1,196 / 1,544
第十八部・麻衣と年越し 編
第十八部・終章 初夢に向けて
しおりを挟む
「自由な社風とはいえ日本企業だ。ドイツ的に個人主義でいこうとすると失敗する。日本人は和を重んずる。実力に伴った昇進制度をとっているとはいえ、周りの者の気持ちを考えない働き方をしては、昇進できない」
「分かった」
「お前は少し見た目の印象が怖い。おかしくないのにヘラヘラ笑えとは言わないが、もう少し愛想良くしたほうが社員との距離が縮まるかもしれない。麻衣さんのためにきちんと稼ぎたいと思うなら、日本で働くために変わる努力をしてくれ」
「了解した」
頷いたマティアスは、意識的に微笑もうとしたのか、目元と口元を引き攣らせながらニヤァ……と笑う。
「…………」
その〝怒って鼻に皺を寄せたジャーマンシェパード〟のような顔を見て、佑は溜め息をついた。
「無理に笑えとは言っていない。……自然に愛想笑いができるようになればいいな」
そう言って佑は、「そろそろ話は終わったかな」と立ち上がり、荷物を持って二階に向かった。
**
約束したので、今夜は彼と一緒に就寝だ。
香澄も佑も風呂に入ってストレッチをし、双子はまだ帰っていないが明日のために寝る事にした。
「おいで」
先にベッドに入っていた佑に言われ、香澄は羽根布団を捲って体を滑り込ませる。
「あったかい……」
「新年からお疲れ様。明日も頑張ろう」
「はい」
薄暗いなか微笑み合ったあと、佑がチュッとキスをしてくる。
「……今夜、初夢か」
「宝船の絵を枕の下に入れるんだっけ」
「俺、入れてる」
「えっ? 嘘、いいな」
「香澄の枕の下にも入れたから、確認するといいよ」
言われてドキドキしながら枕の下に手を差し込むと、紙が指先に当たる。
(どんな絵かな……)
期待しながらピラッと目の前に紙をかざし――、目が点になった。
佑の写真だ。
胸板やバキバキに割れた腹筋を晒し、どや顔でカメラ目線になっている自撮りである。
(なに……?)
訳が分からないまま隣を見ると、佑は満面の笑みを浮かべて彼の枕の下にある写真を見せてくる。
「なっ……!」
それは香澄の写真だ。
いつ撮ったのか、下着姿でベッドに寝転び、照れたように微笑んでいる姿を激写されている。
「な、なにこれ……」
「宝船の絵よりずっと強力なラッキーアイテム」
語尾にハートマークでもつきそうな声と、いい笑顔で言われ、もう言い返す気力もない。
ガクッと力尽きたように脱力した香澄を見て、佑は「いい案だと思うけどな」と香澄の写真を見て、また枕の下に入れる。
「幸運な夢っていうより、不純な夢を見そう」
「それでもいいじゃないか。今年も一年、ラブラブでいられるよ」
「もー……」
香澄は「何も入れないよりいいか」と佑の写真を枕の下に戻し、クスクス笑いながら仰向けになった。
「いい夢でも、悪い夢でもいい。佑さんが側にいてくれるなら私は幸せ」
「俺もだよ」
彼は香澄を抱き寄せると、額や頬、鼻の頭にちょんちょんとキスし、最後に唇にキスをする。
「明日から本格的に仕事が始まる。気合いを入れて……は失敗した時の反動が強いから、今まで通り変わらず、毎日丁寧にこなしていこう」
「うん。頑張ります」
佑は香澄の額にもう一度キスをしてから、手を繋いで深く息を吸った。
香澄も目を閉じて佑の体温や呼吸を感じ、「落ち着くなぁ……」と思いながら、ゆっくりと意識を落としていった。
第十八部・完
「分かった」
「お前は少し見た目の印象が怖い。おかしくないのにヘラヘラ笑えとは言わないが、もう少し愛想良くしたほうが社員との距離が縮まるかもしれない。麻衣さんのためにきちんと稼ぎたいと思うなら、日本で働くために変わる努力をしてくれ」
「了解した」
頷いたマティアスは、意識的に微笑もうとしたのか、目元と口元を引き攣らせながらニヤァ……と笑う。
「…………」
その〝怒って鼻に皺を寄せたジャーマンシェパード〟のような顔を見て、佑は溜め息をついた。
「無理に笑えとは言っていない。……自然に愛想笑いができるようになればいいな」
そう言って佑は、「そろそろ話は終わったかな」と立ち上がり、荷物を持って二階に向かった。
**
約束したので、今夜は彼と一緒に就寝だ。
香澄も佑も風呂に入ってストレッチをし、双子はまだ帰っていないが明日のために寝る事にした。
「おいで」
先にベッドに入っていた佑に言われ、香澄は羽根布団を捲って体を滑り込ませる。
「あったかい……」
「新年からお疲れ様。明日も頑張ろう」
「はい」
薄暗いなか微笑み合ったあと、佑がチュッとキスをしてくる。
「……今夜、初夢か」
「宝船の絵を枕の下に入れるんだっけ」
「俺、入れてる」
「えっ? 嘘、いいな」
「香澄の枕の下にも入れたから、確認するといいよ」
言われてドキドキしながら枕の下に手を差し込むと、紙が指先に当たる。
(どんな絵かな……)
期待しながらピラッと目の前に紙をかざし――、目が点になった。
佑の写真だ。
胸板やバキバキに割れた腹筋を晒し、どや顔でカメラ目線になっている自撮りである。
(なに……?)
訳が分からないまま隣を見ると、佑は満面の笑みを浮かべて彼の枕の下にある写真を見せてくる。
「なっ……!」
それは香澄の写真だ。
いつ撮ったのか、下着姿でベッドに寝転び、照れたように微笑んでいる姿を激写されている。
「な、なにこれ……」
「宝船の絵よりずっと強力なラッキーアイテム」
語尾にハートマークでもつきそうな声と、いい笑顔で言われ、もう言い返す気力もない。
ガクッと力尽きたように脱力した香澄を見て、佑は「いい案だと思うけどな」と香澄の写真を見て、また枕の下に入れる。
「幸運な夢っていうより、不純な夢を見そう」
「それでもいいじゃないか。今年も一年、ラブラブでいられるよ」
「もー……」
香澄は「何も入れないよりいいか」と佑の写真を枕の下に戻し、クスクス笑いながら仰向けになった。
「いい夢でも、悪い夢でもいい。佑さんが側にいてくれるなら私は幸せ」
「俺もだよ」
彼は香澄を抱き寄せると、額や頬、鼻の頭にちょんちょんとキスし、最後に唇にキスをする。
「明日から本格的に仕事が始まる。気合いを入れて……は失敗した時の反動が強いから、今まで通り変わらず、毎日丁寧にこなしていこう」
「うん。頑張ります」
佑は香澄の額にもう一度キスをしてから、手を繋いで深く息を吸った。
香澄も目を閉じて佑の体温や呼吸を感じ、「落ち着くなぁ……」と思いながら、ゆっくりと意識を落としていった。
第十八部・完
12
お気に入りに追加
2,511
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
なりゆきで、君の体を調教中
星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる