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第十八部・麻衣と年越し 編
一軒家のほうがいいか?
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「……ビザとかあります? いつまで日本にいられますか?」
「ドイツ人はビザ免除だが、滞在は六か月以内だな。六か月を超える場合は、手続きをしなければいけない。だが住処を決めるのに六か月もかからないだろう。住まいが決まれば、一度帰国して引っ越しの準備を進める」
「国際貨物って時間が掛かるんじゃないですか? 荷物はどれぐらいで着くんでしょうか?」
「家具は置いていくし、車は手放す。身の回りの物は日本で買ったほうがいい。アロクラの飛行機で荷物を運ぶ事を考えたが、借りの代償が怖い」
(飛行機って……。御劔さんみたいにプライベートジェット持ってるのかな? うはぁ……)
「マイ」
「え? は、はい」
呆けていた時に話しかけられ、慌てて返事をする。
「思ったんだが、家族が増えるとなると、一軒家のほうがいいか?」
「ぶっ……」
(それこそ先を考えすぎ!)
突っ込もうとして考え直す。
(私、もう二十八歳だよ? 彼を逃したらもう二度とこんな人に出会えない。最初に付き合う人が、結婚する人でもいい。『現実的じゃない』とか、『普通じゃありえない』とか一般論に当てはめないで、信じてみないと)
「……中央区の土地は小さめだと思います」
「マイが譲歩してくれるなら、治安のいい区に広めの土地を買うのもいいかもしれない」
「車は必須ですし、冬は除雪必須です」
「問題ない。体力仕事なら俺が請け負う」
「……友達に不動産屋やってる男の子がいるので、ちょっと聞いてみます」
「分かった。家が建つまでは、賃貸のマンションにでも住もう」
様々な事がスピーディーに決まってゆき、麻衣は「これが合理性男の強みか……」と思い知る。
のちに香澄に報告すると、「同棲!? 新築!?」とすっとんきょうな声を上げられた。
佑が困惑し、双子が呼吸困難になるまで笑い転げたのは、二人の話し合いが終わったあとの事だ。
**
大晦日になり何をやっていたかと言うと、斎藤の手伝いだ。
だが昼過ぎにはすべてが終わり、最後は手打ち蕎麦を冷蔵庫に入れた。
斎藤は茹で時間をメモして冷蔵庫にマグネットで貼り、「それでは、良いお年を」と言って颯爽と帰っていった。
築地から届いたタラバガニはすでに茹でてあり、他の料理もすでにできている。
「さすが御劔さんちの冷蔵庫はでかいね」
「地下に冷凍庫もあるよ。業務用だけど」
「凄いねぇ」
香澄は麻衣とくっついて、コーヒーのお供に高級チョコレートをつまみながらのんびり話す。
その時、チョコをつまんだアロイスが提案してきた。
「ねぇ、どうせなら今日の夜に近所の神社に行かない? 明日はタスクたち、仕事なんだろ? 夜更かししていいなら今夜のうちに初詣を済ませて、元旦の昼間はゆっくり過ごしたら?」
比較的まともな気遣いを見せた兄に、クラウスが「そうしなよ」と同意する。
「香澄はそれでいいか?」
佑が尋ねてくる。
「近くの神社で済むなら楽だね。お仕事祈願の神社にも毎年行ってるんだっけ?」
「あぁ、愛宕神社な。近くだから、一月中に行けたらと思っている」
「私もお参りしたいな。秘書として」
キリッとして言うと、佑が「ありがとう」と微笑む。
一瞬流れた甘い雰囲気を野放しにして堪るかと、クラウスが話題にのってきた。
「商売繁盛の神様なら、僕たちもお参りしないと。なー? アロ」
「そうだね。世界中、色んなところに願掛けしても、まだまだ足りない!」
彼らの会話を聞いて、麻衣がボソッと囁いてきた。
「私らが海外に行ったとして、教会でお祈りしたら、願いって聞いてもらえるんかね?」
「さぁ? どうだろう? 言葉が通じないかも」
「あはは! あり得る」
そんな事を話しながら、去年の特番の再放送を見て、夕方までゆっくり過ごした。
**
十八時半になって年末恒例の笑ってはいけない番組を見ながら、香澄たちはズラッと並べられたご馳走を食べていた。
「ドイツ人はビザ免除だが、滞在は六か月以内だな。六か月を超える場合は、手続きをしなければいけない。だが住処を決めるのに六か月もかからないだろう。住まいが決まれば、一度帰国して引っ越しの準備を進める」
「国際貨物って時間が掛かるんじゃないですか? 荷物はどれぐらいで着くんでしょうか?」
「家具は置いていくし、車は手放す。身の回りの物は日本で買ったほうがいい。アロクラの飛行機で荷物を運ぶ事を考えたが、借りの代償が怖い」
(飛行機って……。御劔さんみたいにプライベートジェット持ってるのかな? うはぁ……)
「マイ」
「え? は、はい」
呆けていた時に話しかけられ、慌てて返事をする。
「思ったんだが、家族が増えるとなると、一軒家のほうがいいか?」
「ぶっ……」
(それこそ先を考えすぎ!)
突っ込もうとして考え直す。
(私、もう二十八歳だよ? 彼を逃したらもう二度とこんな人に出会えない。最初に付き合う人が、結婚する人でもいい。『現実的じゃない』とか、『普通じゃありえない』とか一般論に当てはめないで、信じてみないと)
「……中央区の土地は小さめだと思います」
「マイが譲歩してくれるなら、治安のいい区に広めの土地を買うのもいいかもしれない」
「車は必須ですし、冬は除雪必須です」
「問題ない。体力仕事なら俺が請け負う」
「……友達に不動産屋やってる男の子がいるので、ちょっと聞いてみます」
「分かった。家が建つまでは、賃貸のマンションにでも住もう」
様々な事がスピーディーに決まってゆき、麻衣は「これが合理性男の強みか……」と思い知る。
のちに香澄に報告すると、「同棲!? 新築!?」とすっとんきょうな声を上げられた。
佑が困惑し、双子が呼吸困難になるまで笑い転げたのは、二人の話し合いが終わったあとの事だ。
**
大晦日になり何をやっていたかと言うと、斎藤の手伝いだ。
だが昼過ぎにはすべてが終わり、最後は手打ち蕎麦を冷蔵庫に入れた。
斎藤は茹で時間をメモして冷蔵庫にマグネットで貼り、「それでは、良いお年を」と言って颯爽と帰っていった。
築地から届いたタラバガニはすでに茹でてあり、他の料理もすでにできている。
「さすが御劔さんちの冷蔵庫はでかいね」
「地下に冷凍庫もあるよ。業務用だけど」
「凄いねぇ」
香澄は麻衣とくっついて、コーヒーのお供に高級チョコレートをつまみながらのんびり話す。
その時、チョコをつまんだアロイスが提案してきた。
「ねぇ、どうせなら今日の夜に近所の神社に行かない? 明日はタスクたち、仕事なんだろ? 夜更かししていいなら今夜のうちに初詣を済ませて、元旦の昼間はゆっくり過ごしたら?」
比較的まともな気遣いを見せた兄に、クラウスが「そうしなよ」と同意する。
「香澄はそれでいいか?」
佑が尋ねてくる。
「近くの神社で済むなら楽だね。お仕事祈願の神社にも毎年行ってるんだっけ?」
「あぁ、愛宕神社な。近くだから、一月中に行けたらと思っている」
「私もお参りしたいな。秘書として」
キリッとして言うと、佑が「ありがとう」と微笑む。
一瞬流れた甘い雰囲気を野放しにして堪るかと、クラウスが話題にのってきた。
「商売繁盛の神様なら、僕たちもお参りしないと。なー? アロ」
「そうだね。世界中、色んなところに願掛けしても、まだまだ足りない!」
彼らの会話を聞いて、麻衣がボソッと囁いてきた。
「私らが海外に行ったとして、教会でお祈りしたら、願いって聞いてもらえるんかね?」
「さぁ? どうだろう? 言葉が通じないかも」
「あはは! あり得る」
そんな事を話しながら、去年の特番の再放送を見て、夕方までゆっくり過ごした。
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十八時半になって年末恒例の笑ってはいけない番組を見ながら、香澄たちはズラッと並べられたご馳走を食べていた。
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