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第十八部・麻衣と年越し 編

元旦のTMタワー

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「ふぅ……」

 いつものように「綺麗になれますように」と念じながらメイクして、鏡に映った自分を見て溜め息をつく。

(……メイクテクを教えてもらっても、土台は変わらないもんなぁ。まつエクとかしたほうがいいんだろうか)

 睫毛美容液は塗っているが、伸びたのか伸びていないのだか分からない。

 そんな事を考えながら、バッグの中を確認してから一階に下りた。



**



「じゃあ、行ってくるね」

 御劔邸の前にはもうすでに車が横付けされていて、あとは会社に向かうだけだ。

「うん、明日イベント見に行くからね」

 玄関で皆と挨拶をしてから、香澄は佑と一緒に家を出る。

「元旦から付き合わせて悪いな」

「いいえ。社長が仕事でイベントチェックをされるなら、秘書である私が同行するのは当たり前です」

 家を出て、香澄はもうスイッチを切り替えている。

 車の前には小金井、呉代が立っていた。
 小金井は佑に折り目正しくお辞儀をし、ドアを開けて二人を後部座席に招き入れた。

 そして運転席に乗り、シートベルトを締めて発進する。

「呉代さん、あけましておめでとうございます」

「あけましておめでとうございます」

 助手席の呉代は、ホットの缶コーヒーのプルタブを引く。

「元旦からすまないな」

「いえ。ぼっちですから問題ないです」

 なんとも寂しい返事をする呉代に思わず苦笑いする。

 香澄はタブレット端末でイベントの計画表を見て、復習もかねて佑に報告し始めた。





「あけましておめでとうございます」

 十七時前にTMタワーに着いた時、社員たちはすでに出社していた。

 メインホールには契約したイベント会社主導でステージが組まれてある。

 音響関係やライトも設置されてあり、演者たちも来ているようだ。

 リハーサルが始まるのは十八時からで、先に来ているイベント会社の社員やChief Everyのイベント担当の社員は、最終確認をしていた。

「社長、あけましておめでとうございます」

 香澄が近くの者に挨拶したのを聞いて、社員たちが二人に気づいて挨拶してくる。
 イベント会社の社員や芸能人たちも、佑を見ると笑顔で近寄ってくる。

 香澄は邪魔にならない所に立ち、佑の様子を見守った。

「赤松さん、あけましておめでとうございます」

 声を掛けてきたのは、松井と河野だ。

「あけましておめでとうございます。……あ、どうも」

 河野からホットカフェラテを渡され、香澄は微笑む。

「お休み、どうでした?」

「私は久しぶりに子供たちと会いましたね」

「僕は思う存分カウントダウンライブではしゃいで、気力をチャージしました」

 河野がはしゃぐところなど想像できないのだが、充実した休みを過ごしたなら何よりだ。

「赤松さんは、ドイツからのお客様と、札幌のお友達でしたっけ」

「はい。現在進行形で楽しく過ごしています」

「滅多に会えないでしょうから、楽しいでしょう」

「そうなんです。たっぷりおしゃべりしています。それに彼女たち、明日イベントを見に来てくれるらしいので頑張らないと。……って言っても、私が何かする訳じゃありませんが」

 そのとき佑がこちらに来て、着ていたコートを香澄に預けた。
 彼は松井と河野に挨拶をして、コーヒーを飲んでから現場に戻っていく。

 ホールに面している三階バルコニーから、小休憩を取っているらしいChief Every本店のスタッフが「社長~」と手を振っていた。

 職場の空気を肌に感じ、香澄は「今年も頑張らないと」と気合いを入れる。

 そのあと香澄は舞台裏に移動し、クリスマスの時のように彼を心配させないように、すぐ側で待機する事にした。



**



「ん……、…………ん、……む、ぅ」

 場所は変わり、マティアスの部屋で麻衣はベッドに押し倒されていた。

 双子は佑と香澄が出掛けたあと、「ニューイヤーの酒を飲んでくる」と言って、フラッと出掛けてしまった。
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