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第十七部・クリスマスパーティー 編

忘年会の始まり

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「その前に忘年会というミッションを、クリアしないといけませんけどね。あとは今取りかかっている大掃除と」

「河野さんってお酒どうなんです?」

「普通に嗜みますよ? ビールよりは日本酒派ですが。推しがご当地日本酒のイメージキャラクターをしている日本酒もありまして。人間、どこから入り口があるか分かりません」

 河野はもう、地下アイドルオタクなのを隠していない。

「赤松さんはあまりビールは得意ではなかったんでしたっけ?」

 松井の問いに、香澄は恥ずかしそうに頷く。

「はい。飲めない事はないんですが、どうも辛いのとか苦いのとかより、甘いのを好んでしまう子供舌です」

「今日は皆さんも気持ちが緩んで、社長とどうなっているのか聞こうと、押し寄せてくるかもしれませんね」

「えぇっ?」

 成瀬たち三人ならまだしも、他の人に話す事は特にない。

 交流を深められたらとは思うものの、一番近いと思われる秘書課の人たちは、先日告白をしてきた井内がいて気まずい上、美人秘書たちからの目が厳しい。

 社長秘書というだけでも羨ましがられるのに、婚約者とくれば、「二人きりの時に何やってるの? いやらしい(羨ましい)」と思われても仕方がない。

 勿論オフィスで破廉恥な事はしていない。

 だが嫉妬からくるイメージはどうにもならない。
 その結果、事実とはまったく異なる噂が一人歩きしていても、悔しいがどうする事もできなかった。

 なので香澄が会社の飲み会で話すとすれば、松井と河野、成瀬たち……となってしまう。

「誰とも話したくないのなら、僕が壁になりすよ。僕は特に話す相手もいませんし」

「出席はするんですね?」

「Chief Everyに入社して初めての忘年会ですし、この会社の一次会の会計は社長持ちでしょう。タダ飯と酒なら参加せずにどうします」

 堂々と言われ、香澄は「それもそうだ」と納得する。

「福利厚生がしっかりしている上に、忘年会の費用まで負担してくださるとは、転職して良かったです。人間関係もまぁまぁですし」

 本音を隠さない河野の言葉に、香澄は苦笑する。

 確かに彼の前の職場から見れば、クリーンと言えばクリーンだろう。

(……私が色々トラブルメーカーになってしまっているのは、申し訳ない限りだけど……)

 心の中でつけ加え、香澄はゴム手袋を嵌めた手で雑巾をギュッと絞った。



**



十七時になると、徒歩で駅近くにある焼き肉店に向かった。

 店は二フロアに跨がり、一フロアをChief Everyで貸し切りにしたようだ。

 十八時になると東京本部の参加者が着席し、香澄は佑が挨拶する姿を動画に収める。

「今年一年、お疲れ様でした。Chief Everyは本部の皆さんと、日本中、世界中の社員、準社員にに支えられて来年へ向かおうとしています。環境問題がある今、Chief Everyは『あらゆる人に服を』から、『求める人に最適な服を』というサスティナブルな方向にシフトしていきます。在庫をChief Every自らアウトレットの形にする新店舗の計画や、来年は有明に新オフィスをオープンする予定もあります。進化していくChief Everyと共に、皆さんには〝世界〟を感じてもらいたいと思います。来年も宜しくお願いします。年末年始はゆっくり休んで英気を養い、また年明けから一緒に働いてください。――お疲れ様でした! 乾杯!」

 佑がビールのジョッキを掲げ、全員が「乾杯!」と唱和した。

 佑の近くにいた社員がジョッキを寄せ、乾杯を求める。

 香澄はその様子をしばらくスマホで映していたが、社員たちが前菜に手をつけ始め、店のスタッフが料理を運ぶタイミングで、録画を終えた。

 佑は社員たちに囲まれているので、香澄は着席して前菜のナムルとキムチの三種盛りに箸をつけた。

(麻衣は二十二時くらいには空港に着くって言ってたから、今から二時間宴会を楽しんで、一回帰ってから着替えて空港に行っても、まだ余裕があるな)

 これから親友に会えるのだと思うと、ニマニマが止まらない。

 双子たちには「大切な親友だから、絶対に失礼な事を言わないでください」と釘を刺したが、どうなるか……というハラハラも多少ある。
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