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第十八部・麻衣と年越し 編
合法で人に金を渡していい日
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(やけにポケットの中で存在感を主張してくるな)
そう思いながらも麻衣はうま煮を盛り、香澄は餅を焼いて次々にひっくり返していく。
「あ、僕、餅三つ食べたい」
「俺も」
「分かりました。自分の感覚で二つだったんですけど、三つがいい人!」
挙手を願うと、マティアスも手を上げた。
「はい、マティアスさんも三つ。佑さんは二つでいいの?」
「ああ」
餅も斎藤が餅つき機で作ってくれ、手作りだ。
やがて人数分の餅を焼き終えて、あつあつのすまし汁をかけ、最後に柚子の皮を香り付けにのせて、雑煮が完成した。
香澄も佑も、すまし汁の雑煮で育ったので、意見がぶつからずに安心している。
もっとも香澄は餅が大好きなので、どんな食べ方でも美味しく食べられる自信がある。
お椀の蓋を閉じてダイニングに運んでから、ようやく香澄はポケットの中に入っている物を出した。
「ふぇっ!?」
硬いなと思っていたそれは、中身がびっちり詰まったポチ袋だ。
本当にギリギリのギリまで詰めているようで、中身を想像すると頭が痛い。
それが二人分なので、さらに胃が痛くなる。
「あっ、あの、こんなに受け取れません!」
「ホントに! お年玉もらおうとか思ってませんから!」
麻衣と二人で真っ青になってわあわあ騒いだが、双子は蛙の面に水だ。
「えー? だって正月って言ったらお年玉でしょ? よく分かんないけど、玉を落とすんでしょ? ぶふっ」
「そうそう。それでポチ袋なんでしょ? 犬のポチ。猫のタマ袋じゃなくて。ぶふっ」
おせち料理の準備をしている間、双子が上階でゲラゲラ笑っていたが、何で笑っていたのかがよく分かった。
「それはいいですから、お金はもらえないです。ねぇ、佑さん」
同意を求めると、佑はサッと目を逸らした。
それだけで香澄にはピーンと分かってしまった。
(……この反応。佑さんもお年玉を用意してる)
ハッと思って「ねぇ、マティアスさん」と最後の望みを託して問いかける。
するとマティアスがポケットからポチ袋を取りだし、「本年もよろしくお願いします」と香澄と麻衣に手渡してきた。
「あああああ……!」
「何なのこの金銭感覚狂った男たち!」
麻衣と二人で絶望していると、どういう感情なのか、佑がはにかみながら言う。
「ここまできたら仕方がないな。あとからと思っていたけど、俺からも……」
そう言って佑はリビングの引き出しから、パンパンに中身が詰まったポチ袋を取りだし、香澄と麻衣に握らせてきた。
「……全員お父さんだ……」
香澄はガックリと肩を落とし、可哀想なぐらいパンパンになったポチ袋四つを見て、さらに絶望する。
「あっは、それってパパ活ってやつ?」
「違います!」
心底楽しそうな双子にクワッと目を剥いて言い返したあと、香澄はしみじみと言う。
「あの……。これ返金できませんか?」
「私も。こんな恐ろしい額、受け取れません」
麻衣と二人で抗議したが、双子は両手で頭上にバツを描く。
そして「ぶっぶー!」と、子供のように言って笑った。
「だーって日本円の現金戻されても、俺たち使わないもん」
「そうそう。日本での買い物はキャッシュレスって決めてるし、ドイツでもほぼ現金持たないもんなー」
「お賽銭入れてたじゃないですか」
じろっと下からねめ上げると、双子は惚けた顔をする。
「あれはあれ、これはこれ」
「そうそう。財布に現金入れて持ち歩くなんてリスキーな事、僕たちしないもん」
それは以前、双子にチラッと聞いた。
海外では日本よりキャッシュレス化が進んでいる上、場所によっては治安の宜しくない所もあるので、彼らは基本的に現金を持ち歩かないそうだ。
「という事で、カスミたちは平和な日本で、現金ジャンジャン使って経済回してね!」
ポン、と双子に肩を叩かれ、香澄は麻衣と顔を見合わせる。
「元旦は合法で人に金を渡していい日だと聞いた。素直に受け取っておくといい」
マティアスが周囲をざわつかせる事を言い、香澄と麻衣は余計に不安になる。
「それはともかく、これは〝お年玉〟だから。あまり深く考えずに受け取ってくれ。お小遣いだと思えば……。な?」
佑まで笑顔でポチ袋を持った手をギュッと握らせてくるので、タチが悪い。
「……贈与税かかるのに……」
香澄がポツンと呟くと、隣で麻衣がげんなりとしていた。
「ていうかさ、雑煮冷めるから早く食べようよ」
「あ! そ、そうでした。取りあえずあとで!」
