1,158 / 1,548
第十八部・麻衣と年越し 編
俺は本気だ
しおりを挟む
けれど外見の事を言われ、心のやわい部分が酷く傷付けられた。
外見を馬鹿にする言葉は、実に短絡的で誰にでもできる悪口だ。
それゆえに、ストレートな破壊力が強い。
芸人なら自分の外見を笑いのネタにして、仕事に変えるだろう。
だが一般人はイジられても面白くもないし、苦痛なだけだ。
馬鹿にされたのがきっかけで奮起し、ダイエット……といかなかったのは、我ながら意志が弱いと思う。
高校に入って香澄と出会い、のんびりした彼女といるのが居心地が良かった。
香澄と一緒にいると、無理に周りに合わせて痩せる必要を感じなくなった。
香澄は麻衣を決して否定しない。
体型について『将来の健康が心配』と言ったら、『じゃあ一緒に運動しようか。付き合うよ』と言ってくれた。
基本的に穏やかな香澄といると、いつも楽しかった。
『香澄がいるなら彼氏がいなくてもいいかな』と思うほどには依存して、将来は女二人でシェアルーム……など考えていた。
だから彼女が札幌からいなくなり、焦りを感じた。
『香澄が変わったなら、私も一歩踏み出して変わらないと』と思ったのだ。
佑の本を買い、お洒落や美意識に少し目覚めた。
それ以来『変われたら、私の事を女として見てくれる人が現れるかも?』とうっすら期待するようになった。
積極的に『合コンに行きたい』と言えば、会社にいる嫌な女に『必死になってる』と嗤われるのがオチだ。
なので適度に学生時代の友人を頼っていた。
だが合コンに行っても、一次会で終わりがほとんどだった。
他の子たちのために必死に盛り上げ、あわよくば目立って『いい』と思ってもらえたら……と思ったが、結局、毎回盛り上げ役で終わっていた。
だから、マティアスが心配するような事は何一つとしてなかったのだ。
〝そんな自分〟だと打ち明けるのが恥ずかしく、麻衣は合コンでの事を詳しく話せず黙っている。
やがてマティアスが口を開いた。
「では『マイの恋人になりたい』と立候補していいな?」
信じられない美形が、まっすぐに自分を見てこんな事を言う。
あまりに信じられないのと、自分が御劔邸にいるのも相まって「夢かな?」と心の中で呟いた。
友達や職場の人にマティアスを見せたら、全員目をハートにするだろう。
そんな人に迫られているのが理解できず、麻衣は困惑するのみだ。
「……からかって、……ませんよね?」
だから、こんな質問をしてしまう。
身の程を知っているからこそ、身の丈に合わない幸せを提示されるとすぐには受け入れられない。
今なら香澄が、佑に引け目を感じて「不釣り合い」と言っているのがとても分かる。
「からかうはずがないだろう。俺は本気だ」
(あ、ムッとしてる)
いつも淡々としている彼の感情の起伏も、この数日で分かるようになってしまった。
分かってしまうのは、東京に来てからずっとマティアスを意識していたからだ。
「……嬉しい、です」
まず結論を口にすると、マティアスが表情を輝かせた。
「……でも、これからどうするんですか? 日本に住むんですか? 私は会社の事もありますし、地元からはあまり離れたくないです」
物語の世界は両思いになり、結婚してハッピーエンド、だ。
だが現実は〝その先〟がずっと続いている。
もしもマティアスが札幌在住なら、さほど困らず受け入れただろう。
だが国内住みでも、他県に引っ越すとなるとハードルが高くなる。
北海道は広いため、道民は他県の人のように、気軽に「別の県に行く」感覚を持たない。
北海道はどこまで行っても北海道で、青森に行くには海を渡らなければいけない。
今でこそ新幹線が通っているものの、札幌駅に新幹線が届くのはまだ先だ。
今回東京へ来るには飛行機を利用し、国内の移動であっても気持ちは完全に旅行だ。
(私は腰が重たい人だもんな)
香澄がいた時は車を運転して、どこまでも走った。
だが自分の車以外でどこかへ行くとなると、気持ちを切り替えなければいけない。
そういう時、ワクワクより面倒さが勝ってしまう。
昔は香澄と「地元が一番」と言って過ごし、「いつか結婚するなら、同じ札幌市の人がいいね」と言っていた。
そのような理由で、マティアスとハッピーエンドを迎えるには障害が多い。
マティアスは少し考えたあと、何でもない事のように言う。
「俺が札幌に住むのでは都合が悪いか? 別にマイに養ってもらうつもりはない。自分の家を探すし、マイに楽をさせてやれる資産はあるつもりだ」
そうやって合わせてくれる彼に、申し訳なさを感じる。
