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第十八部・麻衣と年越し 編
マイは魅力的だ
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(まぁ、でも、できる範囲ならいいかな。日本ならではのお土産を目利きしてほしいっていうなら大丈夫だと思うし)
そんな事を考えていたのだが、意外な言葉を掛けられた。
「マイが東京に滞在している間、一日でいいからデートしてほしい」
「はぁ……。は…………。…………え?」
一瞬「なんだ、そんな事か」と思ったあと、心の中で「!?」と動揺した。
自慢ではないが、生まれてこのかた異性からデートに誘われた事などない。
香澄と一緒にグループデートした事ならあるが、彼女を誘いたい男子に、男友達と一緒に付き合ってあげただけだ。
社会人になってからは、異性と二人きりになるなど皆無だ。
悲しい事に、自分が女性の中でどれぐらいのレベルなのか分かっている。
だから、逆にマティアスの感覚を疑ってしまった。
「それでマティアスさんに、何の得があるんですか?」
「え? 得?」
彼は驚いて聞き返してくる。
「香澄みたいな子ならともかく、私みたいなのを連れ歩いても楽しくないでしょう」
我ながら卑屈な事を言っている自覚はある。
だが麻衣はこの二十八年で、自分の価値を客観的に理解していた。
過度に期待すれば「痛いデブ」と陰口を叩かれかねない。
「頑張ったらイケる」という期待を見せず、可も不可もない人物を貫いてきた。
体型を自虐すれば、まともな人は「そんな事言わなくても……」と気にする。
だから卑屈にならず、かといって自信満々にもならず「付き合いやすい大らかな人」という立ち位置を守ってきた。
本当はコンプレックスで一杯だが、腫れ物を扱うように接されるのは御免だ。
だから本意でなくても、周囲が心地よく過ごせる事を第一に心がけてきた。
そんな自分がマティアスのような外国人イケメンに誘われたので、混乱しきっている。
「何を言っている。マイは魅力的だ。君は強い意志を持つ美しい女性だ。自分を卑下する言葉は相応しくない」
「魅力的」と言われ、今度こそ麻衣の思考は固まった。
(ちょ……。ちょ、ま? ……何言ってるの? この人。私だよ? 私、香澄みたいに可愛くないし、体重もずっしりしてますが!? 新手の罰ゲーム? 双子さんに何か言われた?)
面食らったあと、麻衣は混乱したまま口を開く。
「……ふざけてます? 罰ゲームとか」
「そんな事ある訳ないだろう。俺は真剣だ」
ムッとした表情を見て、さすがに彼が本気なのだと理解した。
(この人、本気で私をいいと思ってるの?)
心の中で呟いた瞬間、ボッと顔が発火したように赤くなった。
「あ、あの……。デブ専?」
恐る恐る尋ねると、マティアスはさらにムッとする。
「俺はそういう言葉は嫌いだ」
「……す、すみません……」
思わず謝ってから、ほんの少しだけ勇気を出して、ポジティブに捉えてみた。
「も……もしかして……。つかぬ事をお窺いしますが、私に……こ、好意を持っていますか?」
「持っている。I love you.を言えるかと尋ねられると、まだ分からない。だがマイとデートしたり、キスをしたいと思っている。君に女性的魅力と、性的魅力を感じている」
「デッ、デート!? き、キス!?」
思わず大きな声が出て、バッと両手で自分の口を塞ぐ。
(嘘でしょお……?)
信じられないと目をまん丸に見開いた麻衣に、マティアスは淡々と話し掛けてくる。
「そろそろ前菜が運ばれてくるかもしれない。デートの時間をくれるか? 駄目か?」
最初に尋ねられた事を繰り返され、麻衣は呆然としたまま頷く。
「……い、いいです……。けど……」
「じゃあ、あとで連絡先を交換してもらってもいいか?」
「わ、分かりました」
「ありがとう。じゃあ、戻ろう」
そう言って手を差し出され、「へっ?」と固まっていると手を握られた。
(わっ……!)
