上 下
1,149 / 1,549
第十八部・麻衣と年越し 編

新年の予定

しおりを挟む
「私、部屋に戻るから、香澄はちょっと寝な。仕事納めしてすぐに私がきて、あちこち連れて歩いてくれて、疲れてるんじゃない? サービスしてくれるのはありがたいけど、初売りイベントの仕事もあるし、休むのも大切だよ」

「うん……。でも……」

「私はお上りさんだけど、子供じゃないからね。放っておいても大丈夫なの。気を遣わなくていいよ。もう少しリラックスして、今は休みな」

「ん……」

 何か言いたかったのだが、横になるとドッと疲れが押し寄せてしまった。

 滅多に会えない親友と沢山話をしたいのに、気が付けば香澄はスゥッと眠りの淵に落ちてしまっていた。



**



(……あれ)

 目が覚めると、照明のついていない自室の天井が目に入る。

「ん……」

 モソリと起き上がった香澄の耳に、階下からの双子たちの声が入った。
 楽しそうに会話をしている様子から、麻衣と話しているのかもしれない。

「あれ?」

 ランチをたらふく食べて苦しかったはずなのに、随分体が楽だと思っていたら、いつの間にかブラジャーのホックが外されていた。

(……佑さんだな)

 ベッドに寝て、そのまま眠ってしまったのを覚えている。
 あの時は布団カバーの上から横になったのに、今は布団を掛けられている。

 起きたあと、ゆったりしたワンピースにレギンス姿になり、部屋の外にでた。





 佑の書斎に明かりがついていたので、ヒョコッと顔を覗かせてみる。

 彼はいつものようにブルーライト対応の眼鏡を掛けて、モニターに向かっていた。

「たーすくさん」

「ん? 起きたか」

「ベッドに寝かせてくれたの、佑さん?」

「ああ。麻衣さんが教えてくれて、力が足りないからって」

「…………面目ない」

 迷惑を掛けてしまったと溜め息をつくと、佑が手招きをした。

「ん?」

 トコトコと近寄ると、オフィスチェアに座っていた佑が「ん」と自分の膝の上をポンポンと叩いた。

「ちょっとだけね」

 のしっと佑の腰の上に向かい合わせに座ると、ギュッと抱き締められてこめかみにキスをされる。

「疲れたか?」

「ううん。お腹一杯で眠くなっちゃっただけ」

 佑は香澄の頭を撫でると一緒に、前髪を掻き上げてジッと目を見つめてくる。

「命令。明日と明後日は、何もせずゆっくり休むこと」

「うぅ……」

 何もしなくていい、と言われるのは逆に苦痛だ。

「元旦は家族が顔を見せにくると思う。御劔家の親族については遠慮してもらったけど、うちの家族は言う事聞かないから……」

「あぁ……」

 我が道を行くアンネたちを思いだし、香澄は納得する。

「佑さんのご親戚、ご挨拶しなくて失礼じゃないかな? 私が札幌にいるならともかく、東京にいるのに……」

「問題ないよ。事前に『アロクラの相手をする』って言ってある。一月中に親戚の家を訪れて少し挨拶をすれば、それで大丈夫だと思う」

「行くんだね? ちゃんとしないと」

「大丈夫。一時間ぐらい話したら次に行く」

「……せっかくの新年のご挨拶だから、次はちゃんとしたいな」

 これから佑と結婚するというのに、彼の親戚に不義理はしたくない。

「結婚したら嫌でも顔を合わせるから、大丈夫だよ。それに俺は子供の頃から、年によってはドイツで年越しもしてたから、毎年必ず元旦に挨拶しなきゃいけない訳じゃないんだ。だからもう少し気軽に考えていいよ」

「ありがとう。……それはそうと、ドイツの方々にご挨拶はしないの?」

 尋ねると佑は少し考える素振りを見せる。

「どうだろうな。特に連絡はないが……。いつも通り、ドイツで年末年始を過ごすんじゃないかな」

「クリスマスは、家族の絆を確かめ合う時だもんね」

 学んだので少し得意になって言うと、佑が微笑んで頷いた。

 あちらのクリスマスは二十五日が終わったから終わりではなく、年が明けてもしばらくクリスマスムードが続いているらしい。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...