上 下
1,128 / 1,544
第十八部・麻衣と年越し 編

マティアスの呼び出し

しおりを挟む
「香澄と麻衣さんは、せっかくだから景色を楽しめる側に座るといい」

 彼に言われ、香澄たちは並んで座る。

「俺はここでいい」

 マティアスは麻衣が座っている側の下座に座り、佑は「じゃあ俺はこっち」と香澄が座っている側の上座に座る。
 双子たちは香澄と麻衣の向かいだ。

「すでにコースを予約してあるけど、麻衣さんはアレルギーとか苦手な食べ物はない? 香澄からは特にないと聞いたけど」

「ありません。何でも食べます」

 きぱっと言い切った麻衣の返事を聞いて、佑はクシャッと笑うと、そのままクックック……と笑い崩れた。

 双子も爆笑している。

「どうしたの? 佑さん」

 香澄は彼らが麻衣をバカにしているなら、一言もの申すという表情で尋ねた。

「……いや、香澄の仲良しは香澄と同じ事を言うなって思って。健康的で宜しい」

「…………」

「…………」

 だがそう言われ、香澄は親友と顔を見合わせて、じわ……と赤面する。

「だって……ねぇ?」

「ねぇ? 好き嫌いがないのは自慢だもんねぇ?」

 ポソポソと言い合う姿がツボだったのか、佑たちはさらにクックック……と笑っていた。

 その後、コース料理の準備をしてもらう事にし、飲み物をオーダーする。

「やっぱり本社に来たならビール飲まないとね! いやぁ、昼間っからビール最高!」

 みんなで乾杯をしたあと、麻衣はくーっとビールを呷ってご機嫌に言う。

「マイっていけるクチなんだね? ドイツに来てビール飲み比べしてみない? 日本のビールとはまた違いがあって面白いよ」

 クラウスに誘われ、麻衣は笑顔で頷く。

「ドイツってビールが有名ですよね。香澄に写真を送ってもらったんですけど、バカでかいジョッキやグラスがあって『飲んでみたいなー』って思いました」

 興味を示したからか、アロイスが得意げに言う。

「日本やベルギーのビールも美味いけど、俺たちはやっぱり祖国のビールを推すね。地方性があって面白いよ。俺たちが住んでいるブルーメンブラットヴィルは南部なんだけど、南部はフルーティーなんだ。北部に行くとどんどん辛くなっていくよ」

 地方性を教えられ、麻衣は興味津々だ。

「へぇ~! 面白い。いつか行ってみたいです。でもツアーなら、定番の観光スポット巡りになるから……。そういうのは二回目以降かな。どう思う? 香澄」

 親友に意見を求められ、香澄も考える。

「確かにツアーだと見たい所が凝縮されてお得かも。その分、自由度は低いよね」

 そう言った時、クラウスが二人に向かって両手を突きだした。

「ハイハイ、何言ってんの。僕らのジェットに乗せてひとっ飛びに決まってるじゃん。パスポートさえ持ってれば、ガイド不要、通訳不要であちこち連れてってあげるよ」

「あはは、ありがとうございます。魅力的ですね」

 麻衣はまた、マティアスの時と同じ対応をする。

 一般的に考えれば、ドイツ旅行を負担するなど高額すぎる。
 初対面の人に言われても、普通ならリップサービスとしか思わないだろう。

(でもね……。この人たちが言う事って全部本気なんだよ……)

 香澄は生ぬるい表情で、親友に心の中で語りかける。

 ――と、それまで黙っていたマティアスが口を開いた。

「マイ、ちょっといいか?」

 彼は親指で個室の外を示し、「二人きりで話したい」と伝えている。

「はい? 構いませんが」

 麻衣は立ち上がり、マティアスと一緒に個室から出ていった。

「あいつ結構、行動的だな?」

「だな。ちょっとビックリしてる」

 双子がそう言い、香澄は「ん?」となる。

「横槍を入れずに、したいようにさせてやれよ」

 佑も会話に加わり、昼ビールを楽しむ。

(え? この雰囲気って……もしかして……)

 ピーン、ときた香澄は、出入り口のほうを気にしつつ、コソコソと三人に向かって尋ねた。

「もしかしてマティアスさんって、麻衣を……?」

「今頃気づいたの? カスミ」

「応援してやろーね」

「…………!」

 瞬間、香澄の表情がパァッと明るくなり、直後、思い切りにやついた。

「んっふふふふふふ…………! ふー!」

「カスミ、怖い」

「あーあー。カスミのスイッチ入っちゃったよ」

 双子が苦笑する中、佑がもっともな事を言ってくる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

I want a reason to live 〜生きる理由が欲しい〜 人生最悪の日に、人生最大の愛をもらった 被害者から加害者への転落人生

某有名強盗殺人事件遺児【JIN】
エッセイ・ノンフィクション
1998年6月28日に実際に起きた強盗殺人事件。 僕は、その殺された両親の次男で、母が殺害される所を目の前で見ていた… そんな、僕が歩んできた人生は とある某テレビ局のプロデューサーさんに言わせると『映画の中を生きている様な人生であり、こんな平和と言われる日本では数少ない本物の生還者である』。 僕のずっと抱いている言葉がある。 ※I want a reason to live 〜生きる理由が欲しい〜 ※人生最悪の日に、人生最大の愛をもらった

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番
ファンタジー
*『第16回ファンタジー小説大賞【大賞】・【読者賞】W受賞』 *書籍発売中です 彼氏にフラれた直後に異世界転生。気が付くと、ラノベの中の悪役令嬢クローディアになっていた。すでに周りからの評判は最悪なのに、王太子の婚約者。しかも政略結婚なので婚約解消不可?! 王太子は主人公と熱愛中。私は結婚前からお飾りの王太子妃決定。さらに、私は王太子妃として鬼の公爵子息がお目付け役に……。 しかも、私……ざまぁ対象!! ざまぁ回避のために、なんやかんや大忙しです!! ※【感想欄について】感想ありがとうございます。皆様にお知らせとお願いです。 感想欄は多くの方が読まれますので、過激または攻撃的な発言、乱暴な言葉遣い、ポジティブ・ネガティブに関わらず他の方のお名前を出した感想、またこの作品は成人指定ではありませんので卑猥だと思われる発言など、読んだ方がお心を痛めたり、不快だと感じるような内容は承認を控えさせて頂きたいと思います。トラブルに発展してしまうと、感想欄を閉じることも検討しなければならなくなりますので、どうかご理解いただければと思います。

美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。 世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。 意味がわからなかったが悲観はしなかった。 花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。 そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。 奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。 麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。 周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。 それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。 お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。 全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

処理中です...