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第十九部・マティアスと麻衣 編
佑からの新年のメッセージ
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「マイ、ここね」
そう言ってクラウスが座らせたのは、通路側のステージが見やすい席だ。
「ありがとうございます」
麻衣の隣には当然という顔でマティアスが座り、その向こう側に双子という並びだ。
ステージは正月の飾り付けがされていて、イベント会場そのものも赤と金、黒、白で統一されている。
(写真撮ったらダメなんだろうな)
せっかくだけど……と思って我慢していたが、通路を挟んで斜め向かいに座った女性が、ためらいもせずスマホでステージの写真を撮ったので「えっ?」となった。
それだけでなく、女性二、三人が声を合わせて「御劔さーん!」とまだ誰もいないステージに向かって声を上げる。
(えっ……? こういう……感じなんだ? アイドルみたいだな)
佑の実際の人気を知らない麻衣は、困惑したままだ。
分からないので、コソッと双子に聞いてみた。
「あの、撮影とか自由なんですか?」
双子たちはクリスマスイベントにも来たらしいので、彼らなら知っているだろうと思って尋ねた。
「『演者たちに敬意を払った撮影をお願いします』って前説で伝えてるけど、こっそり撮る人はいるんだろうね。ほら、アソコにも看板あるでしょ」
言われて見てみれば、『演目中のフラッシュにはご配慮ください』と書いてある。
「……でも、割と無法地帯なんじゃないですか?」
「プロのアーティストがいるから、何から何まで撮影してSNSに……ってのはNGだ。それで金儲けされたら、やりきれないもんね。一応イベントが始まる前に注意をして、あとは各自の良識に……かな。クリスマスの時は、皆いい子でイベント見てたよね?」
アロイスに同意を求められ、クラウスが「うん」と頷く。
「美術館とかで大体の人がカメラ出さないみたいにさ、そこは〝御劔佑のファン〟としてきちんとしてるんでない? あいつ、そういう所はきちんと人心掌握してそうだから」
佑が聞いたら「人聞きが悪いな」と溜め息をつきそうな事を言い、クラウスが笑う。
「ふぅん……。躾が行き届いているんですね」
とある男性アイドルがファンを『仔猫ちゃん』と言い、ファンのマナーを『躾』と言っているのを思いだしてポツリと呟く。
それを聞いた瞬間、双子が「ぶふぉっ」と噴きだした。
「それ、あいつに言ってみ? 反応見てみてぇ」
前の座席の女性たちがこちらの会話を聞いていたのか、ケラケラ笑う双子を気にしている。
金髪美形の双子で佑の知り合いらしいとくれば、仲良くなりたいと思って当然だ。
しかし女性たちは、双子やマティアスを見たあと、麻衣をチラッと気にしてくる。
それを見て、内心「やめてくれ……」と思ってしまった。
話しているうちに時間が経ち、十一時前には満員御礼になっていた。
(すごいな……)
そう思っているとホール全体の照明がスッと落ち、プロジェクションマッピングで『Happy new year! 2020』という文字が浮かび上がった。
それを見てキャアッと歓声が上がり、麻衣は驚いて目をまん丸にする。
(まるっきりアーティストのライブじゃん!)
オープニング曲が徐々にボリュームアップし、低音と、徐々に楽器の種類を増やしていくメロディパートが、〝はじまり〟を感じさせる。
スポットライトがグルッと回るようにしてステージ中央に当たると、金色のドレスに身を包んだ黒人女性のシンガー、タニアが現れた。
タニアはアメリカでグラミー賞も受賞した、大物シンガーだ。
その人がこの場にいるというだけでも凄いというのに、次の瞬間麻衣は脳を揺さぶられるような歌声に心を持っていかれる。
「Ah――――……!」
迸る、と言う表現が相応しい圧倒的な声量でタニアが歌い、全身に鳥肌が立つ。
(すごっ……)
タニアはさらに、ヴォカリーズの唱法で祈るように旋律を紡いでゆく。
曲そのものも賛美歌に似た美しいメロディーで、パイプオルガンに似た重低音が巨大なスピーカーから鳴り響き、麻衣の体を奥底から揺さぶってくる。
プロジェクションマッピングには、日本語で佑からのメッセージが流れている。
『あけましておめでとうございます。Chief Everyです。二〇二〇年の良き日を皆様と共に過ごせる事を、社員一同嬉しく思います。本年もChief Every、及び系列会社をごひいきにお願い致します』
その後も佑からのメッセージは続き、タニアのパワフルで生命力に漲った歌声が続く。
『二〇二〇年もChief Everyは皆様と共に歩んでいきたいと思います。これからの一年、皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます』
プロジェクションマッピングの文字がそう締めくくり、タニアは最後の旋律を歌い上げる。
「I pray for your happiness…….」
タニアは最後に「あなたの幸せを祈ります」と歌い、数オクターブ上まで声を飛ばし、自らの拳をギュッと握って曲を終わらせた。
彼女がニコッと笑うと、会場にいる全員が大きな拍手をし、熱狂した歓声を上げる。
そう言ってクラウスが座らせたのは、通路側のステージが見やすい席だ。
「ありがとうございます」
麻衣の隣には当然という顔でマティアスが座り、その向こう側に双子という並びだ。
ステージは正月の飾り付けがされていて、イベント会場そのものも赤と金、黒、白で統一されている。
(写真撮ったらダメなんだろうな)
せっかくだけど……と思って我慢していたが、通路を挟んで斜め向かいに座った女性が、ためらいもせずスマホでステージの写真を撮ったので「えっ?」となった。
それだけでなく、女性二、三人が声を合わせて「御劔さーん!」とまだ誰もいないステージに向かって声を上げる。
(えっ……? こういう……感じなんだ? アイドルみたいだな)
佑の実際の人気を知らない麻衣は、困惑したままだ。
分からないので、コソッと双子に聞いてみた。
「あの、撮影とか自由なんですか?」
双子たちはクリスマスイベントにも来たらしいので、彼らなら知っているだろうと思って尋ねた。
「『演者たちに敬意を払った撮影をお願いします』って前説で伝えてるけど、こっそり撮る人はいるんだろうね。ほら、アソコにも看板あるでしょ」
言われて見てみれば、『演目中のフラッシュにはご配慮ください』と書いてある。
「……でも、割と無法地帯なんじゃないですか?」
「プロのアーティストがいるから、何から何まで撮影してSNSに……ってのはNGだ。それで金儲けされたら、やりきれないもんね。一応イベントが始まる前に注意をして、あとは各自の良識に……かな。クリスマスの時は、皆いい子でイベント見てたよね?」
アロイスに同意を求められ、クラウスが「うん」と頷く。
「美術館とかで大体の人がカメラ出さないみたいにさ、そこは〝御劔佑のファン〟としてきちんとしてるんでない? あいつ、そういう所はきちんと人心掌握してそうだから」
佑が聞いたら「人聞きが悪いな」と溜め息をつきそうな事を言い、クラウスが笑う。
「ふぅん……。躾が行き届いているんですね」
とある男性アイドルがファンを『仔猫ちゃん』と言い、ファンのマナーを『躾』と言っているのを思いだしてポツリと呟く。
それを聞いた瞬間、双子が「ぶふぉっ」と噴きだした。
「それ、あいつに言ってみ? 反応見てみてぇ」
前の座席の女性たちがこちらの会話を聞いていたのか、ケラケラ笑う双子を気にしている。
金髪美形の双子で佑の知り合いらしいとくれば、仲良くなりたいと思って当然だ。
しかし女性たちは、双子やマティアスを見たあと、麻衣をチラッと気にしてくる。
それを見て、内心「やめてくれ……」と思ってしまった。
話しているうちに時間が経ち、十一時前には満員御礼になっていた。
(すごいな……)
そう思っているとホール全体の照明がスッと落ち、プロジェクションマッピングで『Happy new year! 2020』という文字が浮かび上がった。
それを見てキャアッと歓声が上がり、麻衣は驚いて目をまん丸にする。
(まるっきりアーティストのライブじゃん!)
オープニング曲が徐々にボリュームアップし、低音と、徐々に楽器の種類を増やしていくメロディパートが、〝はじまり〟を感じさせる。
スポットライトがグルッと回るようにしてステージ中央に当たると、金色のドレスに身を包んだ黒人女性のシンガー、タニアが現れた。
タニアはアメリカでグラミー賞も受賞した、大物シンガーだ。
その人がこの場にいるというだけでも凄いというのに、次の瞬間麻衣は脳を揺さぶられるような歌声に心を持っていかれる。
「Ah――――……!」
迸る、と言う表現が相応しい圧倒的な声量でタニアが歌い、全身に鳥肌が立つ。
(すごっ……)
タニアはさらに、ヴォカリーズの唱法で祈るように旋律を紡いでゆく。
曲そのものも賛美歌に似た美しいメロディーで、パイプオルガンに似た重低音が巨大なスピーカーから鳴り響き、麻衣の体を奥底から揺さぶってくる。
プロジェクションマッピングには、日本語で佑からのメッセージが流れている。
『あけましておめでとうございます。Chief Everyです。二〇二〇年の良き日を皆様と共に過ごせる事を、社員一同嬉しく思います。本年もChief Every、及び系列会社をごひいきにお願い致します』
その後も佑からのメッセージは続き、タニアのパワフルで生命力に漲った歌声が続く。
『二〇二〇年もChief Everyは皆様と共に歩んでいきたいと思います。これからの一年、皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます』
プロジェクションマッピングの文字がそう締めくくり、タニアは最後の旋律を歌い上げる。
「I pray for your happiness…….」
タニアは最後に「あなたの幸せを祈ります」と歌い、数オクターブ上まで声を飛ばし、自らの拳をギュッと握って曲を終わらせた。
彼女がニコッと笑うと、会場にいる全員が大きな拍手をし、熱狂した歓声を上げる。
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