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第十八部・麻衣と年越し 編

親友に相談

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 麻衣は一瞬ポカンとした顔をしていたが、「何か話があるんだな」と察したらしく、「あぁ、アレね」と立ち上がった。

「すみません。少し席を外しますね。すぐ戻ってきます」

 ペコリと会釈をしても、特に誰も何も言わず、会話に花を咲かせている。
 そのまま香澄はススス……とリビングダイニングを出て、玄関ホールにある靴を履くためのソファまで行った。

「アレってなに?」

 追いかけてきた麻衣が尋ねてくる。

「……いや。……ど、どうする? お年玉あんなにもらっちゃって……」

 そう言うと、麻衣は「あぁ」と何度か頷いた。

「香澄がもらった額、えぐいもんね」

 佑たちからもらったお年玉も、まだ中身を確認していない。
 それでも厚みが異常だ。

 学生時代まで親戚からお年玉をもらっていたとして、最高額は一万円だ。

 その一万円だって、働くようになってからどれぐらい価値があるか分かったつもりだ。

 正直、何万円、へたをすれば何十万、何百万のお金をポンともらっても、どうしたらいいか分からない。

 アドラーたちからの〝詫び金〟として口座に入った金も、怖くて口座を見ていなく、放ったらかしにしてある。

(あの人たち、日常的に巨額のお金を動かしているから、一般人が大金をもらった時の心情とか、多分考えられないんだろうなぁ……)

 頭が痛いと言わんばかりに両手で頭を抱える香澄に、麻衣が「どんまい」と声を掛ける。

「何かお礼できないかな……」

「でも正直、へたにお礼しようものなら、プライドを傷付けそうでない?」

 麻衣が言い、香澄は「あぁ……」と深く頷く。

 実の息子からのお年玉に対しても「恥」と言い切ったアンネは、心身共に自立した女性だ。

 他の人たちも、施す側の人間であって、施される人ではない。

「感謝の気持ち」や「お礼」でも、「そんなつもりじゃない」と言われそうだ。

 アンネや澪なら、怒らせてしまいかねない。

 節子は「お礼なんて考えなくてもいいのよ。強いて言うならひ孫を見せてちょうだい」と言いそうだし、アドラーに至っては「そんなに感謝してくれるなら、もっと何かしよう」と思いそうだ。

 第一にして、佑が佑だ。

 香澄の誕生日にあの度を超したプレゼントを用意した、金銭感覚のネジが三つほど外れている人を相手に、〝一般常識〟を当てはめるのが間違えている。

「……いや、金銭感覚がズレた人たちが親戚になるとしても、私は私の感覚を守りたい訳で……」

 ブツブツと呟く香澄は、不意に親友の顔を見る。

「麻衣は? 何かお礼を考えてる?」

「いやぁ……、正直、特に。お年玉のお礼って何か変でしょ。とりあえず御劔さんと残りの三人には、バレンタインに感謝のメッセージとチョコをあげるぐらいは考えてるよ。勿論あれだけの金額だから、デパートで売ってる何千円もする奴」

「な、なるほど」

 その案もあったか、と香澄は頷く。

「それにさ、〝感謝の気持ち〟を伝えたなら、しつこく〝お礼〟をしなくていいんじゃないかな?」

「そっかな……」

「だって、申し訳なさそうにしてると、向こうだって嫌な気分になるんじゃない? 『軽い気持ちであげたのに、困らせちゃった』って。せっかくいい気分でお年玉やプレゼントをくれたのに、逆に悪いじゃん」

「そうだね」

 いつも香澄が恐縮しまくっている問題を、麻衣はすんなりと受け止めている。

「そりゃお年玉もクリスマスプレゼントも、普通なら考えられない高額な物で驚いてる。でもあっちはそれが〝普通〟なんでしょ? 私たちが自分で買える贈り物をしたのと、同じ感覚なんだと思う」

「うん……」

「『贈り物をスマートに受け取ってくれると嬉しい』って言われてるんでしょ? 慣れるのは難しいかもだけど、御劔さんと結婚するなら、もっとドンと構えたほうがいいんじゃない?」

「そっか……。うん……」

 親友の意見は、焦りに焦っていた香澄の思考を落ち着かせてくれる。
 ふぅ、と息をつくと香澄はクシャッと笑った。

「麻衣って凄いね。私のほうが佑さんたちと一緒にいる時間が長いのに、麻衣のほうがずっと落ち着いてる」

「そう? 私は赤の他人だからかな。マティアスさんと付き合うって言っても、香澄みたいにChief Everyの社長と結婚したり、クラウザー社の会長と親戚になる訳じゃない。こうやって知り合いにはなれたけど、あくまで他人だから冷静でいられるんだと思う」

 彼女は落ち着いたままで、それも流石だ。
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