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第十八部・麻衣と年越し 編

スカイタワーへ

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「分かった。じゃあ、方向的に一緒だから、浅草辺りを攻めようか。年末で混むから大晦日と元旦は家にいるかもだけど、ちょこちょこ出かけたら、定番観光地は行けるんじゃないかな?」

「そうする」

 香澄はすぐにスマホを使い、御劔邸から目的地までを登録していく。

「そうする姿も秘書っぽいね」

 麻衣がいじってきたので、香澄は悪ノリする。

「やめたまえ~。赤松くんはまだ未熟な秘書なんだから」

 ふざけると、佑が咳払いした。

「香澄? それはどこの社長の真似かな?」

「存じ上げません」

 香澄は麻衣とくっついてスマホを覗き込み、クスクス笑う。

 そんな彼女に、クラウスが声を掛けてきた。

「カスミって、友達といるとそんな感じなんだね? なんかキャラが明るくなって面白さが増してる気がする」

「俺たちもドイツの男友達と一緒だと、もっと酷いだろ」

 コーヒーを飲みんでいるアロイスが、クラウスに言って笑う。

 その時、マティアスが麻衣に話しかけた。

「マイ。ドイツにも良い所が沢山ある。いつか一緒に歩かないか? 案内する」

「あー、素敵ですね。ドイツだったらビールが美味しそう。それにソーセージ? あとロマンチック街道でしたっけ? お伽噺の街みたいなの、見てみたいです。ヨーロッパツアーって何十万もするから、なかなか行けないんですよね。今度お金を貯めて目標立ててみるので、決まったらその時はお願いします」

 麻衣は一般的な返しをする。
 だがマティアスは嬉しそうな顔で「連絡を待っている」と、わざとらしくポケットからスマホを取りだした。

「俺は里帰りするだけだし、マイがドイツに来るならチケット代や宿泊費は出す」

「あはは、ありがとうございます」

 麻衣はマティアスの申し出をただのリップサービスだと思い、笑って流したあと香澄のスマホを覗き込む。

「何か食べたいスイーツある?」

「最近のスイーツってよく分かんない。パンケーキは終わったの? タピオカも終わった?」

「流行を追ってたら駄目だよ。食べたいって思った物を逃さず食べる、でいかないと」

「そっか。そうする。もう体重とか気にしないで、東京を心置きなく食い尽くすぐらいでいくわ」

 女子二人で顔をくっつけてスマホを見ている姿を、マティアスはもの悲しそうな目で見ていた。

 それを双子が笑いを堪えながら見守り、佑はピン、と何かを察していた。
 佑が双子に向かって何か問う目を向けると、二人は愉快そうな顔でうんうんと頷く。

 その反応を見て、佑は「そうか……」という顔をしてゆっくり頷いていた。



**



 そのあと、出掛ける準備をしてから車三台で出掛けた。

 渋滞に巻き込まれつつ、十時半にはスカイタワーに到着した。

「凄い人だね……。さすが東京」

 麻衣は人混みに少し引いた様子で、香澄は「大丈夫だよ」という意味を込めて彼女の手を握る。

「それにしても、佑さんの読みって凄いね」

 行き先が決まって香澄がチケットをウェブ決済しようとすると、佑が「チケットは予約してあるよ」と言って、エスパーかと思い驚いてしまった。

「まず定番スポットは観光するかな? って思っていたから、麻衣さんが到着してからモタつかないように、先に色々押さえておいたんだ」

 言葉にはしなかったが、「予測が外れてもチケット代ぐらい痛くない」という余裕も窺える。

「凄い、さすが」

 香澄が素直に褒めると、佑はまんざらでもない顔で笑う。

「見ろよあいつ、鼻の下伸ばしてる」

「やーね、奥さん」

 そんな佑を見て、活躍できなかった双子は二人でボソボソと言い合っていた。

「俺は少し別行動をしてもいいだろうか? 銀座方面に用事がある」

 突然マティアスがそう言い、佑が応える。

「ああ、構わない。合流できそうになったら連絡をくれ。レストランの予約もあるから、なるべく時間の都合がつくように」

「了解した。もし俺の分もチケットを用意していたなら、あとで支払う」

「気にするな。それならあとで、香澄と麻衣さんにスイーツでもご馳走してくれ」

「喜んで」

 頷いたあと、マティアスは軽く挨拶をして人混みの中を歩いていった。
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