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第十八部・麻衣と年越し 編
母子喧嘩
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「香澄さん、どうぞ」
律からもポチ袋を手渡され、翔からも「受け取って!」と渡されて、本当に泣きそうだ。
極めつけに、陽菜と澪からはプレゼントを渡された。
「香澄さん、これはちょっとした物だけど、消耗品だから受け取って」
陽菜からもらったプレゼントは、シャルネルのハンドクリームとネイルオイルだった。
「香澄さん、私からも」
澪から受け取った物は、ディアールのノートブックセットだった。
目の前がチカチカして、うまく呼吸できない感じを味わいながら、香澄は息も絶え絶えに「ありがとうございます……」とお礼を言った。
そんな香澄を、佑は気の毒そうに見て、家族にじっとりとした目を向ける。
「佑にはないわよ。あんた二十歳になってから受け取ってくれないし、あんたみたいな子にはお年玉なんかあげないからね」
アンネは佑に向かって舌を出し、佑も呆れたように言い返す。
「この歳になってお年玉をもらおうなんて思っていない。逆にあげようとしたら、母さんこそキレたじゃないか」
「当たり前よ。私はまだ現役で投資家やってるのよ? 不労所得を得ている株主を舐めないで。不動産の収入もあるし、子供に頼っていたら恥よ」
アンネがツンと言った時、衛がにこやかに口を挟んできた。
「まぁまぁ。こう言いながら、アンネさん、佑の分のお年玉は別途貯金してるから」
その途端、アンネが柳眉を逆立てて「あなた」と声を上げる。
(何だかんだ言って、佑さん大切にされてるんだなぁ)
ほっこりした香澄は「ありがとうございます」と再度全員にお礼を言い、ひとまず自分も席に着いた。
「それにしても、香澄さん、素敵なコーヒーカップを用意してくれたわね。この繊細な絵付け、流石だわ……」
節子がコーヒーカップを褒め、香澄は内心ガッツポーズを取る。
「ありがとうございます!」
それから話題はお茶菓子や年末年始の過ごし方と移り、麻衣の事になった。
彼女の話題になると、マティアスがどや顔で「俺たちはこれから一緒に札幌に行き、結婚に向けて予定を立てていくつもりだ」と話す。
麻衣は顔を真っ赤にして「ああ」だの「うう」だの言い、見ていて楽しい。
「札幌で当分賃貸に住むなら、私が所有している物件に住んでもいいわよ?」
アンネが言ったが、佑が「いや」と首を振る。
「その件については俺のところで紹介する予定だ」
「あんた、何でも自分の会社やビルにTMってつければいいってもんじゃないわよ。あなたが建てた新しいマンション、『TMナントカ』とか、結構ダサいわよ」
「うるさいな。そういう話をしてないだろ」
二人は細かい所で母子喧嘩を始め、香澄は思わず笑ってしまう。
「とにかく。マティアスと麻衣さんが札幌で不動産を探すなら、札幌支部の部下に任せるつもりだ」
「つまんないわねぇ……。私だって札幌にツテがあるのに」
「ママはなんでもいいから、人に頼られたいんだよねぇ」
そこに澪が口を挟み、アンネに睨まれる。
「御劔さんって、お母さん相手だと普通の息子さんなんだね」
麻衣が隣からコソッと囁いてきて、香澄はクスクス笑う。
「うん、そうなの。意外と普通で安心するでしょ?」
顔を見合わせてクスクス笑っている二人を、佑がチラッと見る。
「オーパとオーマはいつまで日本にいるの?」
アロイスの質問に節子が微笑んだ。
「そうね、一週間ぐらいかしら。竹本の家に挨拶をして、松の内の間に神社にお参りしたいわ」
「ふーん。僕らも一緒したほうがいい?」
クラウスの質問にアドラーが首を振った。
「いや。せっかくの日本デートだから、二人きりにしてくれ」
「Ja!」
アドラーと節子の熟年ラブラブ夫婦は、御劔家やクラウザー家の者にはいつもの事だ。
けれど麻衣は、目を丸くして香澄に囁いた。
「素敵だね」
「うん」
そのあとも皆楽しげに会話をしているが、香澄は厚みのあるポチ袋を思いだしてダラダラ冷や汗を掻いている。
(どうしよう……。あんなに沢山お年玉を頂いてしまって……。な、何か返せないかな……。この人たちにお金や、値段の張る物で〝お礼〟をしようとしても意味がないし)
困りに困っているが、本人たちがいる前で誰かに相談などできない。
(ちょっと、席を立ってみよう)
「ま、麻衣? ちょっとアレを思い出したから、ちょっと付き合ってくれる?」
