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第十八部・麻衣と年越し 編
食べたい物
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誰かが「キャー!」と悲鳴を上げれば、収集がつかなくなってしまうかもしれない。
テレビ番組で『もし有名人が○○にお忍びで行ったら……?』という企画があった。
最後にネタバレする前提での企画だが、大好きな芸能人だと分かった時の熱量は凄かった。
しかも番組の場合は、ネタバレした時に周囲にスタッフがいて、騒ぎにならないよう気を遣った上でだろう。
佑はメディアに顔を出しているものの、経営者だ。
「私は芸能人ではなく、経営者で一般人の部類に入ります」と主張しているからこそ、「もしかしたら自分でもワンチャンあるのでは……」と思う女性がいるのが厄介だ。
本社には毎日、佑宛てのラブレターや贈り物が届いている。
総務では、佑が読んでも大丈夫な手紙のみを読んでもらうように仕分けている。
同時に差し支えのないプレゼントも、渡していた。
だが、熱の籠もりすぎたラブレターや、ネガティブな手紙、意図不明な贈り物や、手作りの食べ物は彼のもとには届かない。
業者経由で届いた食べ物については、秘書課で美味しく頂いている。
その前にそもそも、「食べ物や大きすぎる贈り物はご遠慮しています」とは明記しているのだが。
佑は「気持ちは受け取りたいけど」と言うものの、万が一があってはいけない。
贈り物があった際は、佑が考えた文面をプリントした物とポストカードを茶封筒に入れて、感謝の言葉としている。
それほど人気がある佑が、突然原宿や渋谷に降臨したとなれば、凄い騒ぎになるのは目に見えている。
双子もこう言っていた。
『僕らにもファンはいるけど、たまに頭打ったんじゃないかっていう強烈なのがいる。そういうのはファンを通り越して害にしかならないから、近付かないのが一番』
香澄と麻衣が行き先について相談し、佑たちの事も考えて……と悩んでいると、彼が申し訳なさそうに言ってきた。
「すまない。もし俺が邪魔なら、護衛だけ連れて好きな場所に遊びに行ってほしい」
それに、フレーバーティーを飲んだ麻衣が「いいえ」と首を振る。
「御劔さんがいてもいなくても、特に行かなくても大丈夫なんです。イメージですけど、ファッションビルが多いんでしょう? 特に興味ありませんし、流行りの食べ物が食べたいって言っても、一周回って何だか分からなくなりましたし」
そう言った麻衣に、香澄は考えつつ言う。
「東京って流行り物ができると、ドバーン! と色んな所にお店が増えるから、狙ってどこかに行かなくても、とりあえずは食べられると思う。私、あんまり流行に敏感じゃないんだけど、よく見るのなら、カヌレとかマリトッツォとか、……食べたい?」
言われて、麻衣は少し考えたあと首を傾げる。
「興味がなくて食べた事がないんだけど、……あんまり……かも」
「でしょ? 麻衣ならそう言うと思ってた。麻衣の好きなスイーツじゃないなぁ、って」
香澄は麻衣と長い付き合いなので、彼女の食の好みを熟知している。
というか、食の好みも似ているのでディープな親友になれたと言っていい。
「麻衣って、プリンとかケーキが好きでしょ? で、生クリームが多いのはあんまり得意じゃない……。美味しい生クリームは食べるけど、そうじゃないのは量があるとキツいタイプ」
「うん、それ」
「で、柔らかめの食感が好きだから、カヌレもあんまりかな……と思って」
「そうなんだよねぇ」
二人の話を、マティアスは注意深く聞いている。
「バナナジュースは好物でしょ? あと、ふわとろパンケーキより、昔ながらのホットケーキが好き。生クリームたっぷりは、あんまり」
「それ!」
麻衣はケラケラ笑う。
テレビで生クリームがたっぷりかかったパンケーキを放送していて、麻衣とメッセージで「これ凄いね!」と連絡を取り合っていたのだ。
「じゃあ、バナナジュースと良さそうなパンケーキかホットケーキを食べたい」
「うん、そうしよう。きっと家の周りでも美味しいお店はあると思うから、あとから探してみよっか。特にお店のこだわりもないでしょ?」
「うん、ない。『東京で何か美味しい物が食べられたらいいや』っていうぐらいだから」
「OK!」
話が纏まったあと、マティアスが尋ねてきた。
「マイは、他にしたい事はないのか?」
彼に話しかけられ、麻衣は一瞬目を泳がせ、それから質問に答える。
「一番の目的は香澄に会って、一緒に年越しする事です。美味しい物も食べられたし、観光名所にも行けて、もうほとんど満足してますけど……。まぁ、いつか香澄とファンタジーランドに行きたいなとは思っていますが、それは今回じゃありません」
千葉にある有名なテーマパークの名前を出し、麻衣は香澄に「ねー」と同意を求める。
テレビ番組で『もし有名人が○○にお忍びで行ったら……?』という企画があった。
最後にネタバレする前提での企画だが、大好きな芸能人だと分かった時の熱量は凄かった。
しかも番組の場合は、ネタバレした時に周囲にスタッフがいて、騒ぎにならないよう気を遣った上でだろう。
佑はメディアに顔を出しているものの、経営者だ。
「私は芸能人ではなく、経営者で一般人の部類に入ります」と主張しているからこそ、「もしかしたら自分でもワンチャンあるのでは……」と思う女性がいるのが厄介だ。
本社には毎日、佑宛てのラブレターや贈り物が届いている。
総務では、佑が読んでも大丈夫な手紙のみを読んでもらうように仕分けている。
同時に差し支えのないプレゼントも、渡していた。
だが、熱の籠もりすぎたラブレターや、ネガティブな手紙、意図不明な贈り物や、手作りの食べ物は彼のもとには届かない。
業者経由で届いた食べ物については、秘書課で美味しく頂いている。
その前にそもそも、「食べ物や大きすぎる贈り物はご遠慮しています」とは明記しているのだが。
佑は「気持ちは受け取りたいけど」と言うものの、万が一があってはいけない。
贈り物があった際は、佑が考えた文面をプリントした物とポストカードを茶封筒に入れて、感謝の言葉としている。
それほど人気がある佑が、突然原宿や渋谷に降臨したとなれば、凄い騒ぎになるのは目に見えている。
双子もこう言っていた。
『僕らにもファンはいるけど、たまに頭打ったんじゃないかっていう強烈なのがいる。そういうのはファンを通り越して害にしかならないから、近付かないのが一番』
香澄と麻衣が行き先について相談し、佑たちの事も考えて……と悩んでいると、彼が申し訳なさそうに言ってきた。
「すまない。もし俺が邪魔なら、護衛だけ連れて好きな場所に遊びに行ってほしい」
それに、フレーバーティーを飲んだ麻衣が「いいえ」と首を振る。
「御劔さんがいてもいなくても、特に行かなくても大丈夫なんです。イメージですけど、ファッションビルが多いんでしょう? 特に興味ありませんし、流行りの食べ物が食べたいって言っても、一周回って何だか分からなくなりましたし」
そう言った麻衣に、香澄は考えつつ言う。
「東京って流行り物ができると、ドバーン! と色んな所にお店が増えるから、狙ってどこかに行かなくても、とりあえずは食べられると思う。私、あんまり流行に敏感じゃないんだけど、よく見るのなら、カヌレとかマリトッツォとか、……食べたい?」
言われて、麻衣は少し考えたあと首を傾げる。
「興味がなくて食べた事がないんだけど、……あんまり……かも」
「でしょ? 麻衣ならそう言うと思ってた。麻衣の好きなスイーツじゃないなぁ、って」
香澄は麻衣と長い付き合いなので、彼女の食の好みを熟知している。
というか、食の好みも似ているのでディープな親友になれたと言っていい。
「麻衣って、プリンとかケーキが好きでしょ? で、生クリームが多いのはあんまり得意じゃない……。美味しい生クリームは食べるけど、そうじゃないのは量があるとキツいタイプ」
「うん、それ」
「で、柔らかめの食感が好きだから、カヌレもあんまりかな……と思って」
「そうなんだよねぇ」
二人の話を、マティアスは注意深く聞いている。
「バナナジュースは好物でしょ? あと、ふわとろパンケーキより、昔ながらのホットケーキが好き。生クリームたっぷりは、あんまり」
「それ!」
麻衣はケラケラ笑う。
テレビで生クリームがたっぷりかかったパンケーキを放送していて、麻衣とメッセージで「これ凄いね!」と連絡を取り合っていたのだ。
「じゃあ、バナナジュースと良さそうなパンケーキかホットケーキを食べたい」
「うん、そうしよう。きっと家の周りでも美味しいお店はあると思うから、あとから探してみよっか。特にお店のこだわりもないでしょ?」
「うん、ない。『東京で何か美味しい物が食べられたらいいや』っていうぐらいだから」
「OK!」
話が纏まったあと、マティアスが尋ねてきた。
「マイは、他にしたい事はないのか?」
彼に話しかけられ、麻衣は一瞬目を泳がせ、それから質問に答える。
「一番の目的は香澄に会って、一緒に年越しする事です。美味しい物も食べられたし、観光名所にも行けて、もうほとんど満足してますけど……。まぁ、いつか香澄とファンタジーランドに行きたいなとは思っていますが、それは今回じゃありません」
千葉にある有名なテーマパークの名前を出し、麻衣は香澄に「ねー」と同意を求める。
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