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第十八部・麻衣と年越し 編

初詣デート

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 正直、二人ともぼんやりと「着物って高いんだろうなぁ」と思っている程度で、値段の見当がつかない。馴染みがないからだ。

 だが毛皮となれば、馴染みがなくても「高級品!」というアンテナがピンと立つ。

 麻衣が香澄にコソコソ囁いたのを、佑は地獄耳でキャッチしてにっこり笑う。

「おや、麻衣さん。本性とは意外だな。好きな女と大切な友人には、いい物をプレゼントしたいと思うのは、男のエゴだろうか?」

 その綺麗すぎる笑みが怖くて、二人とも固まって何も言えなくなる。

「……ね? 言ったでしょ? 娘の晴れ舞台を喜ぶお父さんみたいになるの」

 ボソボソ言う香澄の声を拾い、佑はさらに笑みを深める。
 が、気持ちを切り替えて話題を変えた。

「それはいいとして、あまり夜更かしするのも良くないから、早く出かけよう。多分、明日の昼間には、家族が押しかけてきそうな気がするし」

 佑は香澄の手からセーブルのケープを取り上げ、肩にフワッと掛けて留め具で留める。

「う、うん」

 さすがにそう言われると、近所へのお参りとて悠長にしていられない。

 着物だと洋服と同じようにといかず、片付けるのも時間がかかる。
 ばっちりメイクをしているので、メイク落としをする手間もある。

「貴重品はこれに入れて」

 そう言って佑は、香澄と麻衣にポンポンとちりめんの和装バッグを渡す。

「痒いところに手が届く、御劔呉服屋……」

 麻衣がボソッと言い、香澄はケラケラ笑った。

 支度が終わったあと、玄関で草履を履く。

 男性陣は首にマフラーを巻き、双子たちは帽子を被り、それぞれ雪駄だ。

「「いってきまーす!」」

「いってらっしゃいませ、タスクさん」

 双子の明るい声に、フェリシアがいつものように応えた。



**



 佑の毎年の習慣らしく、初詣は近所の神社二箇所をはしごするらしい。

 目的地を氷川神社に定め、その途中にある古地老こじろう稲荷神社にも寄る。

 片道約二十分ほどの道のりを、香澄たちはのんびりと歩いた。
 周囲は白金台の駅が近い事や、住宅地がある事も相まって、この時間でも初詣に行こうとする人々が外に出ている。

 ビシッと着物で決めた男女六人を、道行く人が「何かの撮影?」と言って見てくる。

 佑は顔をごまかすために、双子同様ウールの中折れハットを被っていた。
 変装しているはずなのに、帽子を被るとモデルっぽさが出て、さらに注目を浴びている。

「女の子ってどこの国でもキャーキャー騒ぐのは変わらないんだね」

 クラウスは、自分たちを見て顔を赤らめている女性にウインクを送り、笑う。

「全員という訳ではない。少なくともマイは俺しか見ていないから」

 マティアスが分かる人には分かるどや顔をし、香澄は思わず肩を震わせて笑った。

「や、やめてくださいよ。人がいる前でそういうのは嫌です」

「そうか? 難しいな」

 マティアスに手を繋がれている麻衣は、真っ赤になっている。

(麻衣、これからマティアスさんとの距離感に悩むだろうなぁ……。がんば!)

 香澄は心の中でエールを送る。

 マティアスが幾ら感情表現の少ない人とはいえ、生まれ育ちはドイツだ。
 キスやハグが日常の文化で、寡黙なほうとはいえ、言いたい事はストレートに言う。

 無防備な麻衣がたやすくキスやハグをされ、甘い言葉を掛けられてうろたえるのが目に浮かぶ。

 マティアスは、女性に歯の浮くような台詞をすらすら言える男ではない。

 だがそのストレートさが、軟派な男よりずっと威力のある言葉を言わせる事もある。

 それに対し麻衣はシャイな日本人で、おまけにマティアスが初めての彼氏だ。

「こんな事、日本人はしない!」と恥ずかしがってキレてしまう可能性もある。

(うまくいくといいな。マティアスさんにはそれとなく、麻衣の攻略法を教えておこう。無自覚ドストレートは貴重だけど、距離感を間違えると麻衣が照れ過ぎちゃうかもしれない)

 そう考えている香澄は、佑に手を繋がれている。

 着物デートができるなんて思っていなかったし、麻衣も含めた皆で初詣というのも嬉しすぎる。

 二人きりなら注目を浴びる事に後ろめたさを感じるが、今は皆がいるので、堂々と佑と手を繋いで外を歩ける。

 すべての状況が嬉しくて、香澄は歩きながらニヤニヤしていた。

 やがて目的地の一つである古地老稲荷神社に着いてお参りをし、香澄は手を合わせ、念入りにお願い事をする。
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