上 下
1,135 / 1,544
第十八部・麻衣と年越し 編

御劔佑のイメージ

しおりを挟む
「単純に知りたがってるだけだから、教えてあげて。ちょっとやそっとの事じゃ怒らないから」

 麻衣をつつくと、彼女は諦めたように口を開いた。

「影響を受ける前は『テレビに出てる、やけに顔のいい、経営者なのにバラエティにも出てる変わった人』っていう印象でした。正直、経営者なのかタレントなのかよく分からなかったです。テレビに出ている姿を見ると、『この人、ちゃんと仕事してるのかな? 部下に任せてるだけなんじゃないかな?』とか思っていました」

「なるほど、確かにメディアに露出している他は、謎が多い……か」

 佑は顎に手をやり、何かを考えている。

「休日にテレビを見ていると、ワイドショーで報じられている事もあるので、やれウン億円の絵画を買っただの、クルーザーで東京湾デートだの、プライベートジェットでどうのこうの……って聞くと、遊び回ってる人なのかな? という無責任な思いが……」

「クルーザーで東京湾デート?」

 香澄はピクンと反応し、「なにそれ?」と佑を見る。
 だが佑も心当たりのない顔で考え込み、難しい顔をしてしばらく悩んだあと、うめくように言う。

「コレクションが終わって、モデルたちにお疲れ様の意味を兼ねてクルーザーでパーティーを開いた事はある。もちろん役員やメンズモデルもいたし、俺が個人的に女性とデートしたなどあり得ない。……多分、人混みに嫌気がさして甲板に出ていたところで、誰かに声を掛けられたのを、海まで出た記者に撮られた……可能性はある」

「わぁ……。海まで追いかけるんだ……」

 呆れた声を出したが、佑は「そんなもんだ」と諦めている。

「……と、まぁ。佑さんにはこういう割と地味な理由があるんだけど」

 麻衣に話し掛けると、ホットミルクを飲んでいた彼女は「ふぅん……」と頷く。

「やっぱりワイドショーの情報だけで、印象を決めてたら駄目ですね。ネットで見る写真でも、ファッションショーでモデルさんに囲まれてる写真とかが多いから、自然と頭に〝常に女性と一緒にいる人〟っていうイメージあるんですよ」

「なるほど。……仕方がないと言えば仕方がないか」

「香澄がいる前で申し訳ないんですが、何年か前、モデルと噂になったじゃないですか。だから正直、香澄から話を聞いた時は『騙されているんじゃないかな』って思いました」

「んー……、それは……。申し訳ない。ある程度は事実だったから、不実な印象を与えてしまっていたかもしれない」

 佑が認めた事から、香澄はNOZOMIというモデルの事だと察する。

「今は香澄一筋なんですね?」

「ああ、本当に香澄一筋だ」

「……って、御劔さんが自分のイメージを聞いたんじゃないですか。なぜこうなる」

 麻衣が突っ込み、三人して思わず笑った。

「……そうか。やっぱり有名だと『遊んでそう』っていうのは思われてるんだな」

「遺憾ですか? 社長」

 香澄が少しふざけて尋ねると、彼は「この」という表情で苦笑いする。

「きっとテレビの向こうにいる、実在してるかも分からない相手っていう印象なんだろうな」

「そう! それです! だから私も、空港でお会いした時は『本当にいる!』って思っちゃいました」

「もっとChief Everyを身近に感じてほしいと思うけど、俺のイメージが一人歩きしているんだな。浮ついた行動はしないように心がけているけど、今まで以上に気をつけないと。『MONDAY』は怖い……」

「あー、『月曜日の悪魔』って言われているアレね……」

「『文冬砲』も有名ですね。すべてを凍り付かせる……」

 麻衣も乗ると、佑は額を押さえて「聞きたくない」と首を振る。

「でも、こうやってご招待頂けて、実際の御劔さんがどういう人なのか分かって良かったです」

「合格点をもらえて良かった。引き続き宜しくお願いします」

 佑が仕事のメールのように言って頭を下げる姿を見て、香澄は笑った。

「御劔さんも、札幌に来た時は声を掛けてください。美味しいラーメン屋ぐらいなら案内できますよ」

「頼むよ」

 すっかり打ち解けた佑と麻衣を見て、香澄はこの上なく幸せだった。

 ――と、和やかな空気に麻衣が一石を投じる。

「ところで香澄。一月に皆で会おうかって話があるんだけど」

「ん? 聞いてない。同窓会? ハガキも来てなかった気がするけど」

「あ、いや。正式なのじゃないの。仲いい子と『集まろうか』って言ってるだけで。決まったら連絡くると思うけどね」

「ふぅん……。懐かしいな。会いたい」

 香澄はさっそくスマホを開き、カレンダーアプリで帰省できそうな日にちを確認する。

「十日から十三日まで連休だね」

「そうそう。その辺りを狙ってて」

「うーん……。仕事始め一週間だけど……。佑さん、帰省していい?」

 そう言って佑を見ると、彼は難しい顔をしている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...