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第十八部・麻衣と年越し 編
じゃあ突撃してみますか
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「そうだよ。学生が社会人になって、あれこれデビューするのだって同じでしょ。二十代より三十代のほうがいい物を使って当然だし、生活レベルが上がって当たり前だよ。年齢、環境それぞれ相応に、だよ」
肯定してくれた麻衣を頼もしく思いつつ、まだ残る不安を口にする。
「急に変わっちゃったから、精神成金みたいに、嫌な人って思われていたらやだな……って」
「あはは! 精神成金」
朗らかに笑った麻衣は、洗面所から出て香澄の部屋のソファに座る。
「気にしているだけで十分だと思うよ。確かに『別世界の人になったな』とは思うけど、変わらないほうが不自然でしょ。逆に御劔さんみたいな人と結婚するのに、安い物を使い続けていたら『不釣り合い』って思われるんじゃないかな。安い物が悪い訳じゃないけど」
「あ……」
〝身の丈に合わない〟と言うと、高望みのイメージがある。
だがその逆もあり得るのだ。
「これも御劔さんの本からの受け売りだけど、『周りにいる人は自分の鏡』なんだって。札幌時代よく付き合っていたのは、気の合う学生時代の友達とか、収入が同じぐらいの人だったじゃない? 当時の香澄は地味めで、可愛いけど田舎っぽさがあった。私も一緒だけど、着る物にあまり頓着しなくてお洒落とか気にしなかったでしょ」
「うん」
当時の素朴といえば聞こえのいい、ナチュラル芋娘な自分を思いだし頷く。
「東京に来て色んな刺激を受けたんじゃない? 周りの人はみーんなハイクラス。自然といい物を食べるだろうし、着る物もコスメも気をつけて、自然と洗練されて当たり前」
「ん……」
自分の事なのに、麻衣に説明されて納得するのはおかしな話だ。
けれど彼女がお世辞を言わず、客観的に言ってくれるのがありがたくて、つい聞き入る。
「まー、同窓会に行ったら、あんまり仲良くない子には何か言われるだろうけどね。それは気にすんな。さっきも言ったけど、香澄は変わったけど嫌な人にはなってない。誰に遠慮してるんだか分からないけど、自然の事なんだから、あんまり気にしたら駄目だよ」
「うん、ありがとう」
ずっと不安に思っていた事が払拭され、肩の荷が下りた。
「人生はずーっと同じままじゃないからね。学生時代の収入、価値観じゃないの。誰だって幸せになりたいし、いい暮らしをしたい。その機会を得たら、ステップアップした先でもっといい自分になりたいと望むのが普通なの。今の香澄は、居酒屋で一円単位まで割り勘してる子じゃないんだから」
言ってから麻衣は「お金は大事だけどね」と笑う。
「そんな事で悩むぐらいなら、おじさんとおばさんに美味しいもんでも送ってあげなよ。親孝行してたら誰も何も言わないから。あれこれ言うやつは、『自分一人だけ得してる』って思ってるから言うんじゃない? 赤の他人に大盤振る舞いする理由なんてないのにね。皆に施したいと思うなら、募金でもすればいい。あとは自分の周りの人を大切にすればいいんだよ」
言われて、香澄はクシャッと笑う。
「ありがとう。家族には色々送ってる。知らないうちに佑さんも送ってるみたいだけど」
「御劔さん、着々と〝婿〟レベルを上げてるね」
お喋りも一旦落ち着き、水を飲んだあと、麻衣が溜め息をついてから頷いた。
「……よし、じゃあ突撃してみますか」
「うん、頑張れ」
香澄はポンポンと麻衣の肩を叩き、グッとサムズアップする。
麻衣は苦笑いしたあと、緊張した面持ちで三階に上がっていった。
**
三階に上がると、それぞれ部屋で過ごしているのか話し声はしない。
水音が聞こえるので、誰かバスルームにいるようだ。
階段を上がると左右に廊下が続いている。
(来ちゃったものの、どの部屋かな)
左側に向かった麻衣は、チラッと部屋の中を窺いながら廊下をソロソロと歩く。
「あれ? どったの? マイ」
キョトンとした顔を覗かせたのは、髪の分け目から見てアロイスだ。
「ちょ……ちょっと……、マティアスさんに用事が……」
ボソッと言うと、アロイスはにんまりして廊下の奥を指差す。
「マティアスは一番奥の部屋だよ。俺たちは煩いから、一部屋空けてる。今ならクラは風呂に入ってるから、話をしておいで。クラが風呂から出て来たら、一緒に下におりてるから」
協力する雰囲気のアロイスに、麻衣は赤面した。
「そ、そんなんじゃなくて……」
「はいはい。いいからいいから。クラに見つかると面倒だよ。あいつ、俺より人をからかうの好きだから」
