1,204 / 1,559
第十九部・マティアスと麻衣 編
保管庫のフロア
しおりを挟む
「あの……」
そのタイミングで話し掛けると、佑が「ん?」とこちらを見た。
「麻衣たちが駅近くのカフェにいるそうなんです。そちらでランチを一緒に食べたいなと思いまして……」
会社にいるのにプライベートの話をすると、変な感じがする。
とはいえ、運転手に連絡する関係もあるので、早めに言っておかなくてはいけない。
「じゃあそちらに行こうか。小金井さんには俺から連絡しておく」
そう言って佑はスマホでメッセージを打ち、「今日の仕事は終わり」と言ってコートを羽織った。
「秘書室は?」
「お二人とも退勤しました」
「そうか。じゃあ俺たちも出よう」
二人は社長室を出て、専用エレベーターに乗る。
「多分、麻衣とマティアスさんは、明日デートするんじゃないかと思います」
「そうか。そんな話も……」
エレベーターの中で話をしていると、佑が三十一階のボタンを押した。
(ん?)
その階は、今まで止まった事のないフロアだ。
三十二階は佑のマンションで、三十一階は服の保管庫になっていると聞いた。
「少し付き合ってくれ。麻衣さんにエールを送りたい」
「はい!」
麻衣の応援になるのならと、香澄は元気に返事をする。
三十一階に着き、佑はカードキーでドアを開け、「どうぞ」と香澄を招き入れる。
彼はスリッパを出し、自分と香澄の分を床に置く。
「定期的に掃除をしてもらっているけど、ここで生活している訳じゃないから、多少汚れているかもしれない」
「構わないよ。……それにしても、このフロアは初めてかも……」
オフィスから出たので、香澄は口調を変える。
「機会がなくて、ここに連れて来てなかったよな。倉庫みたいなものなんだ」
奥に進むと、三十二階のマンションとは違う、巨大なスペースが開けた。
「わ……」
ワンフロアすべてぶち抜きではないが、リビングダイニングが五十畳では済まない広さがある。
だだっぴろい空間にはソファやテーブルがあり、キッチンなどもちゃんとある。
だがその他はトルソーがズラリと並び、制作途中、完成品の服が着せられていた。
「今は白金台の家をメインにしているから、マンションには松井さんたちぐらいしか入らないんじゃないかな。特にこのフロアは趣味の空間だから、人を入れた事はない」
佑が自主制作した服は、コストの掛かってそうな凝ったデザインが多い。
メンズもあればレディースもある。
中にはウエディングドレスもあって、「誰に着せようと思って作ったんだろう……」と思うと、胸がチクンとした。
「綺麗なドレスもあるね。服も格好いいのから可愛いのから、綺麗系まで……」
触らないように距離を置いて眺めていると、佑は「全部試作品だよ」と言う。
「服を作れるって凄いね。私、ボタンをつけるので精一杯。実家にミシンはあるけど、自分で裾上げとかした事ないかも」
香澄は家庭科の時間で使ったまち針や、印をつけるためのチャコペンを思い出し、「懐かしいなぁ」と微笑む。
「俺は学生時代から興味があったかな」
「お洒落に興味のある少年だったの?」
「そう……と言えるのかな。手芸屋に行って材料の値段を見たり、縫製の本を買って勉強した。自分で自分の服を作っていたけど、最初はへたくそで母に笑われていたな」
「まだあるの? 最初の作品」
佑はハンガーに掛かっている沢山の服の中から、何かを探している。
「捨ててしまった物もあるし、気に入った服は取ってある」
「当時作っていたのは自分用だけ?」
「原点は自分用。そのうち友人に『いいな』って言われるようになって、材料費と少しの手間賃をもらって作るようになった。レディースは少し遅れてから。とにかく沢山雑誌を見て、専門学校の卒業制作のファッションショーにも潜り込んだ。あの時は勉強するのが楽しかったな」
佑はサイズ違いのペンシルスカートが沢山掛かっている中から、「あった」と一着を取りだした。
そしてグレイッシュローズピンクのペンシルスカートをシングルラックに掛け、縫い目などを確認する。
香澄はブラブラと歩きながら、さらに話しかける。
「モデルの女の子とかいた? クラスで仲のいい子とか」
「……ん?」
佑は香澄を見てニヤッと笑った。
「妬いてる?」
そのタイミングで話し掛けると、佑が「ん?」とこちらを見た。
「麻衣たちが駅近くのカフェにいるそうなんです。そちらでランチを一緒に食べたいなと思いまして……」
会社にいるのにプライベートの話をすると、変な感じがする。
とはいえ、運転手に連絡する関係もあるので、早めに言っておかなくてはいけない。
「じゃあそちらに行こうか。小金井さんには俺から連絡しておく」
そう言って佑はスマホでメッセージを打ち、「今日の仕事は終わり」と言ってコートを羽織った。
「秘書室は?」
「お二人とも退勤しました」
「そうか。じゃあ俺たちも出よう」
二人は社長室を出て、専用エレベーターに乗る。
「多分、麻衣とマティアスさんは、明日デートするんじゃないかと思います」
「そうか。そんな話も……」
エレベーターの中で話をしていると、佑が三十一階のボタンを押した。
(ん?)
