【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

第十九部・マティアスと麻衣 編

応援してるからね

　麻衣はあまりの迫力にしばし呆然としていたが、我に返って慌てて拍手をした。

（すごい……！　すごい！！　こんな一流アーティストの歌声を生で聴けるなんて！）

　麻衣は感動のあまり口を半開きにして、掌が痛くなるまで拍手し続ける。

　続いて音楽が一転し、和風の明るいメロディーに代わった。

　そしてステージに袴姿の佑と、振り袖姿の人気フリーアナウンサーが現れる。
　もう一人袴姿で現れたのは、人気お笑い芸人だ。

　先ほどのタニアとは種類の違う歓声が上がり、麻衣はその熱量に少し怯える。

（御劔さんの人気すっご！）

「皆さん、あけましておめでとうございます！　Chief Every代表取締役社長、御劔佑です」

　Chief Everyのブランドロゴのついたマイクを持った佑が挨拶し、司会の二名も挨拶する。

　そのあと佑が、客が飽きない程度の長さで今年の抱負などを話していく。

　液晶に映った彼の笑顔を見て、麻衣は納得した。

（これが〝外〟向けの笑顔なのか）

　今まで見てきた笑顔とはまるっきり違う。

　どこが違うと聞かれても、うまく説明できない。

　だが今の佑の笑顔は、一分の隙もないほど完璧だ。

　口端を上げる角度すらも、すべて計算されつくしたパーフェクトな笑顔だと思った。

（こんな笑い方、普段からしてたら顔面疲れそう）

　そしてしみじみと、「芸能人って大変だな……」と思った。

　会場にはマスコミもいて、遠方からバズーカのようなカメラで佑を撮っている。

　テレビカメラも回っているが、佑が言うにはChief Everyのイベントを放送してもいいと契約した会社だけらしい。
　イベントの様子を見られるのは、独占配信の契約をした配信サイトだけなのだとか。

　この巨大なホールの収容客は、かなりのものだ。

　それだけでなく、佑には日本中、世界中にファンがいる。

　さらに佑と個人的な関わりのある人、ライバルとする企業や個人、Chief Everyの株を保有している投資家たちなどが、日常的に彼の事を興味を持って見ているのだ。

（凄い世界だ）

　華やかなイベントの場に来て初めて、麻衣は御劔佑という男の存在感を知る。

　そして今後香澄が佑の婚約者、妻として隣にい続ける事を考え、その精神的負担の大きさも知った。

（そりゃあ、あんなに綺麗になったのに、いつまでも『自信がない』って言う訳だ……）

　理解した途端、急に香澄が可哀想になり、今すぐ側に行って抱き締めたくなる。

（私が支えてあげないと。御劔さんに取られたとか、子供っぽい事を考えている場合じゃない。香澄が安心できるように、いつでも気に掛けてあげないと）

　香澄と出会ってから、自分はとても笑うようになったと自覚している。

　彼女といると楽しい。香澄だけは自分の事を嗤わず、素で付き合ってくれる。

　麻衣もまた、そんな香澄を心から信頼している。

　大切な存在だからこそ、香澄には心の底から幸せになってほしいと思っていた。

（応援してるからね）

　麻衣は裏方にいる親友を思い、ステージ上の佑を見る。

　イベントは進み、和楽器と着物、花魁的要素を取り入れたバンドがオリジナルの楽曲を演奏する。
　ダンスパフォーマンスグループの演舞もあり、正月らしく墨絵画家のライブドローイングも行われた。

　一時間経って佑からChief Everyの宣伝があり、新作発表もされ、イベントが終わろうとしている。

　何もかもに圧倒されてボーッとしている間に、気が付けば人々は紅白饅頭を求めて移動し始めていた。

「マイ、どうした？」

　マティアスに声を掛けられ、そっと肩を揺さぶられてハッと我に返る。

「……や、何でもないです。凄いイベントだったから、びっくりしちゃって」

「そうか。楽しかったな」

　マティアスは微かに笑い、同意してくれる。
　双子たちは立ち上がり、腕時計を見て「これからどうしよっか」とこれからの予定を考えている。

（言われてみればお腹がすいたな）

　そう思いながら、麻衣はもう一度ステージを見た。

（香澄、お疲れ様。御劔さんって凄い人だね）

　麻衣は心の中でステージ裏にいる親友に話しかけ、「ふー……」とゆっくり息を吐く。

「マイ、ランチに行くよ」

「あ、はい」

　クラウスに話し掛けられた麻衣は、立ち上がってイベント会場をあとにした。



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