「う……。わ、分かりました……。ありがとうございます」
素直に礼を言うと、アロイスはヒラヒラと手を振り、「あとでこっそり教えてね」と微笑んだ。
肯定してくれた麻衣を頼もしく思いつつ、まだ残る不安を口にする。
「急に変わっちゃったから、精神成金みたいに、嫌な人って思われていたらやだな……って」
「あはは! 精神成金」
朗らかに笑った麻衣は、洗面所から出て香澄の部屋のソファに座る。
「気にしているだけで十分だと思うよ。確かに『別世界の人になったな』とは思うけど、変わらないほうが不自然でしょ。逆に御劔さんみたいな人と結婚するのに、安い物を使い続けていたら『不釣り合い』って思われるんじゃないかな。安い物が悪い訳じゃないけど」
「あ……」
〝身の丈に合わない〟と言うと、高望みのイメージがある。
だがその逆もあり得るのだ。
「これも御劔さんの本からの受け売りだけど、『周りにいる人は自分の鏡』なんだって。札幌時代よく付き合っていたのは、気の合う学生時代の友達とか、収入が同じぐらいの人だったじゃない? 当時の香澄は地味めで、可愛いけど田舎っぽさがあった。私も一緒だけど、着る物にあまり頓着しなくてお洒落とか気にしなかったでしょ」
「うん」
当時の素朴といえば聞こえのいい、ナチュラル芋娘な自分を思いだし頷く。
「東京に来て色んな刺激を受けたんじゃない? 周りの人はみーんなハイクラス。自然といい物を食べるだろうし、着る物もコスメも気をつけて、自然と洗練されて当たり前」
「ん……」
自分の事なのに、麻衣に説明されて納得するのはおかしな話だ。
けれど彼女がお世辞を言わず、客観的に言ってくれるのがありがたくて、つい聞き入る。
「まー、同窓会に行ったら、あんまり仲良くない子には何か言われるだろうけどね。それは気にすんな。さっきも言ったけど、香澄は変わったけど嫌な人にはなってない。誰に遠慮してるんだか分からないけど、自然の事なんだから、あんまり気にしたら駄目だよ」
「うん、ありがとう」
ずっと不安に思っていた事が払拭され、肩の荷が下りた。
「人生はずーっと同じままじゃないからね。学生時代の収入、価値観じゃないの。誰だって幸せになりたいし、いい暮らしをしたい。その機会を得たら、ステップアップした先でもっといい自分になりたいと望むのが普通なの。今の香澄は、居酒屋で一円単位まで割り勘してる子じゃないんだから」
言ってから麻衣は「お金は大事だけどね」と笑う。
「そんな事で悩むぐらいなら、おじさんとおばさんに美味しいもんでも送ってあげなよ。親孝行してたら誰も何も言わないから。あれこれ言うやつは、『自分一人だけ得してる』って思ってるから言うんじゃない? 赤の他人に大盤振る舞いする理由なんてないのにね。皆に施したいと思うなら、募金でもすればいい。あとは自分の周りの人を大切にすればいいんだよ」
言われて、香澄はクシャッと笑う。
「ありがとう。家族には色々送ってる。知らないうちに佑さんも送ってるみたいだけど」
「御劔さん、着々と〝婿〟レベルを上げてるね」
お喋りも一旦落ち着き、水を飲んだあと、麻衣が溜め息をついてから頷いた。
「……よし、じゃあ突撃してみますか」
「うん、頑張れ」
香澄はポンポンと麻衣の肩を叩き、グッとサムズアップする。
麻衣は苦笑いしたあと、緊張した面持ちで三階に上がっていった。
**
三階に上がると、それぞれ部屋で過ごしているのか話し声はしない。
水音が聞こえるので、誰かバスルームにいるようだ。
階段を上がると左右に廊下が続いている。
(来ちゃったものの、どの部屋かな)
左側に向かった麻衣は、チラッと部屋の中を窺いながら廊下をソロソロと歩く。
「あれ? どったの? マイ」
キョトンとした顔を覗かせたのは、髪の分け目から見てアロイスだ。
「ちょ……ちょっと……、マティアスさんに用事が……」
ボソッと言うと、アロイスはにんまりして廊下の奥を指差す。
「マティアスは一番奥の部屋だよ。俺たちは煩いから、一部屋空けてる。今ならクラは風呂に入ってるから、話をしておいで。クラが風呂から出て来たら、一緒に下におりてるから」
協力する雰囲気のアロイスに、麻衣は赤面した。
「そ、そんなんじゃなくて……」
「はいはい。いいからいいから。クラに見つかると面倒だよ。あいつ、俺より人をからかうの好きだから」
「う……。わ、分かりました……。ありがとうございます」
素直に礼を言うと、アロイスはヒラヒラと手を振り、「あとでこっそり教えてね」と微笑んだ。
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