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第十八部・麻衣と年越し 編

おせちタイム

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「家ん中でお参りするんだね」

「この『雲』って何?」

 双子は珍しそうに雲紙を見ている。

「説明は食事の時に。まずお参り」

 佑に言われ、ひとまず全員でお参りをする。

 昨晩、初詣に行ったが、また手を合わせて念入りに心の中で願い事をする。
 あまりにも念入りに願っていたからか、終わって目を開けるとニヤニヤした双子と目が合ってしまった。

「す、すみません」

 会釈をしてから慌ててお屠蘇を注いでもらい、この中で年少者である香澄と麻衣から飲む。

 飲む時は東向きで、お屠蘇は右側から注ぐ。
 飲む順番は年少者から順番だ。

 若者の生気を年長者が飲み取るという意味と、毒味の名残があるとも言われている。

 略式ながらもお屠蘇を飲みきったあと、ようやく席についておせちを食べ始めた。

「ねーねー、あの『雲』って何?」

 数の子をポリポリ食べつつクラウスが尋ね、佑はタラバガニの身をほじりながら答える。

「神棚は神様の家だから、上階がある時は、雲紙や雲板を天井に貼って、神様の上は空しかないですよ、ってやるんだ」

「ふぅーん。タスクが書いたの?」

「いや、神主さんに頼んだ」

「へぇ~」

 クラウスは雑煮を食べて頷き、「僕、すまし汁好きだよ」と香澄に微笑みかける。

「ありがとうございます」

 お礼を言った香澄は、心の中で「邪気払い!」と念じて黒豆をコリコリと食べる。

(今年もマメに働きます! 佑さんの役に立てますように)

「香澄」

「ん?」

 隣に座っている麻衣に話し掛けられ、「取り皿」と言われたので、素直に取り皿を差しだす。

 すると煮ハマグリと数の子を、ポンポンとのせられる。

「はい。夫婦円満と子だくさん、子孫繁栄」

「んふんっ」

 香澄は口に入った黒豆を噴き出しそうになりながら、取り皿をテーブルに置いた。

「あー、そう言えばおせちって何かダジャレみたいな意味があったんだっけ?」

「そうそう。オーマが言ってた」

「タスクー、教えて」

「はいはい」

 知識を貪欲に吸収しようとする双子を微笑ましく見ながら、香澄は皆と一緒に新年を迎えられた事に感謝した。





 玄関のチャイムが鳴ったのは、佑が膨大な量の年賀状を読み、香澄たちがテレビで駅伝を流しながら雑談していた時だ。

「あっ」

(アンネさん達が来るかもしれないって言ってたんだった!)

 まったりしすぎていた香澄は、慌てて立ちあがる。

 佑を見ると、溜め息をつきながら立ち上がったところだ。

 一緒に玄関に向かいドアを開けると、アンネと衛、律と陽菜に翔に澪、そしてアドラーと節子がいた。

「あけましておめでとう」

 先頭にいるアンネが、腕を組み仁王立ちになって言う。

「えぇ……」

 一家勢揃いでくると思っていなかった佑は頭を抱え、まさかドイツから祖父母まで来るとは……と二度も頭を抱えた。

「香澄さん、あけましておめでとう。来ちゃった」

 ニコニコした節子に言われ、香澄はとにかく笑顔で返事をする。

「あけましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します……」

 節子は勿論、澪も陽菜も着物姿だ。

(ひょええええ……!)

 一杯一杯になって挨拶した香澄を見て、アンネが非難めいた声を出す。

「なによ。せっかくの元旦なのに、香澄さんに着物を着せてないの?」

 ちなみに彼女はハイブランドのコートの裾から、着物柄のワンピースを覗かせている。

 首元には毛皮のマフラーを巻き、今日も一分の隙もない。

「初詣は昨晩行ったから、その時に振り袖を着せた」

 新年早々バチバチと火花を散らせる母と息子の横から、節子がにっこりと微笑んだ。
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