1,179 / 1,559
第十八部・麻衣と年越し 編
親友に相談
しおりを挟む
麻衣は一瞬ポカンとした顔をしていたが、「何か話があるんだな」と察したらしく、「あぁ、アレね」と立ち上がった。
「すみません。少し席を外しますね。すぐ戻ってきます」
ペコリと会釈をしても、特に誰も何も言わず、会話に花を咲かせている。
そのまま香澄はススス……とリビングダイニングを出て、玄関ホールにある靴を履くためのソファまで行った。
「アレってなに?」
追いかけてきた麻衣が尋ねてくる。
「……いや。……ど、どうする? お年玉あんなにもらっちゃって……」
そう言うと、麻衣は「あぁ」と何度か頷いた。
「香澄がもらった額、えぐいもんね」
佑たちからもらったお年玉も、まだ中身を確認していない。
それでも厚みが異常だ。
学生時代まで親戚からお年玉をもらっていたとして、最高額は一万円だ。
その一万円だって、働くようになってからどれぐらい価値があるか分かったつもりだ。
正直、何万円、へたをすれば何十万、何百万のお金をポンともらっても、どうしたらいいか分からない。
アドラーたちからの〝詫び金〟として口座に入った金も、怖くて口座を見ていなく、放ったらかしにしてある。
(あの人たち、日常的に巨額のお金を動かしているから、一般人が大金をもらった時の心情とか、多分考えられないんだろうなぁ……)
頭が痛いと言わんばかりに両手で頭を抱える香澄に、麻衣が「どんまい」と声を掛ける。
「何かお礼できないかな……」
「でも正直、へたにお礼しようものなら、プライドを傷付けそうでない?」
麻衣が言い、香澄は「あぁ……」と深く頷く。
実の息子からのお年玉に対しても「恥」と言い切ったアンネは、心身共に自立した女性だ。
他の人たちも、施す側の人間であって、施される人ではない。
「感謝の気持ち」や「お礼」でも、「そんなつもりじゃない」と言われそうだ。
アンネや澪なら、怒らせてしまいかねない。
節子は「お礼なんて考えなくてもいいのよ。強いて言うならひ孫を見せてちょうだい」と言いそうだし、アドラーに至っては「そんなに感謝してくれるなら、もっと何かしよう」と思いそうだ。
第一にして、佑が佑だ。
香澄の誕生日にあの度を超したプレゼントを用意した、金銭感覚のネジが三つほど外れている人を相手に、〝一般常識〟を当てはめるのが間違えている。
「……いや、金銭感覚がズレた人たちが親戚になるとしても、私は私の感覚を守りたい訳で……」
ブツブツと呟く香澄は、不意に親友の顔を見る。
「麻衣は? 何かお礼を考えてる?」
「いやぁ……、正直、特に。お年玉のお礼って何か変でしょ。とりあえず御劔さんと残りの三人には、バレンタインに感謝のメッセージとチョコをあげるぐらいは考えてるよ。勿論あれだけの金額だから、デパートで売ってる何千円もする奴」
「な、なるほど」
その案もあったか、と香澄は頷く。
「それにさ、〝感謝の気持ち〟を伝えたなら、しつこく〝お礼〟をしなくていいんじゃないかな?」
「そっかな……」
「だって、申し訳なさそうにしてると、向こうだって嫌な気分になるんじゃない? 『軽い気持ちであげたのに、困らせちゃった』って。せっかくいい気分でお年玉やプレゼントをくれたのに、逆に悪いじゃん」
「そうだね」
いつも香澄が恐縮しまくっている問題を、麻衣はすんなりと受け止めている。
「そりゃお年玉もクリスマスプレゼントも、普通なら考えられない高額な物で驚いてる。でもあっちはそれが〝普通〟なんでしょ? 私たちが自分で買える贈り物をしたのと、同じ感覚なんだと思う」
「うん……」
「『贈り物をスマートに受け取ってくれると嬉しい』って言われてるんでしょ? 慣れるのは難しいかもだけど、御劔さんと結婚するなら、もっとドンと構えたほうがいいんじゃない?」
「そっか……。うん……」
親友の意見は、焦りに焦っていた香澄の思考を落ち着かせてくれる。
ふぅ、と息をつくと香澄はクシャッと笑った。
「麻衣って凄いね。私のほうが佑さんたちと一緒にいる時間が長いのに、麻衣のほうがずっと落ち着いてる」
「そう? 私は赤の他人だからかな。マティアスさんと付き合うって言っても、香澄みたいにChief Everyの社長と結婚したり、クラウザー社の会長と親戚になる訳じゃない。こうやって知り合いにはなれたけど、あくまで他人だから冷静でいられるんだと思う」
彼女は落ち着いたままで、それも流石だ。
「すみません。少し席を外しますね。すぐ戻ってきます」
ペコリと会釈をしても、特に誰も何も言わず、会話に花を咲かせている。
そのまま香澄はススス……とリビングダイニングを出て、玄関ホールにある靴を履くためのソファまで行った。
「アレってなに?」
追いかけてきた麻衣が尋ねてくる。
「……いや。……ど、どうする? お年玉あんなにもらっちゃって……」
そう言うと、麻衣は「あぁ」と何度か頷いた。
「香澄がもらった額、えぐいもんね」
佑たちからもらったお年玉も、まだ中身を確認していない。
それでも厚みが異常だ。
学生時代まで親戚からお年玉をもらっていたとして、最高額は一万円だ。
その一万円だって、働くようになってからどれぐらい価値があるか分かったつもりだ。
正直、何万円、へたをすれば何十万、何百万のお金をポンともらっても、どうしたらいいか分からない。
アドラーたちからの〝詫び金〟として口座に入った金も、怖くて口座を見ていなく、放ったらかしにしてある。
(あの人たち、日常的に巨額のお金を動かしているから、一般人が大金をもらった時の心情とか、多分考えられないんだろうなぁ……)
頭が痛いと言わんばかりに両手で頭を抱える香澄に、麻衣が「どんまい」と声を掛ける。
「何かお礼できないかな……」
「でも正直、へたにお礼しようものなら、プライドを傷付けそうでない?」
麻衣が言い、香澄は「あぁ……」と深く頷く。
実の息子からのお年玉に対しても「恥」と言い切ったアンネは、心身共に自立した女性だ。
他の人たちも、施す側の人間であって、施される人ではない。
「感謝の気持ち」や「お礼」でも、「そんなつもりじゃない」と言われそうだ。
アンネや澪なら、怒らせてしまいかねない。
節子は「お礼なんて考えなくてもいいのよ。強いて言うならひ孫を見せてちょうだい」と言いそうだし、アドラーに至っては「そんなに感謝してくれるなら、もっと何かしよう」と思いそうだ。
第一にして、佑が佑だ。
香澄の誕生日にあの度を超したプレゼントを用意した、金銭感覚のネジが三つほど外れている人を相手に、〝一般常識〟を当てはめるのが間違えている。
「……いや、金銭感覚がズレた人たちが親戚になるとしても、私は私の感覚を守りたい訳で……」
ブツブツと呟く香澄は、不意に親友の顔を見る。
「麻衣は? 何かお礼を考えてる?」
「いやぁ……、正直、特に。お年玉のお礼って何か変でしょ。とりあえず御劔さんと残りの三人には、バレンタインに感謝のメッセージとチョコをあげるぐらいは考えてるよ。勿論あれだけの金額だから、デパートで売ってる何千円もする奴」
「な、なるほど」
その案もあったか、と香澄は頷く。
「それにさ、〝感謝の気持ち〟を伝えたなら、しつこく〝お礼〟をしなくていいんじゃないかな?」
「そっかな……」
「だって、申し訳なさそうにしてると、向こうだって嫌な気分になるんじゃない? 『軽い気持ちであげたのに、困らせちゃった』って。せっかくいい気分でお年玉やプレゼントをくれたのに、逆に悪いじゃん」
「そうだね」
いつも香澄が恐縮しまくっている問題を、麻衣はすんなりと受け止めている。
「そりゃお年玉もクリスマスプレゼントも、普通なら考えられない高額な物で驚いてる。でもあっちはそれが〝普通〟なんでしょ? 私たちが自分で買える贈り物をしたのと、同じ感覚なんだと思う」
「うん……」
「『贈り物をスマートに受け取ってくれると嬉しい』って言われてるんでしょ? 慣れるのは難しいかもだけど、御劔さんと結婚するなら、もっとドンと構えたほうがいいんじゃない?」
「そっか……。うん……」
親友の意見は、焦りに焦っていた香澄の思考を落ち着かせてくれる。
ふぅ、と息をつくと香澄はクシャッと笑った。
「麻衣って凄いね。私のほうが佑さんたちと一緒にいる時間が長いのに、麻衣のほうがずっと落ち着いてる」
「そう? 私は赤の他人だからかな。マティアスさんと付き合うって言っても、香澄みたいにChief Everyの社長と結婚したり、クラウザー社の会長と親戚になる訳じゃない。こうやって知り合いにはなれたけど、あくまで他人だから冷静でいられるんだと思う」
彼女は落ち着いたままで、それも流石だ。
13
お気に入りに追加
2,572
あなたにおすすめの小説


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる