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第十八部・麻衣と年越し 編
食のこだわり
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「それにしても本当にこの辺って高級住宅地なんだね。路駐してる車も高級外車ばっかりで、クラウザー社の冠のエンブレムを幾つ見た事か……」
個室の席に座った麻衣は、溜め息をつきながら首を横に振る。
店内は絨毯が赤くて中華を感じさせる配色だが、他は白を基調としており、上品で落ち着いている。
天井からシャンデリアが下がり、白壁にある絵画は印象派の物を集めていて高級感がある。
(住まいが白金台だと、感覚が麻痺するなぁ……。佑さんのお祖父さんがクラウザー社の会長さんで、その辺からして私、色々ズレてきてるかもしれない)
お手拭きで手を拭きつつ、香澄は内心焦りを感じる。
麻衣のような反応をするのが当たり前なのに、白金台にいるのが日常になっている自分は、札幌時代から感覚がかけ離れている。
そうこうしているうちにドリンクメニューが運ばれ、全員で文字だけが印字されてある白いメニューを覗く。
「僕らはやっぱりワインかな。自分で払うから、好きなの飲むね」
値段を気にしないと言われ、佑は「好きにしろ」と告げる。
「香澄はどうする? アルコールを飲んでも全然構わないからな」
「うん、ありがとう。この……チャイニーズサングリアって気になってて……」
サングリアはワインでお馴染みだが、中華酒でのサングリアは初めて目にしたかもしれない。
杏露酒、サンザシ、桂花陳酒ベースの三種類があり、どれも美味しそうに思えるが味のイメージがつかない。
スタッフに尋ねると、サンザシが甘酸っぱい味で、桂花陳酒が白ワインに金木犀の花を漬けた物だと教えてもらった。
「じゃあ、サンザシのサングリアにします」
決めたあと、麻衣が言う。
「私はビールかな」
「俺もビールにする」
双子はワイン、香澄はサングリア、麻衣とマティアス、佑もビールとなった。
飲み物のオーダーが終わったあと、コース料理の確認をして一旦スタッフが下がった。
「日本に来る途中で香港に寄って、本場の中華を食べたけど、日本のは日本で美味しいんだよね」
「そうそう。日本ってどのジャンルの食べ物も洗練されてて、食に対して変態だよな」
「ぶふっ」
変態と言われ、水を飲もうとした香澄は噴き出す。
「佑さんも美食家ですが、お二人も相応にあちこち行ってますよね」
そう言うと、双子はにんまり笑う。
「僕ら、食を楽しんでるからね。子供の頃、初めてドイツ外で食事をした時に『面白い』って思って、今は出張ついでに色々食べてるよ。高級料理はどこも似た感じだし、個人的に食べて土地を感じられるのはB級グルメかな」
「そうそう! なんならバロットとかも食べるよ!」
アロイスが言い、クラウスと一緒にケラケラ笑う。
「バロットって確か、孵化する直前の卵ですよね?」
麻衣が言い、「うおお……」と悶えて二の腕をさすっている。
香澄もその食べ物は知っていて、初めてビジュアルを見た時は申し訳ないながらも、「おおお……」とおののいてしまった。
「各国に勿論、ジャパニーズレストランはあるけど、やっぱり本場日本の和食には敵わないよなぁ。新鮮な海鮮も、とれたてを職人の技術でさばいたりする訳でしょ? それも、すっごい切れ味のいい包丁を使ってさ!」
クラウスが言い、板前が包丁をスッと滑らせる真似をして「Cool!」とうなる。
「そうそう。俺たち、オーマの影響で子供の頃から日本食に親しんできたけど、やっぱり日本で食べる日本食は格別だね。で、フレンチもイタリアンもレベルが高いでしょ? 料理は発祥国が一番美味い、っていう意見を根強く持っている人もいる。でも食べ歩いている身からすると、修行して自国に持ち帰ってさらに美味さを進化させてる料理人は世界中にいて、一概にそうとは言い切れないんだよね。伝統や、その土地ならではの食材が揃ってるのは確かなんだけど」
熱く語るアロイスの話を聞いて、香澄の中の食いしん坊が「いい人だ……」とピンと何かを感じる。
「ホント、日本人って変態だよねぇ! うどんや蕎麦、ラーメンでも地方性や色んな種類があってさ、しかも自由にトッピングして色んな食べ方があるでしょ? 魚もそう。生だったり焼いたり似たり、干したり。一つの事を突き詰めていく探究心と熱意がなかったら、ここまで発展しないよね。イタリアのパスタも煮てるけど、日本だとパスタだけに限らないでしょ。ほんっと食が美味いよなぁ……。あー、日本に住みたい!」
