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第十七部・クリスマスパーティー 編

俺はきっかけを与えたにすぎない

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「地道に実行して、周りには『表情が明るくなったね』と言われました。特別陰気だったつもりではありませんが、前向きになったから表情に出たんだと思います。人から話し掛けられる回数も増えた気がします。会社の男性にも、『最近ちょっといい感じになったじゃん』って褒められました。付き合うとかは縁遠かったのですが、先日思い切って合コンに参加してみたら、連絡先を交換してくれた人がいました」

「やった!」

 思わず香澄は口に出し、麻衣の手をギュッと握る。
 それに麻衣は微笑み返し、手を握り返してくれる。

「メイクを落として服を脱げば、ほとんど変わっていません。無理に痩せようと思っていませんし、苦しい思いをして必死に痩せるより、食べる事を楽しみながら、できる範囲で筋トレする程度です。二キロぐらいは減りましたが、大きな変化ではありません」

「ううん。二キロって凄いよ! 最近私、四キロ増えたもん。その半分だよ? あっ」

 香澄は親友の減量に喜ぶあまり、増量してしまった事をうっかり言ってしまった。
 麻衣はそれを聞いて「あはは!」と笑い、「一緒にダイエットだね」と言ってくれる。

「服やメイクで、少し変わる事ができました。御劔さんの本を読んで、『これを持っていたら失敗しないアイテム』をChief Everyで買いました。派手な色を着るのはちょっと怖かったですが、友達に『明るく見えるね』って言われて勇気が出ました」

 親友の言葉を聞き、香澄はニコニコが止まらない。

「御劔さんの本を読んで自分の身長、体型に合いそうな物を買っては、少しずつお洒落を楽しむようになりました。あと靴も凄いですね。Chief Everyって幅広の、大きいサイズの靴もあって、今だと少しのヒールなら履けるようになりました」

 自分の変化を〝恩人〟に報告する麻衣は、本当に嬉しそうだ。
 香澄も婚約者が親友を救ってくれて、感謝している。

「前はプチプラメイクばっかりでしたが、自己満ですが、デパコスを使うと〝いい女〟になれた気がして、たまに気になった物があったら買っています。美容室も惰性で通っていた近所の店をやめて、気持ちをアゲてくれる所を見つけました。……そういう風に、自分の外見を気にしていなかった私が、こうやって変われたのはすべて御劔さんのお陰です。心から感謝しています。……なので、何回も読み返した本にサインが欲しいって思ったんです」

 すべて言い終わったのだと察した佑は、口を開く。

「頑張ったね。俺はきっかけを与えたにすぎない。本だって、読もうと思われないと買われない。まず、本を買ってくれてありがとう。そして『変わろう』と決意したのは麻衣さんの力で、実行したのも麻衣さんだ。凄いのは俺じゃなくて麻衣さんだよ。逆に、俺の本を読んで実行してくれて、心から光栄に思っています。ありがとう」

 優しく穏やかな言葉を聞いて、麻衣は俯いたかと思うとポロポロと涙を零し始めた。

「ま……っ、麻衣!?」

 焦った香澄はトントンと親友の背中を叩く。

 だが感極まった麻衣は、涙を流して肩を震わせていた。

「だ、だって……。あの御劔さん本人にお礼を言えるんだよ? 本当に念願叶って……。あと、美形でいい男だから緊張する! 他の三人もすっごい美形で、さっきから脚が震えてるし! あ~! 今になって体が震えてきた!」

 麻衣はダカダカと足踏みをし、香澄に抱きついてくる。

「よしよし。美形って怖いよね。分かるよ」

「香澄、ちょっと異論があるんだが」

 佑に突っ込まれて笑い、香澄は麻衣の背中をさすりつつ慰めた。

「一週間で美形集団に慣れろって言っても多分無理だし、私もいまだにドキドキするから麻衣、諦めて!」

「そんな……友よ……」

「あと、前々から言ってるけど、双子のお二人は色々と距離が近かったりおふざけが過ぎる時もあるけど、基本的に悪い人じゃないから、そこは宜しく」

「うん、分かった。でも、本当にデリカシーのない人なら、会ってすぐ『太ってるね』とか言いそう。逆にハグとかしてくれてびっくりした」

「あの三人は他人の外見についてネガティブに言わないんじゃないかな」

「そっか。なら良かった」

 微笑んだ麻衣が、窓の外を見て歓声を上げた。

「わぁ! ねえ、あれ、レインボーブリッジ?」

 虹色にライトアップされている特徴的な形の橋を見て、麻衣が興奮した声を出す。

「そうだよ」

「写真、写真」

 慌てて麻衣がスマホを取り出す姿を、香澄は微笑ましく見る。

 こうやってはしゃいでいるのは、泣いてしまった照れ隠しも半分あるのだろう。

 麻衣はカシャッカシャッとシャッター音を鳴らして写真を撮り、満面の笑みを浮かべている。

「年末に東京ってスペシャル感が強いね! それでもって、御劔邸にお邪魔できるなんて……。ああ、本当にいいのかな? 夢みたい……!」

「私は麻衣と過ごせるのが夢みたいだよ!」

 ギューッと抱きつくと麻衣も抱き返してくる。

 それを佑が、バックミラー越しに羨ましそうに見ていた。
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