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第十八部・麻衣と年越し 編
質問いいですか?
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「私は何回も聴いてるけど、御劔さんが聴いてないのって可哀想でない? ピアノのオーナーだし家主だし、いつかは聴かせてあげないと」
(麻衣ぃぃぃぃ……)
ぐぅっと目力を込めても、親友は手を振ってケラケラ笑うのみだ。
「そんな顔してもダメー。今日は無理かもしれなくても、練習していつか聴かせてあげな? 御劔さんは上手いピアノじゃなくて、香澄のピアノが聴きたいんだから」
「麻衣さん、本当にいい事を言うな。札幌とこの家を四次元ドアが繋いでいればいいのに」
自分の味方が現れたと思った佑は、調子のいい事を言う。
「じゃあ、香澄が十分練習したと思った頃に、発表会をするのはどうだ?」
「う、うー……」
「香澄? お礼をしたいんでしょ?」
麻衣が佑を擁護し、香澄は「うーん……」と自分の今の力量を考える。
「……大した曲は弾けないけど、せめて一か月は……」
「よし、分かった。一か月後と言えば二月上旬か。全員集まるのは難しいかもしれないが、一応スケジュールを立てておこう」
(あああ……)
頭を抱えたところで、佑が手を差しだした。
「戻ろう。みんな話したがってる」
「う、うん」
中座して申し訳ないなと思いつつリビングに戻ると、「あ、戻ってきた」と双子が笑いかけてくる。
「外してすみません」
「いいのよ。祝儀袋を渡されて戸惑ってしまったのでしょう? この人ったら日本の祝儀袋を『綺麗だ』と言って気に入って、今回お年玉のために、わざわざ作らせたみたい」
節子に、にこやかな笑顔で言われて香澄は曖昧に頷く。
「え、あ、……え、えぇ……」
席を外した原因はアドラーだけではないが、あのやけに豪華な祝儀袋がオーダメイドだと知り、遅れて
驚いた。
そのとき麻衣が挙手をし、節子に「質問いいですか?」と尋ねる。
「はい、どうぞ。麻衣さんで良かったわよね?」
柔和な笑みを浮かべる節子に、麻衣はチラッとマティアスを気にしながら質問する。
「その……旦那さんの事をダーリンって呼ぶの、最初、照れませんでした?」
節子は日本語ではアドラーの事を「あなた」と言っているが、たまにドイツ語が挟まる時はダーリンという意味の言葉を使っていた。
麻衣はドイツ語が分からないながらも、香澄に二人の仲の良さを教えられていたからそう質問したのだろう。
彼女の言葉を聞き、香澄は内心考える。
(マティアスさんとの将来的を考えてるのかな。結婚するとして、いつまでも〝マティアスさん〟とはいかないかもだしね)
麻衣の質問にうんうんと頷いていると、節子が「ふふふ」と笑う。
「勿論、最初は恥ずかしかったわ。根っこは純日本人ですもの。ずっと昔の生まれだし、若い頃は、似た年齢の男性には必ず〝さん〟をつけて、愛称でなんて恥ずかしくて呼べなかったわ」
「馴れ初めを聞いてもいいですか?」
麻衣はさらに質問する。
「私の実家は竹本っていう会社なのだけれど、海外の貴賓も招いて同業のパーティーが開かれたのよね。その時に、ドイツからクラウザー社の会長やファミリーが来たの。そのパーティーでこの人に話し掛けられたわ。英語は話せたし、たまたま興味があってドイツ語も習っていた事もあって、興味を持たれたの」
「凄いですね。幾つの時だったんです?」
「まだ……そうね、二十一歳くらいかしら」
二十一歳にして英会話が堪能で、ドイツ語にも〝興味〟を持っていたと聞き、香澄も麻衣も舌を巻く。
「今の節子も美しいが、当時の彼女は光り輝くほどだった。本当に真珠のように上品で美しく、私は一目で恋に落ちた」
アドラーが節子の手を握って微笑み、節子も幸せそうに笑う。
(いいなぁ……)
その姿を見て、香澄はぽつんと心の中で呟く。