手が大きい。
麻衣は自分の手を、体相応に大きくぶ厚いと思っている。
香澄の華奢な手を握ると、彼氏のように「守ってあげたい」と思っていた。
自分の手を「逞しい」と思っていたのに、それよりもずっと大きな手が包むように握ってきて、「敵わない」と感じた。
そんな事を考えていたのだが、意外な言葉を掛けられた。
「マイが東京に滞在している間、一日でいいからデートしてほしい」
「はぁ……。は…………。…………え?」
一瞬「なんだ、そんな事か」と思ったあと、心の中で「!?」と動揺した。
自慢ではないが、生まれてこのかた異性からデートに誘われた事などない。
香澄と一緒にグループデートした事ならあるが、彼女を誘いたい男子に、男友達と一緒に付き合ってあげただけだ。
社会人になってからは、異性と二人きりになるなど皆無だ。
悲しい事に、自分が女性の中でどれぐらいのレベルなのか分かっている。
だから、逆にマティアスの感覚を疑ってしまった。
「それでマティアスさんに、何の得があるんですか?」
「え? 得?」
彼は驚いて聞き返してくる。
「香澄みたいな子ならともかく、私みたいなのを連れ歩いても楽しくないでしょう」
我ながら卑屈な事を言っている自覚はある。
だが麻衣はこの二十八年で、自分の価値を客観的に理解していた。
過度に期待すれば「痛いデブ」と陰口を叩かれかねない。
「頑張ったらイケる」という期待を見せず、可も不可もない人物を貫いてきた。
体型を自虐すれば、まともな人は「そんな事言わなくても……」と気にする。
だから卑屈にならず、かといって自信満々にもならず「付き合いやすい大らかな人」という立ち位置を守ってきた。
本当はコンプレックスで一杯だが、腫れ物を扱うように接されるのは御免だ。
だから本意でなくても、周囲が心地よく過ごせる事を第一に心がけてきた。
そんな自分がマティアスのような外国人イケメンに誘われたので、混乱しきっている。
「何を言っている。マイは魅力的だ。君は強い意志を持つ美しい女性だ。自分を卑下する言葉は相応しくない」
「魅力的」と言われ、今度こそ麻衣の思考は固まった。
(ちょ……。ちょ、ま? ……何言ってるの? この人。私だよ? 私、香澄みたいに可愛くないし、体重もずっしりしてますが!? 新手の罰ゲーム? 双子さんに何か言われた?)
面食らったあと、麻衣は混乱したまま口を開く。
「……ふざけてます? 罰ゲームとか」
「そんな事ある訳ないだろう。俺は真剣だ」
ムッとした表情を見て、さすがに彼が本気なのだと理解した。
(この人、本気で私をいいと思ってるの?)
心の中で呟いた瞬間、ボッと顔が発火したように赤くなった。
「あ、あの……。デブ専?」
恐る恐る尋ねると、マティアスはさらにムッとする。
「俺はそういう言葉は嫌いだ」
「……す、すみません……」
思わず謝ってから、ほんの少しだけ勇気を出して、ポジティブに捉えてみた。
「も……もしかして……。つかぬ事をお窺いしますが、私に……こ、好意を持っていますか?」
「持っている。I love you.を言えるかと尋ねられると、まだ分からない。だがマイとデートしたり、キスをしたいと思っている。君に女性的魅力と、性的魅力を感じている」
「デッ、デート!? き、キス!?」
思わず大きな声が出て、バッと両手で自分の口を塞ぐ。
(嘘でしょお……?)
信じられないと目をまん丸に見開いた麻衣に、マティアスは淡々と話し掛けてくる。
「そろそろ前菜が運ばれてくるかもしれない。デートの時間をくれるか? 駄目か?」
最初に尋ねられた事を繰り返され、麻衣は呆然としたまま頷く。
「……い、いいです……。けど……」
「じゃあ、あとで連絡先を交換してもらってもいいか?」
「わ、分かりました」
「ありがとう。じゃあ、戻ろう」
そう言って手を差し出され、「へっ?」と固まっていると手を握られた。
(わっ……!)
手が大きい。
麻衣は自分の手を、体相応に大きくぶ厚いと思っている。
香澄の華奢な手を握ると、彼氏のように「守ってあげたい」と思っていた。
自分の手を「逞しい」と思っていたのに、それよりもずっと大きな手が包むように握ってきて、「敵わない」と感じた。
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