香澄は麻衣にそう言い、パチパチと目配せしてみせる。
律からもポチ袋を手渡され、翔からも「受け取って!」と渡されて、本当に泣きそうだ。
極めつけに、陽菜と澪からはプレゼントを渡された。
「香澄さん、これはちょっとした物だけど、消耗品だから受け取って」
陽菜からもらったプレゼントは、シャルネルのハンドクリームとネイルオイルだった。
「香澄さん、私からも」
澪から受け取った物は、ディアールのノートブックセットだった。
目の前がチカチカして、うまく呼吸できない感じを味わいながら、香澄は息も絶え絶えに「ありがとうございます……」とお礼を言った。
そんな香澄を、佑は気の毒そうに見て、家族にじっとりとした目を向ける。
「佑にはないわよ。あんた二十歳になってから受け取ってくれないし、あんたみたいな子にはお年玉なんかあげないからね」
アンネは佑に向かって舌を出し、佑も呆れたように言い返す。
「この歳になってお年玉をもらおうなんて思っていない。逆にあげようとしたら、母さんこそキレたじゃないか」
「当たり前よ。私はまだ現役で投資家やってるのよ? 不労所得を得ている株主を舐めないで。不動産の収入もあるし、子供に頼っていたら恥よ」
アンネがツンと言った時、衛がにこやかに口を挟んできた。
「まぁまぁ。こう言いながら、アンネさん、佑の分のお年玉は別途貯金してるから」
その途端、アンネが柳眉を逆立てて「あなた」と声を上げる。
(何だかんだ言って、佑さん大切にされてるんだなぁ)
ほっこりした香澄は「ありがとうございます」と再度全員にお礼を言い、ひとまず自分も席に着いた。
「それにしても、香澄さん、素敵なコーヒーカップを用意してくれたわね。この繊細な絵付け、流石だわ……」
節子がコーヒーカップを褒め、香澄は内心ガッツポーズを取る。
「ありがとうございます!」
それから話題はお茶菓子や年末年始の過ごし方と移り、麻衣の事になった。
彼女の話題になると、マティアスがどや顔で「俺たちはこれから一緒に札幌に行き、結婚に向けて予定を立てていくつもりだ」と話す。
麻衣は顔を真っ赤にして「ああ」だの「うう」だの言い、見ていて楽しい。
「札幌で当分賃貸に住むなら、私が所有している物件に住んでもいいわよ?」
アンネが言ったが、佑が「いや」と首を振る。
「その件については俺のところで紹介する予定だ」
「あんた、何でも自分の会社やビルにTMってつければいいってもんじゃないわよ。あなたが建てた新しいマンション、『TMナントカ』とか、結構ダサいわよ」
「うるさいな。そういう話をしてないだろ」
二人は細かい所で母子喧嘩を始め、香澄は思わず笑ってしまう。
「とにかく。マティアスと麻衣さんが札幌で不動産を探すなら、札幌支部の部下に任せるつもりだ」
「つまんないわねぇ……。私だって札幌にツテがあるのに」
「ママはなんでもいいから、人に頼られたいんだよねぇ」
そこに澪が口を挟み、アンネに睨まれる。
「御劔さんって、お母さん相手だと普通の息子さんなんだね」
麻衣が隣からコソッと囁いてきて、香澄はクスクス笑う。
「うん、そうなの。意外と普通で安心するでしょ?」
顔を見合わせてクスクス笑っている二人を、佑がチラッと見る。
「オーパとオーマはいつまで日本にいるの?」
アロイスの質問に節子が微笑んだ。
「そうね、一週間ぐらいかしら。竹本の家に挨拶をして、松の内の間に神社にお参りしたいわ」
「ふーん。僕らも一緒したほうがいい?」
クラウスの質問にアドラーが首を振った。
「いや。せっかくの日本デートだから、二人きりにしてくれ」
「Ja!」
アドラーと節子の熟年ラブラブ夫婦は、御劔家やクラウザー家の者にはいつもの事だ。
けれど麻衣は、目を丸くして香澄に囁いた。
「素敵だね」
「うん」
そのあとも皆楽しげに会話をしているが、香澄は厚みのあるポチ袋を思いだしてダラダラ冷や汗を掻いている。
(どうしよう……。あんなに沢山お年玉を頂いてしまって……。な、何か返せないかな……。この人たちにお金や、値段の張る物で〝お礼〟をしようとしても意味がないし)
困りに困っているが、本人たちがいる前で誰かに相談などできない。
(ちょっと、席を立ってみよう)
「ま、麻衣? ちょっとアレを思い出したから、ちょっと付き合ってくれる?」
香澄は麻衣にそう言い、パチパチと目配せしてみせる。
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