香澄はせっかくの雑煮が冷めてはいけないと、ダイニングテーブルの隅にポチ袋を置くと、リビングの東側にある神棚に向かった。
そう思いながらも麻衣はうま煮を盛り、香澄は餅を焼いて次々にひっくり返していく。
「あ、僕、餅三つ食べたい」
「俺も」
「分かりました。自分の感覚で二つだったんですけど、三つがいい人!」
挙手を願うと、マティアスも手を上げた。
「はい、マティアスさんも三つ。佑さんは二つでいいの?」
「ああ」
餅も斎藤が餅つき機で作ってくれ、手作りだ。
やがて人数分の餅を焼き終えて、あつあつのすまし汁をかけ、最後に柚子の皮を香り付けにのせて、雑煮が完成した。
香澄も佑も、すまし汁の雑煮で育ったので、意見がぶつからずに安心している。
もっとも香澄は餅が大好きなので、どんな食べ方でも美味しく食べられる自信がある。
お椀の蓋を閉じてダイニングに運んでから、ようやく香澄はポケットの中に入っている物を出した。
「ふぇっ!?」
硬いなと思っていたそれは、中身がびっちり詰まったポチ袋だ。
本当にギリギリのギリまで詰めているようで、中身を想像すると頭が痛い。
それが二人分なので、さらに胃が痛くなる。
「あっ、あの、こんなに受け取れません!」
「ホントに! お年玉もらおうとか思ってませんから!」
麻衣と二人で真っ青になってわあわあ騒いだが、双子は蛙の面に水だ。
「えー? だって正月って言ったらお年玉でしょ? よく分かんないけど、玉を落とすんでしょ? ぶふっ」
「そうそう。それでポチ袋なんでしょ? 犬のポチ。猫のタマ袋じゃなくて。ぶふっ」
おせち料理の準備をしている間、双子が上階でゲラゲラ笑っていたが、何で笑っていたのかがよく分かった。
「それはいいですから、お金はもらえないです。ねぇ、佑さん」
同意を求めると、佑はサッと目を逸らした。
それだけで香澄にはピーンと分かってしまった。
(……この反応。佑さんもお年玉を用意してる)
ハッと思って「ねぇ、マティアスさん」と最後の望みを託して問いかける。
するとマティアスがポケットからポチ袋を取りだし、「本年もよろしくお願いします」と香澄と麻衣に手渡してきた。
「あああああ……!」
「何なのこの金銭感覚狂った男たち!」
麻衣と二人で絶望していると、どういう感情なのか、佑がはにかみながら言う。
「ここまできたら仕方がないな。あとからと思っていたけど、俺からも……」
そう言って佑はリビングの引き出しから、パンパンに中身が詰まったポチ袋を取りだし、香澄と麻衣に握らせてきた。
「……全員お父さんだ……」
香澄はガックリと肩を落とし、可哀想なぐらいパンパンになったポチ袋四つを見て、さらに絶望する。
「あっは、それってパパ活ってやつ?」
「違います!」
心底楽しそうな双子にクワッと目を剥いて言い返したあと、香澄はしみじみと言う。
「あの……。これ返金できませんか?」
「私も。こんな恐ろしい額、受け取れません」
麻衣と二人で抗議したが、双子は両手で頭上にバツを描く。
そして「ぶっぶー!」と、子供のように言って笑った。
「だーって日本円の現金戻されても、俺たち使わないもん」
「そうそう。日本での買い物はキャッシュレスって決めてるし、ドイツでもほぼ現金持たないもんなー」
「お賽銭入れてたじゃないですか」
じろっと下からねめ上げると、双子は惚けた顔をする。
「あれはあれ、これはこれ」
「そうそう。財布に現金入れて持ち歩くなんてリスキーな事、僕たちしないもん」
それは以前、双子にチラッと聞いた。
海外では日本よりキャッシュレス化が進んでいる上、場所によっては治安の宜しくない所もあるので、彼らは基本的に現金を持ち歩かないそうだ。
「という事で、カスミたちは平和な日本で、現金ジャンジャン使って経済回してね!」
ポン、と双子に肩を叩かれ、香澄は麻衣と顔を見合わせる。
「元旦は合法で人に金を渡していい日だと聞いた。素直に受け取っておくといい」
マティアスが周囲をざわつかせる事を言い、香澄と麻衣は余計に不安になる。
「それはともかく、これは〝お年玉〟だから。あまり深く考えずに受け取ってくれ。お小遣いだと思えば……。な?」
佑まで笑顔でポチ袋を持った手をギュッと握らせてくるので、タチが悪い。
「……贈与税かかるのに……」
香澄がポツンと呟くと、隣で麻衣がげんなりとしていた。
「ていうかさ、雑煮冷めるから早く食べようよ」
「あ! そ、そうでした。取りあえずあとで!」
香澄はせっかくの雑煮が冷めてはいけないと、ダイニングテーブルの隅にポチ袋を置くと、リビングの東側にある神棚に向かった。
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