1,165 / 1,549
第十八部・麻衣と年越し 編
初詣デート
しおりを挟む
正直、二人ともぼんやりと「着物って高いんだろうなぁ」と思っている程度で、値段の見当がつかない。馴染みがないからだ。
だが毛皮となれば、馴染みがなくても「高級品!」というアンテナがピンと立つ。
麻衣が香澄にコソコソ囁いたのを、佑は地獄耳でキャッチしてにっこり笑う。
「おや、麻衣さん。本性とは意外だな。好きな女と大切な友人には、いい物をプレゼントしたいと思うのは、男のエゴだろうか?」
その綺麗すぎる笑みが怖くて、二人とも固まって何も言えなくなる。
「……ね? 言ったでしょ? 娘の晴れ舞台を喜ぶお父さんみたいになるの」
ボソボソ言う香澄の声を拾い、佑はさらに笑みを深める。
が、気持ちを切り替えて話題を変えた。
「それはいいとして、あまり夜更かしするのも良くないから、早く出かけよう。多分、明日の昼間には、家族が押しかけてきそうな気がするし」
佑は香澄の手からセーブルのケープを取り上げ、肩にフワッと掛けて留め具で留める。
「う、うん」
さすがにそう言われると、近所へのお参りとて悠長にしていられない。
着物だと洋服と同じようにといかず、片付けるのも時間がかかる。
ばっちりメイクをしているので、メイク落としをする手間もある。
「貴重品はこれに入れて」
そう言って佑は、香澄と麻衣にポンポンとちりめんの和装バッグを渡す。
「痒いところに手が届く、御劔呉服屋……」
麻衣がボソッと言い、香澄はケラケラ笑った。
支度が終わったあと、玄関で草履を履く。
男性陣は首にマフラーを巻き、双子たちは帽子を被り、それぞれ雪駄だ。
「「いってきまーす!」」
「いってらっしゃいませ、タスクさん」
双子の明るい声に、フェリシアがいつものように応えた。
**
佑の毎年の習慣らしく、初詣は近所の神社二箇所をはしごするらしい。
目的地を氷川神社に定め、その途中にある古地老稲荷神社にも寄る。
片道約二十分ほどの道のりを、香澄たちはのんびりと歩いた。
周囲は白金台の駅が近い事や、住宅地がある事も相まって、この時間でも初詣に行こうとする人々が外に出ている。
ビシッと着物で決めた男女六人を、道行く人が「何かの撮影?」と言って見てくる。
佑は顔をごまかすために、双子同様ウールの中折れハットを被っていた。
変装しているはずなのに、帽子を被るとモデルっぽさが出て、さらに注目を浴びている。
「女の子ってどこの国でもキャーキャー騒ぐのは変わらないんだね」
クラウスは、自分たちを見て顔を赤らめている女性にウインクを送り、笑う。
「全員という訳ではない。少なくともマイは俺しか見ていないから」
マティアスが分かる人には分かるどや顔をし、香澄は思わず肩を震わせて笑った。
「や、やめてくださいよ。人がいる前でそういうのは嫌です」
「そうか? 難しいな」
マティアスに手を繋がれている麻衣は、真っ赤になっている。
(麻衣、これからマティアスさんとの距離感に悩むだろうなぁ……。がんば!)
香澄は心の中でエールを送る。
マティアスが幾ら感情表現の少ない人とはいえ、生まれ育ちはドイツだ。
キスやハグが日常の文化で、寡黙なほうとはいえ、言いたい事はストレートに言う。
無防備な麻衣がたやすくキスやハグをされ、甘い言葉を掛けられてうろたえるのが目に浮かぶ。
マティアスは、女性に歯の浮くような台詞をすらすら言える男ではない。
だがそのストレートさが、軟派な男よりずっと威力のある言葉を言わせる事もある。
それに対し麻衣はシャイな日本人で、おまけにマティアスが初めての彼氏だ。
「こんな事、日本人はしない!」と恥ずかしがってキレてしまう可能性もある。
(うまくいくといいな。マティアスさんにはそれとなく、麻衣の攻略法を教えておこう。無自覚ドストレートは貴重だけど、距離感を間違えると麻衣が照れ過ぎちゃうかもしれない)
そう考えている香澄は、佑に手を繋がれている。
着物デートができるなんて思っていなかったし、麻衣も含めた皆で初詣というのも嬉しすぎる。
二人きりなら注目を浴びる事に後ろめたさを感じるが、今は皆がいるので、堂々と佑と手を繋いで外を歩ける。
すべての状況が嬉しくて、香澄は歩きながらニヤニヤしていた。
やがて目的地の一つである古地老稲荷神社に着いてお参りをし、香澄は手を合わせ、念入りにお願い事をする。
だが毛皮となれば、馴染みがなくても「高級品!」というアンテナがピンと立つ。
麻衣が香澄にコソコソ囁いたのを、佑は地獄耳でキャッチしてにっこり笑う。
「おや、麻衣さん。本性とは意外だな。好きな女と大切な友人には、いい物をプレゼントしたいと思うのは、男のエゴだろうか?」
その綺麗すぎる笑みが怖くて、二人とも固まって何も言えなくなる。
「……ね? 言ったでしょ? 娘の晴れ舞台を喜ぶお父さんみたいになるの」
ボソボソ言う香澄の声を拾い、佑はさらに笑みを深める。
が、気持ちを切り替えて話題を変えた。
「それはいいとして、あまり夜更かしするのも良くないから、早く出かけよう。多分、明日の昼間には、家族が押しかけてきそうな気がするし」
佑は香澄の手からセーブルのケープを取り上げ、肩にフワッと掛けて留め具で留める。
「う、うん」
さすがにそう言われると、近所へのお参りとて悠長にしていられない。
着物だと洋服と同じようにといかず、片付けるのも時間がかかる。
ばっちりメイクをしているので、メイク落としをする手間もある。
「貴重品はこれに入れて」
そう言って佑は、香澄と麻衣にポンポンとちりめんの和装バッグを渡す。
「痒いところに手が届く、御劔呉服屋……」
麻衣がボソッと言い、香澄はケラケラ笑った。
支度が終わったあと、玄関で草履を履く。
男性陣は首にマフラーを巻き、双子たちは帽子を被り、それぞれ雪駄だ。
「「いってきまーす!」」
「いってらっしゃいませ、タスクさん」
双子の明るい声に、フェリシアがいつものように応えた。
**
佑の毎年の習慣らしく、初詣は近所の神社二箇所をはしごするらしい。
目的地を氷川神社に定め、その途中にある古地老稲荷神社にも寄る。
片道約二十分ほどの道のりを、香澄たちはのんびりと歩いた。
周囲は白金台の駅が近い事や、住宅地がある事も相まって、この時間でも初詣に行こうとする人々が外に出ている。
ビシッと着物で決めた男女六人を、道行く人が「何かの撮影?」と言って見てくる。
佑は顔をごまかすために、双子同様ウールの中折れハットを被っていた。
変装しているはずなのに、帽子を被るとモデルっぽさが出て、さらに注目を浴びている。
「女の子ってどこの国でもキャーキャー騒ぐのは変わらないんだね」
クラウスは、自分たちを見て顔を赤らめている女性にウインクを送り、笑う。
「全員という訳ではない。少なくともマイは俺しか見ていないから」
マティアスが分かる人には分かるどや顔をし、香澄は思わず肩を震わせて笑った。
「や、やめてくださいよ。人がいる前でそういうのは嫌です」
「そうか? 難しいな」
マティアスに手を繋がれている麻衣は、真っ赤になっている。
(麻衣、これからマティアスさんとの距離感に悩むだろうなぁ……。がんば!)
香澄は心の中でエールを送る。
マティアスが幾ら感情表現の少ない人とはいえ、生まれ育ちはドイツだ。
キスやハグが日常の文化で、寡黙なほうとはいえ、言いたい事はストレートに言う。
無防備な麻衣がたやすくキスやハグをされ、甘い言葉を掛けられてうろたえるのが目に浮かぶ。
マティアスは、女性に歯の浮くような台詞をすらすら言える男ではない。
だがそのストレートさが、軟派な男よりずっと威力のある言葉を言わせる事もある。
それに対し麻衣はシャイな日本人で、おまけにマティアスが初めての彼氏だ。
「こんな事、日本人はしない!」と恥ずかしがってキレてしまう可能性もある。
(うまくいくといいな。マティアスさんにはそれとなく、麻衣の攻略法を教えておこう。無自覚ドストレートは貴重だけど、距離感を間違えると麻衣が照れ過ぎちゃうかもしれない)
そう考えている香澄は、佑に手を繋がれている。
着物デートができるなんて思っていなかったし、麻衣も含めた皆で初詣というのも嬉しすぎる。
二人きりなら注目を浴びる事に後ろめたさを感じるが、今は皆がいるので、堂々と佑と手を繋いで外を歩ける。
すべての状況が嬉しくて、香澄は歩きながらニヤニヤしていた。
やがて目的地の一つである古地老稲荷神社に着いてお参りをし、香澄は手を合わせ、念入りにお願い事をする。
13
お気に入りに追加
2,546
あなたにおすすめの小説
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる