に『プレゼントを渡すだけ渡したい』と言っていたのに協力していた側なので、佑の言葉を聞いて申し訳ない気持ちになった。
「思春期にはキスやセックスに興味を持った。……高一の頃かな」
「……まぁ、自然の流れだね。誰もが通る道だもん」
自分にも思春期はあったし、香澄だってそういう事に興味を持った。
その上で、大学生時代には健二と付き合ってする事はした。
割り切っているはずなのに、どこかモヤモヤする。
「経験はしたけどハマらなかった。確かに気持ちいいけどそれだけだ。それに、一度体の関係を持つと、酷い言い方だけど『私のもの』扱いされて、自由が利かなくなった」
「ん……」
香澄は曖昧に頷く。
今、自分が彼を独占しているので、何と言ったらいいのか分からない。
嫌がられている訳ではないのに、どこか落ち着かなく申し訳ない。
「起業した頃も性欲はあったけど、恋人がほしいとかモテたいとは思わなかった。自意識過剰だけど、恋人になったら相手の〝大切〟が俺だけになるのが怖かった。俺に恋をしたのが原因で、他はどうでも良くなって依存されたら、責任を取れないと思っていた。……俺は酷い男だよ」
佑の言葉を聞いた香澄は、「等身大の男性だな」と安心した。
この告白を聞いて、彼の事を「酷い男」なんて決して思わない。
反抗しつつも素直に肯定した香澄を見て、佑はクツクツと笑う。
「高校生の恋愛なんて、ままごとみたいなもんだよ。俺は恋愛より趣味を優先したし、早い内に進路を決めた。目標に向かって邁進するのに必死で、女の子の事はほとんど考えていなかった」
佑はスカートを確認して満足し、ビニールを被せてソファの背もたれに置く。
「でも、モテたでしょ? 告白とかされた? クラスの目立つ系グループとかにいたんでしょう? 卒業式にボタンがなくなったりとか……」
「やけに興味津々だな?」
佑はクスクス笑い、トップスを探し始める。
「告白はされたよ。高一の頃に付き合った人がいたけど、別れたあとは告白されてもすべて断った。そのうち『告白しても駄目だ』って思われたんだろうな。呼び出される事もなくなった。そもそも俺は〝クォーター〟〝祖父がクラウザー社会長〟とか、色眼鏡で見られるのが嫌で堪らなかった。知ってる限り、俺に話しかけてきた子は、全員その話題を口にしたな。だからそういう子と付き合って時間を浪費するなら、自分のやりたい事を優先しようと思ったんだ」
香澄は何とも言えず、黙る。
もし先輩に佑のような人がいたら、絶対に憧れていただろう。
それでも今なら言える事はある。
学生時代に「格好いいな」と思った先輩の〝良さ〟は、結局記号的なものだった。
目立っていた、バンドをしていた、スポーツができたとか、そんな理由が大半だ。
今思うと、性格も分からないのに、よくもまぁキャーキャー言っていたなと思う。
年上だから、自分よりずっと大人だと思い込んでいたのもあるだろう。
けど大人になれば、たった二、三歳差で〝あの人は大人だ〟とは言いきれない。
佑は五歳年上で有名人の富豪だが、香澄が関わった途端に残念な人になる。
人は他人が思っているほど、大人ではない。
佑の婚約者になったからこそ、一方的な想いを向けられ、理想像を押しつけられる迷惑さを分かっているつもりだ。
香澄自身も、健二によって〝彼女とはこうあるべき〟という押しつけに苦しめられた。
「憧れって無責任な感情かもしれないね。相手が自分の理想と少しでも違っていると、『期待していたのと違った』って一方的に失望しちゃう」
「本当にそれだ。学生時代によく『そういう人だと思わなかった』って言われたな。『どう思ってたんだよ』って言いたくなる。勝手に〝御劔佑〟を作ってほしくなかった」
彼の主張を理解しながらも、一方で……と思った事を言う。
「でも、学生時代から女の子に期待していなかったって……、悲しいね」
すると、佑はフハッと笑う。
「香澄は俺にモテてほしいのか? そうじゃないのか?」
佑はひとしきり笑ったあと、さっぱりとした表情で言う。
「特に寂しくはなかったよ。物心ついてからずっと『そういうもの』だと思ってた。〝御劔くんの取り合い〟も〝御劔くん協定〟も、早い段階に飽きた。俺は物じゃない」
(わあ……)
そんな世界があるのか、と香澄は彼が抱えていた闇の深さを知る。
(こんなにねじ曲がった人になっても、仕方がないのかも)
「小学生高学年にはもう、モテたいって気持ちはなくなっていた。周りには『嫌み、自慢だ』って思われたけど、誕生日やバレンタインが憂鬱だった。大勢から贈り物をされても、全員にお返しをしないと不平等になるし、気持ちにも応えられない。お礼だけ言って何も返さずにいたら、『ケチ』と言われてつらかった。同性からもひがまれて、針のむしろだったよ」
「……なるほど」
聞くだけでキツすぎる。
クラスに必ず一人はモテる男子はいたが、そんな気持ちになっていたとは知らなかった。
香澄は友達が好きな人に『プレゼントを渡すだけ渡したい』と言っていたのに協力していた側なので、佑の言葉を聞いて申し訳ない気持ちになった。
「思春期にはキスやセックスに興味を持った。……高一の頃かな」
「……まぁ、自然の流れだね。誰もが通る道だもん」
自分にも思春期はあったし、香澄だってそういう事に興味を持った。
その上で、大学生時代には健二と付き合ってする事はした。
割り切っているはずなのに、どこかモヤモヤする。
「経験はしたけどハマらなかった。確かに気持ちいいけどそれだけだ。それに、一度体の関係を持つと、酷い言い方だけど『私のもの』扱いされて、自由が利かなくなった」
「ん……」
香澄は曖昧に頷く。
今、自分が彼を独占しているので、何と言ったらいいのか分からない。
嫌がられている訳ではないのに、どこか落ち着かなく申し訳ない。
「起業した頃も性欲はあったけど、恋人がほしいとかモテたいとは思わなかった。自意識過剰だけど、恋人になったら相手の〝大切〟が俺だけになるのが怖かった。俺に恋をしたのが原因で、他はどうでも良くなって依存されたら、責任を取れないと思っていた。……俺は酷い男だよ」
佑の言葉を聞いた香澄は、「等身大の男性だな」と安心した。
この告白を聞いて、彼の事を「酷い男」なんて決して思わない。
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