クラウスが地団駄を踏み、子供のように唇を尖らせる。
「……水も軟水で美味いよね」
ひがみが水にまで向き、香澄は思わず笑った。
個室の席に座った麻衣は、溜め息をつきながら首を横に振る。
店内は絨毯が赤くて中華を感じさせる配色だが、他は白を基調としており、上品で落ち着いている。
天井からシャンデリアが下がり、白壁にある絵画は印象派の物を集めていて高級感がある。
(住まいが白金台だと、感覚が麻痺するなぁ……。佑さんのお祖父さんがクラウザー社の会長さんで、その辺からして私、色々ズレてきてるかもしれない)
お手拭きで手を拭きつつ、香澄は内心焦りを感じる。
麻衣のような反応をするのが当たり前なのに、白金台にいるのが日常になっている自分は、札幌時代から感覚がかけ離れている。
そうこうしているうちにドリンクメニューが運ばれ、全員で文字だけが印字されてある白いメニューを覗く。
「僕らはやっぱりワインかな。自分で払うから、好きなの飲むね」
値段を気にしないと言われ、佑は「好きにしろ」と告げる。
「香澄はどうする? アルコールを飲んでも全然構わないからな」
「うん、ありがとう。この……チャイニーズサングリアって気になってて……」
サングリアはワインでお馴染みだが、中華酒でのサングリアは初めて目にしたかもしれない。
杏露酒、サンザシ、桂花陳酒ベースの三種類があり、どれも美味しそうに思えるが味のイメージがつかない。
スタッフに尋ねると、サンザシが甘酸っぱい味で、桂花陳酒が白ワインに金木犀の花を漬けた物だと教えてもらった。
「じゃあ、サンザシのサングリアにします」
決めたあと、麻衣が言う。
「私はビールかな」
「俺もビールにする」
双子はワイン、香澄はサングリア、麻衣とマティアス、佑もビールとなった。
飲み物のオーダーが終わったあと、コース料理の確認をして一旦スタッフが下がった。
「日本に来る途中で香港に寄って、本場の中華を食べたけど、日本のは日本で美味しいんだよね」
「そうそう。日本ってどのジャンルの食べ物も洗練されてて、食に対して変態だよな」
「ぶふっ」
変態と言われ、水を飲もうとした香澄は噴き出す。
「佑さんも美食家ですが、お二人も相応にあちこち行ってますよね」
そう言うと、双子はにんまり笑う。
「僕ら、食を楽しんでるからね。子供の頃、初めてドイツ外で食事をした時に『面白い』って思って、今は出張ついでに色々食べてるよ。高級料理はどこも似た感じだし、個人的に食べて土地を感じられるのはB級グルメかな」
「そうそう! なんならバロットとかも食べるよ!」
アロイスが言い、クラウスと一緒にケラケラ笑う。
「バロットって確か、孵化する直前の卵ですよね?」
麻衣が言い、「うおお……」と悶えて二の腕をさすっている。
香澄もその食べ物は知っていて、初めてビジュアルを見た時は申し訳ないながらも、「おおお……」とおののいてしまった。
「各国に勿論、ジャパニーズレストランはあるけど、やっぱり本場日本の和食には敵わないよなぁ。新鮮な海鮮も、とれたてを職人の技術でさばいたりする訳でしょ? それも、すっごい切れ味のいい包丁を使ってさ!」
クラウスが言い、板前が包丁をスッと滑らせる真似をして「Cool!」とうなる。
「そうそう。俺たち、オーマの影響で子供の頃から日本食に親しんできたけど、やっぱり日本で食べる日本食は格別だね。で、フレンチもイタリアンもレベルが高いでしょ? 料理は発祥国が一番美味い、っていう意見を根強く持っている人もいる。でも食べ歩いている身からすると、修行して自国に持ち帰ってさらに美味さを進化させてる料理人は世界中にいて、一概にそうとは言い切れないんだよね。伝統や、その土地ならではの食材が揃ってるのは確かなんだけど」
熱く語るアロイスの話を聞いて、香澄の中の食いしん坊が「いい人だ……」とピンと何かを感じる。
「ホント、日本人って変態だよねぇ! うどんや蕎麦、ラーメンでも地方性や色んな種類があってさ、しかも自由にトッピングして色んな食べ方があるでしょ? 魚もそう。生だったり焼いたり似たり、干したり。一つの事を突き詰めていく探究心と熱意がなかったら、ここまで発展しないよね。イタリアのパスタも煮てるけど、日本だとパスタだけに限らないでしょ。ほんっと食が美味いよなぁ……。あー、日本に住みたい!」
クラウスが地団駄を踏み、子供のように唇を尖らせる。
「……水も軟水で美味いよね」
ひがみが水にまで向き、香澄は思わず笑った。
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