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第十八部・麻衣と年越し 編
コーヒーとどら焼き
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「背の高いニコニコしてる男性が、佑さんのお父さんの、衛さん」
衛を見て納得したあと、麻衣はポツンと呟き眩しそうに美形一家を見る。
「……凄いね。雲上人だ……」
「皆さん、とてもいい人だよ。律さんご夫婦は穏やかな感じで、アンネさんも澪さんもツンデレかな。翔さんは、双子のお二人に印象が似てるかも」
ざっくりと御劔家の性格を説明すると、麻衣がまた素直な感想を口にする。
「御劔さんは、お父さんやお兄さん似なんだね。時々、香澄に対して突拍子もない事をするのは、ちょっと母方が入ってるかもだけど」
「だねぇ……」
苦笑いしつつ、香澄は麻衣と協力してコーヒーにお茶菓子の用意をした。
リビングでは双子が節子に懐いている。
アドラーはソファに座り、少しソワソワした様子でこちらを窺っている。
(以前の事、気にしてるのかな)
彼は以前の一件で佑に「縁を切る」と言われ、愛妻の節子にも離縁を迫られた。
アドラーの中で香澄は〝大切にしなければいけない相手〟になっただろう。
香澄はそこまで気を遣わずとも……と思うのだが、アドラーは違うのだろう。
「マイ、手伝うか」
そこにマティアスが来て、皿に載ったお茶菓子をトレーの上に載せていく。
「意外、マティアスは気の利く男だったのね」
ソファに座って脚を組んだアンネが言い、自分の前に出されたお茶菓子をチラリと一瞥する。
今日のお茶菓子は、京都の和菓子店のどら焼きだ。
どら焼きと言ってもお馴染みの丸い物ではなく、笹に包まれた棒状の物だ。
銅鑼の上でクレープのように丸く焼いた中に餡子を入れ、クルクルと巻いて笹で包んでいる。
笹ごと包丁で輪切りにし、各自食べてもらう方式だ。
マティアスは口を挟んできたアンネに、キッチンから返事をする。
「結婚して妻の役に立てる男になるつもりだ」
「あら、結婚するの? あなた」
そのやり取りを聞いて、麻衣がブヒュッと噎せる。
「麻衣、しっかり。マティアスさんって、あちこちで惚気るタイプと見た」
「~~~~冷静な分析はいいからもう……」
ドリップしていたコーヒーが落ち、香澄は温めておいたカップにコーヒーを注いでいく。
今回使うのは、九谷焼のコーヒーカップとソーサーだ。
以前佑から聞いていたが、もしこのように全員が来客として訪れた場合、食事や食器などは節子の好みに合わせたほうがいいと教えられた。
アンネはかなり気分屋で、外では色んな物を楽しみたいが、自宅ではシンプルな食器を使っているらしい。
自宅で落ち着いて過ごす分、彼女は〝外〟に様々な事を求めるようだ。
それで香澄にもあれこれ要求するのだが、節子が一緒にいる時は無視していいと言われた。
知っての通り、節子はクラウザー家で最も重要な存在だ。
ブルーメンブラットヴィルでも通年着物で過ごすこだわりようで、あの城に住みながら純和風の和室を持つ。
まめに帰国しては好みの着物、焼き物、伝統工芸品を買い、ドイツに運んでいる。
ドイツに嫁いでも日本を愛しているのは自明だ。
一方で、アドラーたち一族にすり寄ろうとした者の自宅へ招かれ、「日本びいきなんです」と言われた玄関先で、着物を玄関マットにされている光景を見て、笑顔で「帰りましょう」と言った過去がある。
勿論アドラーはその者との付き合いをやめた。
普段は夫の隣でニコニコしているようでいながら、彼女が気に入るかどうかですべてが決まる側面を持っている。
彼女の機嫌が良くなるのなら、アドラーも子供、孫たちも日本びいきで生きていく。
だから、『クラウザー家をもてなすには節子ファーストを心がけよ』になるのだ。
(私も可愛いと思ったコーヒーカップだから、気に入ってくださるといいけど)
そう思いながら、香澄は量に差がつかないようにコーヒーを注いでいく。
佑はマティアス、麻衣と協力して、人数分のどら焼きと砂糖やミルクを運んでいた。
「お待たせしました」
湯気の立ったコーヒーを出し終わったあと、香澄は床に正座をしてペコリと頭を下げる。
顔を上げると、ニコニコした節子と目が合った。
「改めまして、あけましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致します」
「香澄さん、あけましておめでとう。今年もどうか宜しくね」
節子は何の躊躇いもなく自分も床に正座をし、香澄に新年の挨拶をする。衛も同様だ。
アンネはソファの上から微動だにせず「今年もよろしくね」と言い、アドラーは妻の姿を見てどうしたらいいものか迷っている。
そうしているうちに、節子は再びソファに座ってしまい、アドラーはタイミングを失ってしまった。
