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第十七部・クリスマスパーティー 編

麻薬探知犬

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 丁度イチゴのフェアをやっているらしく、季節のショートケーキはイチゴだ。

 紅茶はポットに茶葉が入ったままだと渋くなるので、三分蒸して適した濃度になると、ブランド陶磁器のポットに移された。

 本来、ホテルのラウンジカフェでアフターヌーンティーを楽しむ時は、スタッフが紅茶のなくなったタイミングで注いでくれる。

 だが佑は「あとは自分たちでしますので」と言い、フロアコンシェルジュはケーキと紅茶を出したあと、部屋から静かに出ていった。

「んふふ、美味しい」

 高級ケーキなので上品な大きさだが、三時のおやつとしては適量だ。

「佑さんは食べなくていいの?」

「ん、あまりケーキは得意じゃなくて」

「ふぅん?」

 佑はケーキを頬張る香澄を見て、唇を舐めてきた。

「んっ?」

「あま……。こういう食べ方なら好きだけど」

 佑は自分の唇を舐め、妖艶に笑う。

「も、もーっ……!」

 真っ赤になってぐいぐいと押すと、彼は笑いながら紅茶を飲む。

 美味しいケーキを食べ終わったあと、香澄は「そう言えば……」と思いだした。

「友達が彼氏と生クリームプレイをしたらしいんだけど、乳製品だから、放置するととっても臭くなるんだって」

「……浪漫のあるプレイだけど、現実は厳しいやつだな……」

 佑は「くく」と小さく笑い、香澄をしげしげと見てくる。

「……なに?」

「いや、何プレイなら香澄を綺麗に食べられるかな? って」

「えー、やだ。普通でいいよ」

 香澄はお酒をまた口にし、佑をクッションにしてソファに足を投げだす。

「普通がずっと続いてたら、マンネリしないか心配で」

 佑は香澄の胴に腕を回し、つむじに唇を押しつけてきた。

「飽きないよ。ベーシックなのって一番人気があるんだから。形は変われど、ジーンズがずっと人気なのと同じです」

「……そう言われると参ったな」

 佑は苦笑し、香澄の頭の上にコツ、と顎をのせる。

 香澄は抱かれたまま、ゆっくりブドウのお酒を飲む。
 やがてコトンと空になったグラスをテーブルに置くと、「ふー……」と息を吐きながらぐてん……と佑によりかかった。

「満足した?」

「んー、した」

「じゃあ、ちょっと横になってなさい。体温が高い」

 佑はそう言って、香澄をヒョイと抱き上げるとベッドルームに運んだ。

「寝るの?」

「どっちでも。寝るのが嫌ならマンガ読んでてもいいし」

「ホント? 途中でしおり挟んでたのあったんだよね」

 香澄は置きっぱなしだったスマホを手に取り、電子書籍アプリを立ち上げる。

「俺も少し用事を」

 佑はタブレットを立ち上げて誰かにメールを打ち始める。
 彼が隣にいると、無言でもまったりとした時間を過ごせる。

 香澄は佑に体をくっつけ、電子書籍アプリでマンガを読み始めた。



**



「お帰り~! もうキエがご飯作ってるよ」

 御劔邸に戻ると、双子がぶーぶー言いながら玄関まで出迎えた。

「ただいま。荷物置いてすぐ着替えるから、用意して待っててくれ」

 佑はいつも通りに双子に対応し、階段に向かう。

「お待たせしてすみません。私もすぐ準備しますね」

 香澄はホテルで致していたのがバレないかドキドキしつつ、ペコリと頭を下げて二人の間を通ろうとする。

「ちょ、待ち?」

「待った」

「ふぇっ!?」

 だが両側から双子にガシッと腕を組まれ、前に進もうとした足がズリッと床を滑る。

「なーんか……。今タスクからシャンプー香ったんだよね」

「カスミの香水も、この時間にしては香りが強いんだよね。朝つけて、今ぐらいの時間ならラストノートになってる。けど今香ったのはミドルノードだ」

 そう言って双子は、両側からスンスンと香澄の匂いを嗅いでくる。

 まるで麻薬探知犬のようだ。
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