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第十八部・麻衣と年越し 編

うまくやっていけそうかも

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 現在は飲食店と新オフィス開設、下着ラインを加える計画が進んでいて、香澄は下着ラインを担当していた。

「メニュー開発については普通一か月かけるところ、二か月を予定している。その分、試作品の予算も増やして、CEブランドの飲食店として納得できる物を作ってもらう」

 昨今、ラグジュアリーブランドのカフェやレストランは珍しくない。

 入店しただけでステータスとなり、その内装や料理を写真に撮れば必ずバズる。

 業界のお洒落な人は必ず訪れ、SNSに写真を投稿し、ファッション誌が特集しただけで大きな話題になる。

 Chief Everyがプロデュースするカフェとレストランの中に、思いきり高級路線を狙ったCEPカフェも紛れさせ、希少価値を上げる狙いもある。

 内装は落ち着きがあり品のある物になるよう、朔と一緒にインテリアデザイナーと相談しているところだ。

 食事については、プレオープンに招待する著名人が、見た目も味も満足する物を出さなければいけない。

 成功すれば集客はかなり見込めると踏んでいる。

〝外〟を整える傍ら、現在は妥協せずメニュー開発を進めていた。

 信頼できる国産の材料を確保し、ヴィーガンメニューの対応も可能になるよう調整する。

 アレルギー対策もしっかり考え、代替え品を使っても美味しくできるかを確認させる。

 誰もが安心して食べられ、満足できる食事を提供するのはたやすくない。

 Chief Everyカフェ、レストラン、CEPカフェすべてのメニュー開発に、二か月を掛ける傍ら、店舗内外の工事を余裕を持った工程で進めようとしていた。

「材料確保の段階は終わり、今はフードデザインの段階だ。コンセプトと合うデザインが決まったら、試作を開始してもらう。オフィスから通いやすい六本木の店舗で試作品を作ってもらっているから、一月中は通って試食する予定だ。香澄も付き合ってくれ。女性目線の意見もほしい」

「それは勿論、喜んで協力するけど……。栄養士やフードコーディネーターもいるんでしょ?」

 あらゆるレストランやカフェのオープンに携わったという、フードコーディネーターと契約をしたという話は聞いている。

「勿論。でも一般目線寄りの意見もほしい。メイン顧客は若い女性だから」

「はい! じゃあ遠慮なく、食いしん坊のスキルを発動したいと思います」

 張り切って頷くと、佑は笑いながら頭を撫でてくれた。



**



 御劔邸に着くと、麻衣が「おかえりなさい」と出迎えてくれた。

「あぁ~。麻衣の『おかえり』が染みる~」

 ぎゅーっと麻衣に抱きつくと、「お疲れ様」と背中をポンポンしてくれる。

「カイ、おかえり」

 マティアスも出てきて、靴を脱いだ佑が「アロクラは?」と尋ねた。

「ニューイヤーだからと言って、どこかに酒を飲みに行った」

「まったく……。離れに連絡しておかないと」

 溜め息をつき、佑はスマホを開いて円山に連絡する。

「ん? ん? 麻衣、マティアスさんと二人きりだったの?」

 リビングに向かいつつ、香澄は麻衣の肩を組んでニヤニヤする。

「ちょっと、香澄。おじさん臭い」

「んっふっふ……。あとで詳細よろしく」

 ポンと麻衣の肩を叩いたあと、香澄はキッチンで水を飲み、自室で着替える事にした。

 部屋着に着替えてバスルームを確認すると、麻衣が用意してくれたのか風呂の用意ができている。

 ありがたくいただく事にして、洗面所でメイク落としを始めた。

 ――と、「香澄」と声がし、麻衣が部屋に入ってくる。

「お風呂、入れといたからね。私は先に部屋で入った」

「ありがと」

 ダブル洗顔して顔を拭いていると、麻衣がポツンと呟いた。

「私、マティアスさんとうまくやっていけそうかも」

「ほんと?」

 今までの彼女は、マティアスのストレートな好意に戸惑っていたように感じられた。

 だから朗報だ。

「私、香澄が思ってる以上に外見コンプレックスがあるんだ。香澄が一緒にいる時は気楽にいられる。でも世の中全員が、香澄みたいにいい人じゃない」

「ん……」

 麻衣のコンプレックスは分かっているつもりで、彼女が傷つく言葉は言わないし、気にするだろう事もしないようにしている。

 それでも、自分以外の人に彼女が苦しめられているのは事実だ。

「でもマティアスさんって本当に外見を気にしてないみたい。……その、性格っていうか、人間性が好きだって言ってくれて」

「うんうん」

 香澄はプレ化粧水をピタピタと馴染ませながら話を聞く。
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