外見を馬鹿にする言葉は、実に短絡的で誰にでもできる悪口だ。
それゆえに、ストレートな破壊力が強い。
芸人なら自分の外見を笑いのネタにして、仕事に変えるだろう。
だが一般人はイジられても面白くもないし、苦痛なだけだ。
馬鹿にされたのがきっかけで奮起し、ダイエット……といかなかったのは、我ながら意志が弱いと思う。
高校に入って香澄と出会い、のんびりした彼女といるのが居心地が良かった。
香澄と一緒にいると、無理に周りに合わせて痩せる必要を感じなくなった。
香澄は麻衣を決して否定しない。
体型について『将来の健康が心配』と言ったら、『じゃあ一緒に運動しようか。付き合うよ』と言ってくれた。
基本的に穏やかな香澄といると、いつも楽しかった。
『香澄がいるなら彼氏がいなくてもいいかな』と思うほどには依存して、将来は女二人でシェアルーム……など考えていた。
だから彼女が札幌からいなくなり、焦りを感じた。
『香澄が変わったなら、私も一歩踏み出して変わらないと』と思ったのだ。
佑の本を買い、お洒落や美意識に少し目覚めた。
それ以来『変われたら、私の事を女として見てくれる人が現れるかも?』とうっすら期待するようになった。
積極的に『合コンに行きたい』と言えば、会社にいる嫌な女に『必死になってる』と嗤われるのがオチだ。
なので適度に学生時代の友人を頼っていた。
だが合コンに行っても、一次会で終わりがほとんどだった。
他の子たちのために必死に盛り上げ、あわよくば目立って『いい』と思ってもらえたら……と思ったが、結局、毎回盛り上げ役で終わっていた。
だから、マティアスが心配するような事は何一つとしてなかったのだ。
〝そんな自分〟だと打ち明けるのが恥ずかしく、麻衣は合コンでの事を詳しく話せず黙っている。
やがてマティアスが口を開いた。
「では『マイの恋人になりたい』と立候補していいな?」
信じられない美形が、まっすぐに自分を見てこんな事を言う。
あまりに信じられないのと、自分が御劔邸にいるのも相まって「夢かな?」と心の中で呟いた。
友達や職場の人にマティアスを見せたら、全員目をハートにするだろう。
そんな人に迫られているのが理解できず、麻衣は困惑するのみだ。
「……からかって、……ませんよね?」
だから、こんな質問をしてしまう。
身の程を知っているからこそ、身の丈に合わない幸せを提示されるとすぐには受け入れられない。
今なら香澄が、佑に引け目を感じて「不釣り合い」と言っているのがとても分かる。
「からかうはずがないだろう。俺は本気だ」
(あ、ムッとしてる)
いつも淡々としている彼の感情の起伏も、この数日で分かるようになってしまった。
分かってしまうのは、東京に来てからずっとマティアスを意識していたからだ。
「……嬉しい、です」
まず結論を口にすると、マティアスが表情を輝かせた。
「……でも、これからどうするんですか? 日本に住むんですか? 私は会社の事もありますし、地元からはあまり離れたくないです」
物語の世界は両思いになり、結婚してハッピーエンド、だ。
だが現実は〝その先〟がずっと続いている。
もしもマティアスが札幌在住なら、さほど困らず受け入れただろう。
だが国内住みでも、他県に引っ越すとなるとハードルが高くなる。
北海道は広いため、道民は他県の人のように、気軽に「別の県に行く」感覚を持たない。
北海道はどこまで行っても北海道で、青森に行くには海を渡らなければいけない。
今でこそ新幹線が通っているものの、札幌駅に新幹線が届くのはまだ先だ。
今回東京へ来るには飛行機を利用し、国内の移動であっても気持ちは完全に旅行だ。
(私は腰が重たい人だもんな)
香澄がいた時は車を運転して、どこまでも走った。
だが自分の車以外でどこかへ行くとなると、気持ちを切り替えなければいけない。
そういう時、ワクワクより面倒さが勝ってしまう。
昔は香澄と「地元が一番」と言って過ごし、「いつか結婚するなら、同じ札幌市の人がいいね」と言っていた。
そのような理由で、マティアスとハッピーエンドを迎えるには障害が多い。
マティアスは少し考えたあと、何でもない事のように言う。
「俺が札幌に住むのでは都合が悪いか? 別にマイに養ってもらうつもりはない。自分の家を探すし、マイに楽をさせてやれる資産はあるつもりだ」
そうやって合わせてくれる彼に、申し訳なさを感じる。
13
お気に入りに追加
2,541
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる