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第十七部・クリスマスパーティー 編

芸能事務所社長と会食

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 だがそれ以降も三井に気に入られたままで、たまに食事や酒に誘われては、最近の芸能界事情について話を聞かされているようだ。

 三井は俳優をしている、顔立ちの整った五十代の男性だ。

 演技をする事も勿論好きだが、キャリアを積むにつれ、業界で俳優やタレント、モデルたちがのびのび活動できる場を整えたいと思う気持ちが強くなったそうだ。

 俳優としてやはり業界のあり方や、後輩の将来を案じる気持ちがあるのだろう。

 彼は若い頃に年下の女優と結婚し、今はおしどり夫婦として知られている。

 現在では大御所扱いされ、惹かれた作品には出演するが、あとは社長として精力的に働いている。

 若い頃は人気があったため何かと話題になった人だが、今はすっかり落ち着いてダンディな俳優の代表格となっていた。

「その後、芸能部はどうですか?」

 三井が佑に尋ねる。

「ええ、基盤はしっかりしてきたと思います。芸能部を本社に置くか独立させるかで話し合っていますが、いずれM-techのように子会社化する事も予測して、独立させる方向で考えています。アパレル会社が芸能部を持つ……というのも変な話かもしれませんが、自社の服を一番良く見せる、信頼できるモデルを確保する意味では、不思議な話でもないと思っています。同時に、スカウトするモデルやタレントも見定めています」

 佑は三井と、芸能部の社外顧問になってもらう契約をした。

 今年の後半から三井と顔を合わせて会議する事も多く、香澄はChief Everyの新たな発展を前にワクワクしていた。

「その時は、うちの事務所から移籍したいっていう子が出るんでしょうかねぇ……」

 ぼやくように言った三井の言葉に、佑は笑う。

「こちらとしても、優秀な人材は欲しいです。ですが最初は少数精鋭でやっていきたいと思っているので、基準は厳しめにする予定です」

「確かに社長が御劔さんというだけで、応募したがる人はいるでしょうね。専属モデルを得たとして、Chief Everyの今後の展開に変化はありますか?」

 その質問に、佑は唇の前に人差し指を立て魅力的に微笑んでみせた。

「……でしょうね。いやぁ、正直最初に会った時は顔がいいもんだから、顔で食べていくタイプの経営者かと思っていました。ですがここまで会社を大きくした実力は本物ですね。私は御劔さんが次に何をしても、きっと驚かないと思います。あなたなら多角経営をしても成功するタイプの人だと思うので。その時はうちを贔屓にしてもらって広告してもらえたら……と思っていましたが、……あー、芸能部作っちゃうんですよねぇ……」

 三井は最後に「あはは」と笑い、お茶を飲む。

「そう仰いますが、うちが芸能部を作ったとしても新参者です。老舗の芸能事務所には敵いません。芸能業界は育ててくれた会社への恩を大切にするでしょうし、三井さんに恩義を感じている方は残ると思いますよ」

「そう願いましょう。ところで、赤松さんは御劔さんの婚約者ですよね?」

「はい。彼女が何か?」

 食後の柚子シャーベットを食べていた香澄は、二人の会話を聞いて背筋を伸ばす。

「以前に御劔さんが『ミューズを得た』と仰ったのを聞いてから、興味を持っていたんです。改めてスタイルのいい女性ですね。あと、透明感があるのにそれとなく妖艶さもあります」

「彼女は私の秘書ですから、三井さんのところにはやりませんよ?」

 佑は意地悪に笑う。

「スカウトしよう……とは半分しか思っていません。お伝えしたかったのは、彼女を起用すれば、御劔さんは思い描く世界をもっとストレートに伝えられるのでは……? という事です」

(ないないない。芸能人になんてなりません)

 香澄は内心でプルプルと首を横に振る。

「あり得ません。彼女は確かに魅力的ですが、私個人のミューズです。大切な宝物を、大勢の前に晒そうなんて思いません。彼女を魅力的だと思う人を、これ以上増やしたくないという、狭量な男のエゴでもあります」

 他人の前で壮大な愛の告白をされ、香澄は真っ赤になった。

(嬉しい……。けど、恥ずかしい……!)

 三井は香澄と佑を見比べ、魅力的に笑ったあと腕時計を見た。

「おやおや、ご馳走様です。それではそろそろ時間ですね。どうぞ年の瀬をゆっくりお過ごしください。私は年末年始の番組もありますから、マネージャーたちの報告に耳を傾けなければ……ですが」

「ありがとうございます。三井さんも良いお年を」

 食後のコーヒーもなくなり、会食は終わろうとしていた。
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