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第十八部・麻衣と年越し 編

カルボナーラと麻衣の異変

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 やがてテーブルの準備ができ、全員が席につく。

 パスタ用のグレーの焼き物の皿には、綺麗な形で盛られたカルボナーラがあり、トロッとクリーミーな色が食欲をそそる。

 サラダはシーザーサラダで、両方香澄の好きなメニューだ。

「え~? スパゲッティ食べるのに、スプーン使うの?」

 クラウスが香澄と麻衣のカトラリーを見て、首を捻っている。

「お前たちには出てないだろう」

 佑が突っ込み、「いただきます」と手を合わせ、全員が続く。

「そっか、フィオーレ家にお邪魔した時も、皆さんスプーン使ってなかったもんね」

 イタリアでの事を思いだして言うと、佑が教えてくれる。

「いや、イタリアでもスプーンを使う人はいるはずだ。『使う人は使う』という感覚じゃないかな?」

 ちなみに佑はフォークのみだ。

「あっ、おいしい」

 麻衣が一口食べて声を出す。

 斎藤が作ってくれるカルボナーラは、チーズを何種類か使っているらしく、生クリームは使っていない。
 基本的に卵とチーズのみで作っているので、とても濃厚だ。

 それに胡椒も普通の胡椒とブラックペッパーの二種類がかかっていて、風味がある。

「ねー。斎藤さんのスパゲッティ天下一品」

 香澄はうんうんと頷いて、フォークで巻いたスパゲッティを口に入れた。

「……っていうか、さっき香澄の口からサラッとフィオーレって聞こえたんだけど、気のせい?」

 麻衣がボソッと言い、香澄は「あ」と固まる。

 イタリアの高級車フィオーレの創業一族は雲の上の存在で、その家に行ったなどまずあり得ない。

 だが佑といるとあり得てしまうのが、香澄のミラクルな人生なのだ。

「え、えーと……。ニセコでルカさんっていう、フィオーレ社の副社長……? 会長のお孫さんと知り合って友達になったの」

「ニセコ! まさかのニセコ! 私もニセコで働こうかな!」

 麻衣が食いつき、香澄は笑いながら肘で彼女をつつく。

「本当に偶然。ルカさん、本当はマリアさんっていう婚約者さんと来る予定だったんだけど、うまく行かなくて一人で来てたの。それでちょっとしたきっかけで話して……っていう感じ」

「それってお互い恋人がいなかったら、恋が始まってたパターンじゃない?」

「いやぁ~、ないない」

 麻衣の言葉を聞き、佑がチラッとこちらを見た。
 それに気づいた香澄は、わざと明るく笑い飛ばす。

「そのマリアさんとはヨリ戻ったの?」

「うん。ローマに遊びに行った時はすっかり仲良しだったよ。喧嘩した訳じゃなくて、フィオーレ家に嫁ぐのが怖かったんだって」

「香澄と一緒じゃん」

 サクサクとクルトンを囓りながら麻衣が突っ込む。

 ちなみにシーザーサラダは、肉厚なベーコンと存在感のあるクルトンがあり、おかずと言っていいほど食べ応えがある。

「カスミ。結婚に迷ったら、いつでも僕たちの所においで」

 クラウスがいつものようにおふざけを言い、佑に睨まれる。

「そんな事あり得ないから、待つだけ無駄だ」

「あはは。御劔さんと双子さんがいつもこういうやり取りしてるの、大体分かってきました。……んっ!?」

 朗らかに笑った麻衣がいきなり声を詰まらせたので、香澄は彼女の背中をトントンと叩く。

「大丈夫? はい、お水」

 香澄は麻衣に水を手渡すが、彼女は顔を真っ赤にして向かいのマティアスを睨んでいる。

(ん……?)

「何かあったのかな?」と思うが、マティアスは黙々と食べているだけだ。
 双子は別の話をし始め、麻衣の異変はなかった事にされてしまった。

「大丈夫?」

「う……うん……」

 麻衣は返事ともうなり声ともつかない声を漏らし、水を飲む。

 そのあとローマの店で出るスパゲッティは日本の店の三倍の量があると双子が言い、香澄はうんうんと相槌を打っていた。

 食事が終わると全員で片付けをし、洋梨のル・レクチェを切って食べた。



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