上 下
1,195 / 1,549
第十八部・麻衣と年越し 編

女同士の相談、男同士の相談

しおりを挟む
「初めて、香澄以外の人に弱さを出して、受け止めてもらえた。信頼できたんだと思う」

「うん、良かった」

 頬を赤くしている麻衣の頭を、香澄はよしよしと撫でる。

「本当に結婚するのか分からないけど、するなら国際結婚になる。うまくいくか分からないけど、やれるだけやってみる。私がどれだけごねても、マティアスさんなら受け止めてくれる気がする。こんなに好きだって言ってくれる人は、もう現れないと思うから……、頑張る」

 いつも豪快でワハハと笑っていた麻衣が、乙女な顔をしている。

 どんな麻衣も好きだけれど、香澄は彼女が硬い殻にこもっていたのを知っていた。

「恋愛なんて」と言いながら、本当は結婚を夢見ているのも知っている。

 だからずっと心の中で、「麻衣に好きな人ができればいいな」と思っていた。

 まさかマティアスが相手になると思っていなかったが、麻衣を幸せにしてくれるなら誰だっていい。

「応援してるよ。私は恋愛経験豊富じゃないし、むしろ健二くんで失敗したほう。でも佑さんと付き合って、色んな事を短期間で体験したつもりだよ。まだまだ未熟者だけど、それでも何か相談があったらいつでも言って」

「うん」

「マティアスさんは、いまだよく分からないところがある。でも彼と付き合いの長い佑さんやお二人に聞いて、解決できる事があるかもしれない。私は勿論、皆の事も有効利用して。香澄ホットラインは二十四時間対応しています」

 冗談めかして言うと、麻衣は破顔した。

「うん。ありがとう」

 香澄は麻衣をぎゅーっと抱き締めたあと、顔を見合わせて「へへっ」と笑い合った。



**



 階段を上りかけた佑は、香澄と麻衣が真剣な話をしている気配を察し、少し一階で待つ事にした。

「マティアス」

「何だ?」

 リビングに戻った佑はぼんやりとソファに座っていたが、同じように黙って座っているマティアスに話し掛けた。

「麻衣さんの事は本気か?」

「本気だ」

「札幌で就職するのか?」

「そうだな。与えられた仕事をこなす自信はあるが、まず自分に何の仕事が向いているか見定めなければいけない。資産はあるから給料についてあまりうるさく言いたくないが、残業をして薄給というのは避けたい」

「それで……なんだが、もしビザの問題が片付いて、本格的に日本で暮らす段階になったら、俺の会社に入る選択肢を視野に入れないか?」

 マティアスは珍しく瞠目し、無言で佑を見る。

「俺の下で働くのは嫌か?」

「いや、カイは俺を嫌っているのだと思っていた」

 言われて、佑は自分の心にその感情がある事を認める。

「まだ振り切れていない部分はある。だがそれとこれは別の話だ。麻衣さんは香澄にとって最も大切な友達だ。彼女が幸せなら香澄も笑顔になる。そのためならお前の就職先を用意する事だって厭わない」

「どこからのスタートになるだろうか」

「近く、札幌支店の店長が本社に異動する。そのポストを用意する事もできる。それまでマネジメントを学び、売り上げという名で実力を示してほしい。そのために、最低一年は東京本社のマーケティングで働いてほしい。本社での経験があれば、北海道支部の幹部になれる。普通なら本社での昇進を目指すものだが、札幌に住み続けたいなら北海道支部の幹部になり、不動の地位を築けばいい」

「承知した」

「道は教えた。だが、他の社員のためにも自分で努力して歩いてくれ。ショートカットできるかどうかは、お前次第だ」

「景色を楽しみながら、歩いてみせる」

 マティアスが望む、高給稼ぎの道筋は示した。

 その道をどれだけの時間をかけて、どう進むかはマティアス次第だが、佑は彼のポテンシャルを買っている。

 マティアスの現在の資産もそれとなく分かっているし、財をなすための勉強とトレンドを読む力、センスも備わっていると思っている。

 多趣味ではない分、一つの事にどっぷり集中して深く学ぶ性質も理解している。

 学ぶ過程で派生したものに興味を示し、貪欲に知識を得る上、吸収スピードもある。

 いずれマティアスが収まるべきところに収まったら、良いビジネスパートナーになるかもしれない。

 その際、個人的な感情とビジネスとでは、きちんと切り離して考えられる自信はあった。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...