佑にとても愛されている自覚はある。
けれどもっと節子のように余裕を持って、佑の愛を受け止められるようになりたいと思った。
(麻衣ぃぃぃぃ……)
ぐぅっと目力を込めても、親友は手を振ってケラケラ笑うのみだ。
「そんな顔してもダメー。今日は無理かもしれなくても、練習していつか聴かせてあげな? 御劔さんは上手いピアノじゃなくて、香澄のピアノが聴きたいんだから」
「麻衣さん、本当にいい事を言うな。札幌とこの家を四次元ドアが繋いでいればいいのに」
自分の味方が現れたと思った佑は、調子のいい事を言う。
「じゃあ、香澄が十分練習したと思った頃に、発表会をするのはどうだ?」
「う、うー……」
「香澄? お礼をしたいんでしょ?」
麻衣が佑を擁護し、香澄は「うーん……」と自分の今の力量を考える。
「……大した曲は弾けないけど、せめて一か月は……」
「よし、分かった。一か月後と言えば二月上旬か。全員集まるのは難しいかもしれないが、一応スケジュールを立てておこう」
(あああ……)
頭を抱えたところで、佑が手を差しだした。
「戻ろう。みんな話したがってる」
「う、うん」
中座して申し訳ないなと思いつつリビングに戻ると、「あ、戻ってきた」と双子が笑いかけてくる。
「外してすみません」
「いいのよ。祝儀袋を渡されて戸惑ってしまったのでしょう? この人ったら日本の祝儀袋を『綺麗だ』と言って気に入って、今回お年玉のために、わざわざ作らせたみたい」
節子に、にこやかな笑顔で言われて香澄は曖昧に頷く。
「え、あ、……え、えぇ……」
席を外した原因はアドラーだけではないが、あのやけに豪華な祝儀袋がオーダメイドだと知り、遅れて
驚いた。
そのとき麻衣が挙手をし、節子に「質問いいですか?」と尋ねる。
「はい、どうぞ。麻衣さんで良かったわよね?」
柔和な笑みを浮かべる節子に、麻衣はチラッとマティアスを気にしながら質問する。
「その……旦那さんの事をダーリンって呼ぶの、最初、照れませんでした?」
節子は日本語ではアドラーの事を「あなた」と言っているが、たまにドイツ語が挟まる時はダーリンという意味の言葉を使っていた。
麻衣はドイツ語が分からないながらも、香澄に二人の仲の良さを教えられていたからそう質問したのだろう。
彼女の言葉を聞き、香澄は内心考える。
(マティアスさんとの将来的を考えてるのかな。結婚するとして、いつまでも〝マティアスさん〟とはいかないかもだしね)
麻衣の質問にうんうんと頷いていると、節子が「ふふふ」と笑う。
「勿論、最初は恥ずかしかったわ。根っこは純日本人ですもの。ずっと昔の生まれだし、若い頃は、似た年齢の男性には必ず〝さん〟をつけて、愛称でなんて恥ずかしくて呼べなかったわ」
「馴れ初めを聞いてもいいですか?」
麻衣はさらに質問する。
「私の実家は竹本っていう会社なのだけれど、海外の貴賓も招いて同業のパーティーが開かれたのよね。その時に、ドイツからクラウザー社の会長やファミリーが来たの。そのパーティーでこの人に話し掛けられたわ。英語は話せたし、たまたま興味があってドイツ語も習っていた事もあって、興味を持たれたの」
「凄いですね。幾つの時だったんです?」
「まだ……そうね、二十一歳くらいかしら」
二十一歳にして英会話が堪能で、ドイツ語にも〝興味〟を持っていたと聞き、香澄も麻衣も舌を巻く。
「今の節子も美しいが、当時の彼女は光り輝くほどだった。本当に真珠のように上品で美しく、私は一目で恋に落ちた」
アドラーが節子の手を握って微笑み、節子も幸せそうに笑う。
(いいなぁ……)
その姿を見て、香澄はぽつんと心の中で呟く。
佑にとても愛されている自覚はある。
けれどもっと節子のように余裕を持って、佑の愛を受け止められるようになりたいと思った。
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