その階は、今まで止まった事のないフロアだ。
三十二階は佑のマンションで、三十一階は服の保管庫になっていると聞いた。
「少し付き合ってくれ。麻衣さんにエールを送りたい」
「はい!」
麻衣の応援になるのならと、香澄は元気に返事をする。
三十一階に着き、佑はカードキーでドアを開け、「どうぞ」と香澄を招き入れる。
彼はスリッパを出し、自分と香澄の分を床に置く。
「定期的に掃除をしてもらっているけど、ここで生活している訳じゃないから、多少汚れているかもしれない」
「構わないよ。……それにしても、このフロアは初めてかも……」
オフィスから出たので、香澄は口調を変える。
「機会がなくて、ここに連れて来てなかったよな。倉庫みたいなものなんだ」
奥に進むと、三十二階のマンションとは違う、巨大なスペースが開けた。
「わ……」
ワンフロアすべてぶち抜きではないが、リビングダイニングが五十畳では済まない広さがある。
だだっぴろい空間にはソファやテーブルがあり、キッチンなどもちゃんとある。
だがその他はトルソーがズラリと並び、制作途中、完成品の服が着せられていた。
「今は白金台の家をメインにしているから、マンションには松井さんたちぐらいしか入らないんじゃないかな。特にこのフロアは趣味の空間だから、人を入れた事はない」
佑が自主制作した服は、コストの掛かってそうな凝ったデザインが多い。
メンズもあればレディースもある。
中にはウエディングドレスもあって、「誰に着せようと思って作ったんだろう……」と思うと、胸がチクンとした。
「綺麗なドレスもあるね。服も格好いいのから可愛いのから、綺麗系まで……」
触らないように距離を置いて眺めていると、佑は「全部試作品だよ」と言う。
「服を作れるって凄いね。私、ボタンをつけるので精一杯。実家にミシンはあるけど、自分で裾上げとかした事ないかも」
香澄は家庭科の時間で使ったまち針や、印をつけるためのチャコペンを思い出し、「懐かしいなぁ」と微笑む。
「俺は学生時代から興味があったかな」
「お洒落に興味のある少年だったの?」
「そう……と言えるのかな。手芸屋に行って材料の値段を見たり、縫製の本を買って勉強した。自分で自分の服を作っていたけど、最初はへたくそで母に笑われていたな」
「まだあるの? 最初の作品」
佑はハンガーに掛かっている沢山の服の中から、何かを探している。
「捨ててしまった物もあるし、気に入った服は取ってある」
「当時作っていたのは自分用だけ?」
「原点は自分用。そのうち友人に『いいな』って言われるようになって、材料費と少しの手間賃をもらって作るようになった。レディースは少し遅れてから。とにかく沢山雑誌を見て、専門学校の卒業制作のファッションショーにも潜り込んだ。あの時は勉強するのが楽しかったな」
佑はサイズ違いのペンシルスカートが沢山掛かっている中から、「あった」と一着を取りだした。
そしてグレイッシュローズピンクのペンシルスカートをシングルラックに掛け、縫い目などを確認する。
香澄はブラブラと歩きながら、さらに話しかける。
「モデルの女の子とかいた? クラスで仲のいい子とか」
「……ん?」
佑は香澄を見てニヤッと笑った。
「妬いてる?」
13
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。


【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜
Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。
渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!?
合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡――
だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。
「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき……
《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる