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第十八部・麻衣と年越し 編
ゴウコン
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部屋が幾つもあると言っても一部屋が広いので、数え切れないほど部屋がある訳ではない。
廊下の奥まで進んで部屋を覗くと、マティアスがベッドにうつ伏せになっていて、タブレット端末で何かを見ていた。
どう声を掛けていいか分からず固まっていると、彼に気づかれた。
「マイ、どうした?」
すぐ起き上がって部屋の出入り口まで来た彼は、やはり背が高い。
それに圧倒され、麻衣は口ごもる。
「ちょ……ちょっと……、話ができたら……と思って」
「…………。とりあえず中へ」
招かれ、麻衣は「お邪魔します」と部屋に入った。
客室はホテルの部屋のような作りで、ソファセットと書き物机などがある。
ソファに座った麻衣は落ち着かなく、膝の上で指をモジモジさせた。
「何か用だろうか?」
「え? あ。……そ、そうじゃなくて……。か、会話をしに来たというか」
「そうか。……じゃあ。……好きな色は?」
(えっ!?)
突如として好きな色を聞かれ、麻衣は困惑する。
だがこれで会話のきっかけができたと思い、ひとまず答える事にした。
「えーと……、落ち着いた色が好きです。茶色とか、暗めの赤紫とか」
「そうか。俺はディープグリーンが好きだ。ネイビーもいいな。好きな食べ物は?」
「んー、やっぱりラーメン? 肉も好きです」
「俺も肉は好きだ。最近、日本のイザカヤメニューも気になっている。今度一緒に行かないか?」
「え、……い、いいですけど……」
「札幌に行きつけのイザカヤはあるか?」
「えーと……。居酒屋っていうより、イタリアンバルとか、女子同士で行くので、ちょっと小洒落た所が多いですね」
「……なるほど。そういう店もいいな」
なぜか一緒に飲みに行く流れになり、麻衣は「ん?」となる。
(待てよ……?)
考えている時、さらに質問された。
「ところで、マイはいまフリーだろうか? 好きな男や付き合っている男はいるか?」
(今さら!?)
「……い、一応……いません」
この年齢になるまで付き合った事がないと答えるのは恥ずかしいので、少し誤魔化す。
「では、マイを想っている男は?」
「い、……いない……ですけど、先日合コンをして連絡先を交換した人はいます」
「ゴウコン」
マティアスは青い目を丸くし、しばし固まってから眉を顰め、さらに尋ねる。
「……ゴウコンとは、男女それぞれ同じ人数で飲んで気の合う者を探し、連絡先を交換するアレか? 気が合えばその日のうちにオモチカエリされて、ラブホに直行のやつか?」
「ちょ、ちょっと! 間違えてないけど、間違えてないけど!」
鬼気迫った表情で言うので、麻衣は焦って両手を突き出し、どうどうと彼を諫める。
そのあと、彼が質問の答えを待っていると気づいて、決まり悪くボソボソとつけ加える。
「……そういう人たちもいますけど、私は合コンに行っても相手なんて見つからないんです。お持ち帰りする人もいません。連絡先を交換してくれた人も、メッセージで日常会話はしていますが、恋人になりたいと思われていないです。『友達以上に見られない』なんてのは、よくある事ですから」
小学生からぽっちゃりしていた麻衣は、細い子に比べ、自分が男子に〝そう〟見られないのを早い段階から悟っていた。
自覚するまでは「ちょっとふっくらしてるけど、顔だけならそう悪くない」と思えていた。
それでも中学生の修学旅行の時、女子だけで話をしていた時に目立つ系の女子にこう言われたのだ。
『○○くんは、麻衣ちゃんの事〝太ってるからやだ〟って言ってたよ。意地悪だよね~! そんな事ないのに!』
本当に「そんな事ないのに」と思うなら、まず本人の耳にネガティブな情報を入れないはずだ。
麻衣に意地悪したい気持ちがあるから、得意げな顔でそう言ったのだと思う。
その場は笑って誤魔化し、あとから別の女子に聞いた。
『あの子、麻衣ちゃんより成績悪くて体育祭でも負けたから、ずっと陰で悪口を言ってたよ』
教えてもらって、多少は納得した。
その時は「あの子は私より成績が悪くて、嫉妬してるからああいう事しか言えなかったんだ」と自分を慰めた。
廊下の奥まで進んで部屋を覗くと、マティアスがベッドにうつ伏せになっていて、タブレット端末で何かを見ていた。
どう声を掛けていいか分からず固まっていると、彼に気づかれた。
「マイ、どうした?」
すぐ起き上がって部屋の出入り口まで来た彼は、やはり背が高い。
それに圧倒され、麻衣は口ごもる。
「ちょ……ちょっと……、話ができたら……と思って」
「…………。とりあえず中へ」
招かれ、麻衣は「お邪魔します」と部屋に入った。
客室はホテルの部屋のような作りで、ソファセットと書き物机などがある。
ソファに座った麻衣は落ち着かなく、膝の上で指をモジモジさせた。
「何か用だろうか?」
「え? あ。……そ、そうじゃなくて……。か、会話をしに来たというか」
「そうか。……じゃあ。……好きな色は?」
(えっ!?)
突如として好きな色を聞かれ、麻衣は困惑する。
だがこれで会話のきっかけができたと思い、ひとまず答える事にした。
「えーと……、落ち着いた色が好きです。茶色とか、暗めの赤紫とか」
「そうか。俺はディープグリーンが好きだ。ネイビーもいいな。好きな食べ物は?」
「んー、やっぱりラーメン? 肉も好きです」
「俺も肉は好きだ。最近、日本のイザカヤメニューも気になっている。今度一緒に行かないか?」
「え、……い、いいですけど……」
「札幌に行きつけのイザカヤはあるか?」
「えーと……。居酒屋っていうより、イタリアンバルとか、女子同士で行くので、ちょっと小洒落た所が多いですね」
「……なるほど。そういう店もいいな」
なぜか一緒に飲みに行く流れになり、麻衣は「ん?」となる。
(待てよ……?)
考えている時、さらに質問された。
「ところで、マイはいまフリーだろうか? 好きな男や付き合っている男はいるか?」
(今さら!?)
「……い、一応……いません」
この年齢になるまで付き合った事がないと答えるのは恥ずかしいので、少し誤魔化す。
「では、マイを想っている男は?」
「い、……いない……ですけど、先日合コンをして連絡先を交換した人はいます」
「ゴウコン」
マティアスは青い目を丸くし、しばし固まってから眉を顰め、さらに尋ねる。
「……ゴウコンとは、男女それぞれ同じ人数で飲んで気の合う者を探し、連絡先を交換するアレか? 気が合えばその日のうちにオモチカエリされて、ラブホに直行のやつか?」
「ちょ、ちょっと! 間違えてないけど、間違えてないけど!」
鬼気迫った表情で言うので、麻衣は焦って両手を突き出し、どうどうと彼を諫める。
そのあと、彼が質問の答えを待っていると気づいて、決まり悪くボソボソとつけ加える。
「……そういう人たちもいますけど、私は合コンに行っても相手なんて見つからないんです。お持ち帰りする人もいません。連絡先を交換してくれた人も、メッセージで日常会話はしていますが、恋人になりたいと思われていないです。『友達以上に見られない』なんてのは、よくある事ですから」
小学生からぽっちゃりしていた麻衣は、細い子に比べ、自分が男子に〝そう〟見られないのを早い段階から悟っていた。
自覚するまでは「ちょっとふっくらしてるけど、顔だけならそう悪くない」と思えていた。
それでも中学生の修学旅行の時、女子だけで話をしていた時に目立つ系の女子にこう言われたのだ。
『○○くんは、麻衣ちゃんの事〝太ってるからやだ〟って言ってたよ。意地悪だよね~! そんな事ないのに!』
本当に「そんな事ないのに」と思うなら、まず本人の耳にネガティブな情報を入れないはずだ。
麻衣に意地悪したい気持ちがあるから、得意げな顔でそう言ったのだと思う。
その場は笑って誤魔化し、あとから別の女子に聞いた。
『あの子、麻衣ちゃんより成績悪くて体育祭でも負けたから、ずっと陰で悪口を言ってたよ』
教えてもらって、多少は納得した。
その時は「あの子は私より成績が悪くて、嫉妬してるからああいう事しか言えなかったんだ」と自分を慰めた。
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