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第十七部・クリスマスパーティー 編

わざとの可愛らしさ

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(無理して『可愛い』って言わなくていいよ)

 そう言いかけたが、今の状況で言えば拗ねて言ったように取られそうだ。

(なんて伝えたらいいんだろう)

 不安な顔で棒立ちになっていたからか、佑が無理に微笑んで両手を広げた。

「おいで。俺だけのメイドを抱き締めさせてくれ」

 そう言われると拒否する訳にもいかず、香澄は少し安堵して、けれどおずおずと佑のもとに行く。

 佑の膝の間に座ると、香澄は思いきってぱふっと彼に抱きついた。

 バスローブ越しに佑の鼓動が異様に速まっているのを感じ、香澄は微かに顔を歪める。

(こんなに動揺するほどの事なの? 何か……トラウマでもつついてしまった?)

 自分を抱き締める手も微かに震えていて、胸が苦しくなる。

「……佑さん? 心臓がドキドキ鳴ってるよ? 大丈夫?」

〝分かっている〟のを気づかせないために、香澄はわざとキョトンとした顔で尋ねた。
 真剣に尋ねてしまえば、佑の逃げ道を奪ってしまう気がしたからだ。

 勘づいていると悟らせなければ、佑も笑いの方向に逃げられるのでは……と思った。

「香澄のメイドが可愛くて、胸が苦しくなったんだ」

「んふふ、ホントに大げさだよ、もぉ……」

 思った通り佑は〝笑い話にして和ませる〟方向に向かい、香澄は内心胸を撫で下ろす。

 可愛がる事で誤魔化せるならと思い、佑が「可愛い」と言ってくれた仕草を取る。
 ぐりぐりと彼の胸元に顔を押しつけた香澄を、佑は愛しそうに見てくる。

(これで良かったんだ……。多分、聞いても答えてくれない。クラウスさんが言っていた、〝知らない方がいい〟やつなんだ。本当は知りたい。でも……、佑さんがこんな傷つく顔をするなら、深い場所まで立ち入らないほうがいい)

「……大丈夫?」

 もう一度尋ねると、佑は最初より幾分和らいだ顔つきで答えた。

「ん、大丈夫だよ」

(……良かった。ごめんね。そんな顔させてごめんね。もう、絶対にメイドのコスプレはしないから)

 ぎゅうっと佑を抱き締め、香澄は一粒だけ涙を零す。
 さらに顔をぐりぐりと佑の胸元に押しつけ、その涙をバスローブで拭った。

「好きだよ」

 佑が言い、キスしてくる。

 その唇を受け止め、何か言い返そうとする前に、訂正するようにもう一度告白された。

「誰よりも、一番に愛してるよ」

 耳元で大事そうに囁かれ、香澄はくすぐったくなって肩をすくめる。

 こんな状況になっても、佑は自分を大切にしてくれている。
 それが嬉しくて、笑顔になった。

「私も好きだよ。……ぁ、……あい、……してる」

 正面切って「愛してる」と言うのはまだ慣れない。
 けれど佑を少しでも元気づけ、勇気づけられるのなら……と思い、精一杯返事をした。

「俺はこれから先、一生をかけて香澄を幸せにすると約束するよ」

 まるで結婚式のような誓いの言葉に、香澄は思わず笑う。

「もう、結婚式はまだ先だよ」

「俺は今すぐ結婚してもいい」

 そう言って佑はペアリングを示し、香澄は自分の指に嵌まった同じ指輪を見て相好を崩す。

 ――嬉しい……。

 ――好きだなぁ……この人。

 両手でギュッと佑を抱き締め、香澄は彼の心の傷が癒えるように願う。

「大丈夫だからね。よし、よし」

 佑の頬にキスをし、香澄は彼の髪をサラサラと撫でる。
 佑は一瞬泣き出しそうな顔になり――、クシャッと笑ってまた香澄を抱き締めてきた。

「香澄、よく見せて」

(良かった。復活したみたい)

 彼の表情が明るくなり、顔にも血色が戻ったのを見て、香澄は膝立ちになって佑にメイド姿を見せた。
 落ち着いたからと言って、佑にとっての禁忌が払拭された訳ではない。

(恥ずかしいけど、早く脱いじゃおう。……よし)

 香澄は意を決して、見た事はないがストリッパーのように佑を誘惑する事にした。

「ご主人様。あなただけのメイド、香澄です。何なりとご用事をお申し付けください」

 ただでさえ短いミニスカートを両手で摘まみ、ピラリと捲り上げて香澄はお辞儀をしてみせる。

(どうかな……?)

 半ば不安になりつつも顔を上げると、佑は半分微妙な、けれど半分喜んでいる顔をしていた。
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