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第十八部・麻衣と年越し 編
女同士の相談、男同士の相談
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「初めて、香澄以外の人に弱さを出して、受け止めてもらえた。信頼できたんだと思う」
「うん、良かった」
頬を赤くしている麻衣の頭を、香澄はよしよしと撫でる。
「本当に結婚するのか分からないけど、するなら国際結婚になる。うまくいくか分からないけど、やれるだけやってみる。私がどれだけごねても、マティアスさんなら受け止めてくれる気がする。こんなに好きだって言ってくれる人は、もう現れないと思うから……、頑張る」
いつも豪快でワハハと笑っていた麻衣が、乙女な顔をしている。
どんな麻衣も好きだけれど、香澄は彼女が硬い殻にこもっていたのを知っていた。
「恋愛なんて」と言いながら、本当は結婚を夢見ているのも知っている。
だからずっと心の中で、「麻衣に好きな人ができればいいな」と思っていた。
まさかマティアスが相手になると思っていなかったが、麻衣を幸せにしてくれるなら誰だっていい。
「応援してるよ。私は恋愛経験豊富じゃないし、むしろ健二くんで失敗したほう。でも佑さんと付き合って、色んな事を短期間で体験したつもりだよ。まだまだ未熟者だけど、それでも何か相談があったらいつでも言って」
「うん」
「マティアスさんは、いまだよく分からないところがある。でも彼と付き合いの長い佑さんやお二人に聞いて、解決できる事があるかもしれない。私は勿論、皆の事も有効利用して。香澄ホットラインは二十四時間対応しています」
冗談めかして言うと、麻衣は破顔した。
「うん。ありがとう」
香澄は麻衣をぎゅーっと抱き締めたあと、顔を見合わせて「へへっ」と笑い合った。
**
階段を上りかけた佑は、香澄と麻衣が真剣な話をしている気配を察し、少し一階で待つ事にした。
「マティアス」
「何だ?」
リビングに戻った佑はぼんやりとソファに座っていたが、同じように黙って座っているマティアスに話し掛けた。
「麻衣さんの事は本気か?」
「本気だ」
「札幌で就職するのか?」
「そうだな。与えられた仕事をこなす自信はあるが、まず自分に何の仕事が向いているか見定めなければいけない。資産はあるから給料についてあまりうるさく言いたくないが、残業をして薄給というのは避けたい」
「それで……なんだが、もしビザの問題が片付いて、本格的に日本で暮らす段階になったら、俺の会社に入る選択肢を視野に入れないか?」
マティアスは珍しく瞠目し、無言で佑を見る。
「俺の下で働くのは嫌か?」
「いや、カイは俺を嫌っているのだと思っていた」
言われて、佑は自分の心にその感情がある事を認める。
「まだ振り切れていない部分はある。だがそれとこれは別の話だ。麻衣さんは香澄にとって最も大切な友達だ。彼女が幸せなら香澄も笑顔になる。そのためならお前の就職先を用意する事だって厭わない」
「どこからのスタートになるだろうか」
「近く、札幌支店の店長が本社に異動する。そのポストを用意する事もできる。それまでマネジメントを学び、売り上げという名で実力を示してほしい。そのために、最低一年は東京本社のマーケティングで働いてほしい。本社での経験があれば、北海道支部の幹部になれる。普通なら本社での昇進を目指すものだが、札幌に住み続けたいなら北海道支部の幹部になり、不動の地位を築けばいい」
「承知した」
「道は教えた。だが、他の社員のためにも自分で努力して歩いてくれ。ショートカットできるかどうかは、お前次第だ」
「景色を楽しみながら、歩いてみせる」
マティアスが望む、高給稼ぎの道筋は示した。
その道をどれだけの時間をかけて、どう進むかはマティアス次第だが、佑は彼のポテンシャルを買っている。
マティアスの現在の資産もそれとなく分かっているし、財をなすための勉強とトレンドを読む力、センスも備わっていると思っている。
多趣味ではない分、一つの事にどっぷり集中して深く学ぶ性質も理解している。
学ぶ過程で派生したものに興味を示し、貪欲に知識を得る上、吸収スピードもある。
いずれマティアスが収まるべきところに収まったら、良いビジネスパートナーになるかもしれない。
その際、個人的な感情とビジネスとでは、きちんと切り離して考えられる自信はあった。
「うん、良かった」
頬を赤くしている麻衣の頭を、香澄はよしよしと撫でる。
「本当に結婚するのか分からないけど、するなら国際結婚になる。うまくいくか分からないけど、やれるだけやってみる。私がどれだけごねても、マティアスさんなら受け止めてくれる気がする。こんなに好きだって言ってくれる人は、もう現れないと思うから……、頑張る」
いつも豪快でワハハと笑っていた麻衣が、乙女な顔をしている。
どんな麻衣も好きだけれど、香澄は彼女が硬い殻にこもっていたのを知っていた。
「恋愛なんて」と言いながら、本当は結婚を夢見ているのも知っている。
だからずっと心の中で、「麻衣に好きな人ができればいいな」と思っていた。
まさかマティアスが相手になると思っていなかったが、麻衣を幸せにしてくれるなら誰だっていい。
「応援してるよ。私は恋愛経験豊富じゃないし、むしろ健二くんで失敗したほう。でも佑さんと付き合って、色んな事を短期間で体験したつもりだよ。まだまだ未熟者だけど、それでも何か相談があったらいつでも言って」
「うん」
「マティアスさんは、いまだよく分からないところがある。でも彼と付き合いの長い佑さんやお二人に聞いて、解決できる事があるかもしれない。私は勿論、皆の事も有効利用して。香澄ホットラインは二十四時間対応しています」
冗談めかして言うと、麻衣は破顔した。
「うん。ありがとう」
香澄は麻衣をぎゅーっと抱き締めたあと、顔を見合わせて「へへっ」と笑い合った。
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階段を上りかけた佑は、香澄と麻衣が真剣な話をしている気配を察し、少し一階で待つ事にした。
「マティアス」
「何だ?」
リビングに戻った佑はぼんやりとソファに座っていたが、同じように黙って座っているマティアスに話し掛けた。
「麻衣さんの事は本気か?」
「本気だ」
「札幌で就職するのか?」
「そうだな。与えられた仕事をこなす自信はあるが、まず自分に何の仕事が向いているか見定めなければいけない。資産はあるから給料についてあまりうるさく言いたくないが、残業をして薄給というのは避けたい」
「それで……なんだが、もしビザの問題が片付いて、本格的に日本で暮らす段階になったら、俺の会社に入る選択肢を視野に入れないか?」
マティアスは珍しく瞠目し、無言で佑を見る。
「俺の下で働くのは嫌か?」
「いや、カイは俺を嫌っているのだと思っていた」
言われて、佑は自分の心にその感情がある事を認める。
「まだ振り切れていない部分はある。だがそれとこれは別の話だ。麻衣さんは香澄にとって最も大切な友達だ。彼女が幸せなら香澄も笑顔になる。そのためならお前の就職先を用意する事だって厭わない」
「どこからのスタートになるだろうか」
「近く、札幌支店の店長が本社に異動する。そのポストを用意する事もできる。それまでマネジメントを学び、売り上げという名で実力を示してほしい。そのために、最低一年は東京本社のマーケティングで働いてほしい。本社での経験があれば、北海道支部の幹部になれる。普通なら本社での昇進を目指すものだが、札幌に住み続けたいなら北海道支部の幹部になり、不動の地位を築けばいい」
「承知した」
「道は教えた。だが、他の社員のためにも自分で努力して歩いてくれ。ショートカットできるかどうかは、お前次第だ」
「景色を楽しみながら、歩いてみせる」
マティアスが望む、高給稼ぎの道筋は示した。
その道をどれだけの時間をかけて、どう進むかはマティアス次第だが、佑は彼のポテンシャルを買っている。
マティアスの現在の資産もそれとなく分かっているし、財をなすための勉強とトレンドを読む力、センスも備わっていると思っている。
多趣味ではない分、一つの事にどっぷり集中して深く学ぶ性質も理解している。
学ぶ過程で派生したものに興味を示し、貪欲に知識を得る上、吸収スピードもある。
いずれマティアスが収まるべきところに収まったら、良いビジネスパートナーになるかもしれない。
その際、個人的な感情とビジネスとでは、きちんと切り離して考えられる自信はあった。
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