「香澄さん、今年も佑ともども、クラウザー一族を宜しく頼む」
最終的にアドラーはそう言い、立ち上がって近付いてきた。
衛を見て納得したあと、麻衣はポツンと呟き眩しそうに美形一家を見る。
「……凄いね。雲上人だ……」
「皆さん、とてもいい人だよ。律さんご夫婦は穏やかな感じで、アンネさんも澪さんもツンデレかな。翔さんは、双子のお二人に印象が似てるかも」
ざっくりと御劔家の性格を説明すると、麻衣がまた素直な感想を口にする。
「御劔さんは、お父さんやお兄さん似なんだね。時々、香澄に対して突拍子もない事をするのは、ちょっと母方が入ってるかもだけど」
「だねぇ……」
苦笑いしつつ、香澄は麻衣と協力してコーヒーにお茶菓子の用意をした。
リビングでは双子が節子に懐いている。
アドラーはソファに座り、少しソワソワした様子でこちらを窺っている。
(以前の事、気にしてるのかな)
彼は以前の一件で佑に「縁を切る」と言われ、愛妻の節子にも離縁を迫られた。
アドラーの中で香澄は〝大切にしなければいけない相手〟になっただろう。
香澄はそこまで気を遣わずとも……と思うのだが、アドラーは違うのだろう。
「マイ、手伝うか」
そこにマティアスが来て、皿に載ったお茶菓子をトレーの上に載せていく。
「意外、マティアスは気の利く男だったのね」
ソファに座って脚を組んだアンネが言い、自分の前に出されたお茶菓子をチラリと一瞥する。
今日のお茶菓子は、京都の和菓子店のどら焼きだ。
どら焼きと言ってもお馴染みの丸い物ではなく、笹に包まれた棒状の物だ。
銅鑼の上でクレープのように丸く焼いた中に餡子を入れ、クルクルと巻いて笹で包んでいる。
笹ごと包丁で輪切りにし、各自食べてもらう方式だ。
マティアスは口を挟んできたアンネに、キッチンから返事をする。
「結婚して妻の役に立てる男になるつもりだ」
「あら、結婚するの? あなた」
そのやり取りを聞いて、麻衣がブヒュッと噎せる。
「麻衣、しっかり。マティアスさんって、あちこちで惚気るタイプと見た」
「~~~~冷静な分析はいいからもう……」
ドリップしていたコーヒーが落ち、香澄は温めておいたカップにコーヒーを注いでいく。
今回使うのは、九谷焼のコーヒーカップとソーサーだ。
以前佑から聞いていたが、もしこのように全員が来客として訪れた場合、食事や食器などは節子の好みに合わせたほうがいいと教えられた。
アンネはかなり気分屋で、外では色んな物を楽しみたいが、自宅ではシンプルな食器を使っているらしい。
自宅で落ち着いて過ごす分、彼女は〝外〟に様々な事を求めるようだ。
それで香澄にもあれこれ要求するのだが、節子が一緒にいる時は無視していいと言われた。
知っての通り、節子はクラウザー家で最も重要な存在だ。
ブルーメンブラットヴィルでも通年着物で過ごすこだわりようで、あの城に住みながら純和風の和室を持つ。
まめに帰国しては好みの着物、焼き物、伝統工芸品を買い、ドイツに運んでいる。
ドイツに嫁いでも日本を愛しているのは自明だ。
一方で、アドラーたち一族にすり寄ろうとした者の自宅へ招かれ、「日本びいきなんです」と言われた玄関先で、着物を玄関マットにされている光景を見て、笑顔で「帰りましょう」と言った過去がある。
勿論アドラーはその者との付き合いをやめた。
普段は夫の隣でニコニコしているようでいながら、彼女が気に入るかどうかですべてが決まる側面を持っている。
彼女の機嫌が良くなるのなら、アドラーも子供、孫たちも日本びいきで生きていく。
だから、『クラウザー家をもてなすには節子ファーストを心がけよ』になるのだ。
(私も可愛いと思ったコーヒーカップだから、気に入ってくださるといいけど)
そう思いながら、香澄は量に差がつかないようにコーヒーを注いでいく。
佑はマティアス、麻衣と協力して、人数分のどら焼きと砂糖やミルクを運んでいた。
「お待たせしました」
湯気の立ったコーヒーを出し終わったあと、香澄は床に正座をしてペコリと頭を下げる。
顔を上げると、ニコニコした節子と目が合った。
「改めまして、あけましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致します」
「香澄さん、あけましておめでとう。今年もどうか宜しくね」
節子は何の躊躇いもなく自分も床に正座をし、香澄に新年の挨拶をする。衛も同様だ。
アンネはソファの上から微動だにせず「今年もよろしくね」と言い、アドラーは妻の姿を見てどうしたらいいものか迷っている。
そうしているうちに、節子は再びソファに座ってしまい、アドラーはタイミングを失ってしまった。
「香澄さん、今年も佑ともども、クラウザー一族を宜しく頼む」
最終的にアドラーはそう言い、立ち上がって近付いてきた。
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