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第十九部・マティアスと麻衣 編
第十九部・序章 初夢と出社
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夢を見ていた。
香澄は海にいた。
海の上に浮かんでいるのか、飛んでいるのか分からない。
ビーチではない、遙か沖の紺碧の海が大きくうねっていた。
――怖い。
大きな波に呑まれてしまいそうで、香澄は必死に泳ごうと手足をバタつかせる。
苦しい気がして懸命に呼吸をする。
溺れてしまいそうな海の圧迫感に怯えていた時、香澄の手を温かな手がギュッと握った。
――あ……。
その温もりを感じ、香澄は落ち着いていく。
夢の中だけれど、大好きな人の香りがした。
気が付けば海はエメラルドグリーンに変わっていて、陽光を浴びてキラキラと輝いていた。
香澄は波打ち際にいて、美しい海を大好きな人と一緒に眺めている。
手に持っているのは、みずみずしい果物だろうか。
フワッと桃の香りがして、香澄は手にしていた果実を頬張った。
口いっぱいに甘い果汁が迸り、「んー!」と幸せな笑顔になる。
手を繋いでいた佑がこちらを振り向き、微笑んでキスをしてきた。
甘い、甘いキスを繰り返しているうちに、ムラムラしてきて――。
**
「ん……っ」
ちゅうっと何かを吸って、香澄は目を覚ました。
少し口の中がモソモソする。
「ん……?」
寝ぼけて目を開くと、濡れた佑のTシャツが目に入る。
「おはよ」
クスクスと笑い声がしたかと思うと、頭を撫でられて額にキスをされた。
「ふぁ……、あ……」
大きな欠伸をして伸びをし、香澄は天井を見上げる。
(……綺麗な海だったな……。果物も美味しかった)
夢の残滓に浸っていたいが、佑が起き上がったので自分も覚醒しなくては、と少しずつ気持ちを引き締めていく。
(……というか、寝ぼけて佑さんのTシャツにキスしちゃった……。なんか赤ちゃんみたい)
思いだしたように自分の寝ぼけ具合を自覚し、香澄はおずおずと謝った。
「……Tシャツ、ごめんね」
「ん? 気にしなくていいよ。どんな夢を見ていたのか、聞きたい気持ちはあるけど」
彼はそう言って、クシャクシャッと香澄の頭を撫でた。
ぼんやりしていると、今日これからイベントがあるのを思いだした。
一月二日にして仕事か……と思いつつ、香澄も目をこすりながら起き上がった。
「秘書さん、元旦、二日とイベント関係で出社した社員は、仕事始めのあと二日間休みだから頑張って」
佑が香澄の気持ちを見透かして、ポンと背中を叩いてくる。
彼に気遣わせてしまって、一気に申し訳なくなった。
「ご、ごめんなさい……。佑さんはずっとお仕事なのに」
「俺は慣れてるからいいんだよ。前は仕事のオンオフをなかなか付けられなかったけど、今はオフの楽しみを知っているから、むしろ仕事が楽しい」
愛しげな目で見られてチュッと頬にキスをされると、〝オフの楽しみ〟が自分だと分かる。
「佑さん、偉いな。私、そんなにずっと頑張れないや。……いや、その! 秘書のお仕事は誠心誠意頑張らせてもらってます。……けど、私はお休みが楽しみというか。いや、でも職場でも好きな人と一緒っていうだけで、十分幸せなんだけど……」
(けど一緒だからこそ、失敗したり体調を崩した時、佑さんに迷惑を掛けるから、申し訳ないっていう気持ちもあるけど……)
残りは心の中で呟き、もう迷惑を掛けないようにしようと自分に言い聞かせる。
「香澄はそれでいいんだよ。俺は周りに『いつまでもそのやる気をキープしているのが凄い』と言われる。純粋に褒められているんじゃなくて、『いつか潰れないように気を付けろ』と言われているんだが。まぁ、以前に潰れた事があるから、自分でもある程度コントロールできてる……つもりだ」
香澄の知らない時代の事を言われ、「うん」と頷いて彼の頭をよしよしと撫でた。
「無理はしないでね。一人の体じゃないんだから」
「ふっふ……。それは俺のセリフだよ」
佑は肩を揺らして笑い、もう一度香澄を抱き寄せて頬にキスをすると、「よし」とベッドから下りた。
「私も支度しようっと」
香澄もベッドから下りると、また欠伸をしながら自分の部屋に向かった。
**
出社前、佑と香澄は麻衣と双子、マティアスに玄関まで見送られていた。
「じゃあ、行ってきます」
「イベント、十一時からだっけ?」
「うん。イベント会場は混むと思うから、皆さんとはぐれないように気を付けてね」
「問題ない。マイの手は俺がしっかり握ってる」
麻衣に言ったのだが、マティアスがどや顔で親指を立ててきた。
香澄は海にいた。
海の上に浮かんでいるのか、飛んでいるのか分からない。
ビーチではない、遙か沖の紺碧の海が大きくうねっていた。
――怖い。
大きな波に呑まれてしまいそうで、香澄は必死に泳ごうと手足をバタつかせる。
苦しい気がして懸命に呼吸をする。
溺れてしまいそうな海の圧迫感に怯えていた時、香澄の手を温かな手がギュッと握った。
――あ……。
その温もりを感じ、香澄は落ち着いていく。
夢の中だけれど、大好きな人の香りがした。
気が付けば海はエメラルドグリーンに変わっていて、陽光を浴びてキラキラと輝いていた。
香澄は波打ち際にいて、美しい海を大好きな人と一緒に眺めている。
手に持っているのは、みずみずしい果物だろうか。
フワッと桃の香りがして、香澄は手にしていた果実を頬張った。
口いっぱいに甘い果汁が迸り、「んー!」と幸せな笑顔になる。
手を繋いでいた佑がこちらを振り向き、微笑んでキスをしてきた。
甘い、甘いキスを繰り返しているうちに、ムラムラしてきて――。
**
「ん……っ」
ちゅうっと何かを吸って、香澄は目を覚ました。
少し口の中がモソモソする。
「ん……?」
寝ぼけて目を開くと、濡れた佑のTシャツが目に入る。
「おはよ」
クスクスと笑い声がしたかと思うと、頭を撫でられて額にキスをされた。
「ふぁ……、あ……」
大きな欠伸をして伸びをし、香澄は天井を見上げる。
(……綺麗な海だったな……。果物も美味しかった)
夢の残滓に浸っていたいが、佑が起き上がったので自分も覚醒しなくては、と少しずつ気持ちを引き締めていく。
(……というか、寝ぼけて佑さんのTシャツにキスしちゃった……。なんか赤ちゃんみたい)
思いだしたように自分の寝ぼけ具合を自覚し、香澄はおずおずと謝った。
「……Tシャツ、ごめんね」
「ん? 気にしなくていいよ。どんな夢を見ていたのか、聞きたい気持ちはあるけど」
彼はそう言って、クシャクシャッと香澄の頭を撫でた。
ぼんやりしていると、今日これからイベントがあるのを思いだした。
一月二日にして仕事か……と思いつつ、香澄も目をこすりながら起き上がった。
「秘書さん、元旦、二日とイベント関係で出社した社員は、仕事始めのあと二日間休みだから頑張って」
佑が香澄の気持ちを見透かして、ポンと背中を叩いてくる。
彼に気遣わせてしまって、一気に申し訳なくなった。
「ご、ごめんなさい……。佑さんはずっとお仕事なのに」
「俺は慣れてるからいいんだよ。前は仕事のオンオフをなかなか付けられなかったけど、今はオフの楽しみを知っているから、むしろ仕事が楽しい」
愛しげな目で見られてチュッと頬にキスをされると、〝オフの楽しみ〟が自分だと分かる。
「佑さん、偉いな。私、そんなにずっと頑張れないや。……いや、その! 秘書のお仕事は誠心誠意頑張らせてもらってます。……けど、私はお休みが楽しみというか。いや、でも職場でも好きな人と一緒っていうだけで、十分幸せなんだけど……」
(けど一緒だからこそ、失敗したり体調を崩した時、佑さんに迷惑を掛けるから、申し訳ないっていう気持ちもあるけど……)
残りは心の中で呟き、もう迷惑を掛けないようにしようと自分に言い聞かせる。
「香澄はそれでいいんだよ。俺は周りに『いつまでもそのやる気をキープしているのが凄い』と言われる。純粋に褒められているんじゃなくて、『いつか潰れないように気を付けろ』と言われているんだが。まぁ、以前に潰れた事があるから、自分でもある程度コントロールできてる……つもりだ」
香澄の知らない時代の事を言われ、「うん」と頷いて彼の頭をよしよしと撫でた。
「無理はしないでね。一人の体じゃないんだから」
「ふっふ……。それは俺のセリフだよ」
佑は肩を揺らして笑い、もう一度香澄を抱き寄せて頬にキスをすると、「よし」とベッドから下りた。
「私も支度しようっと」
香澄もベッドから下りると、また欠伸をしながら自分の部屋に向かった。
**
出社前、佑と香澄は麻衣と双子、マティアスに玄関まで見送られていた。
「じゃあ、行ってきます」
「イベント、十一時からだっけ?」
「うん。イベント会場は混むと思うから、皆さんとはぐれないように気を付けてね」
「問題ない。マイの手は俺がしっかり握ってる」
麻衣に言ったのだが、マティアスがどや顔で親指を立ててきた。
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