1,084 / 1,548
第十七部・クリスマスパーティー 編
芸能事務所社長と会食
しおりを挟む
だがそれ以降も三井に気に入られたままで、たまに食事や酒に誘われては、最近の芸能界事情について話を聞かされているようだ。
三井は俳優をしている、顔立ちの整った五十代の男性だ。
演技をする事も勿論好きだが、キャリアを積むにつれ、業界で俳優やタレント、モデルたちがのびのび活動できる場を整えたいと思う気持ちが強くなったそうだ。
俳優としてやはり業界のあり方や、後輩の将来を案じる気持ちがあるのだろう。
彼は若い頃に年下の女優と結婚し、今はおしどり夫婦として知られている。
現在では大御所扱いされ、惹かれた作品には出演するが、あとは社長として精力的に働いている。
若い頃は人気があったため何かと話題になった人だが、今はすっかり落ち着いてダンディな俳優の代表格となっていた。
「その後、芸能部はどうですか?」
三井が佑に尋ねる。
「ええ、基盤はしっかりしてきたと思います。芸能部を本社に置くか独立させるかで話し合っていますが、いずれM-techのように子会社化する事も予測して、独立させる方向で考えています。アパレル会社が芸能部を持つ……というのも変な話かもしれませんが、自社の服を一番良く見せる、信頼できるモデルを確保する意味では、不思議な話でもないと思っています。同時に、スカウトするモデルやタレントも見定めています」
佑は三井と、芸能部の社外顧問になってもらう契約をした。
今年の後半から三井と顔を合わせて会議する事も多く、香澄はChief Everyの新たな発展を前にワクワクしていた。
「その時は、うちの事務所から移籍したいっていう子が出るんでしょうかねぇ……」
ぼやくように言った三井の言葉に、佑は笑う。
「こちらとしても、優秀な人材は欲しいです。ですが最初は少数精鋭でやっていきたいと思っているので、基準は厳しめにする予定です」
「確かに社長が御劔さんというだけで、応募したがる人はいるでしょうね。専属モデルを得たとして、Chief Everyの今後の展開に変化はありますか?」
その質問に、佑は唇の前に人差し指を立て魅力的に微笑んでみせた。
「……でしょうね。いやぁ、正直最初に会った時は顔がいいもんだから、顔で食べていくタイプの経営者かと思っていました。ですがここまで会社を大きくした実力は本物ですね。私は御劔さんが次に何をしても、きっと驚かないと思います。あなたなら多角経営をしても成功するタイプの人だと思うので。その時はうちを贔屓にしてもらって広告してもらえたら……と思っていましたが、……あー、芸能部作っちゃうんですよねぇ……」
三井は最後に「あはは」と笑い、お茶を飲む。
「そう仰いますが、うちが芸能部を作ったとしても新参者です。老舗の芸能事務所には敵いません。芸能業界は育ててくれた会社への恩を大切にするでしょうし、三井さんに恩義を感じている方は残ると思いますよ」
「そう願いましょう。ところで、赤松さんは御劔さんの婚約者ですよね?」
「はい。彼女が何か?」
食後の柚子シャーベットを食べていた香澄は、二人の会話を聞いて背筋を伸ばす。
「以前に御劔さんが『ミューズを得た』と仰ったのを聞いてから、興味を持っていたんです。改めてスタイルのいい女性ですね。あと、透明感があるのにそれとなく妖艶さもあります」
「彼女は私の秘書ですから、三井さんのところにはやりませんよ?」
佑は意地悪に笑う。
「スカウトしよう……とは半分しか思っていません。お伝えしたかったのは、彼女を起用すれば、御劔さんは思い描く世界をもっとストレートに伝えられるのでは……? という事です」
(ないないない。芸能人になんてなりません)
香澄は内心でプルプルと首を横に振る。
「あり得ません。彼女は確かに魅力的ですが、私個人のミューズです。大切な宝物を、大勢の前に晒そうなんて思いません。彼女を魅力的だと思う人を、これ以上増やしたくないという、狭量な男のエゴでもあります」
他人の前で壮大な愛の告白をされ、香澄は真っ赤になった。
(嬉しい……。けど、恥ずかしい……!)
三井は香澄と佑を見比べ、魅力的に笑ったあと腕時計を見た。
「おやおや、ご馳走様です。それではそろそろ時間ですね。どうぞ年の瀬をゆっくりお過ごしください。私は年末年始の番組もありますから、マネージャーたちの報告に耳を傾けなければ……ですが」
「ありがとうございます。三井さんも良いお年を」
食後のコーヒーもなくなり、会食は終わろうとしていた。
三井は俳優をしている、顔立ちの整った五十代の男性だ。
演技をする事も勿論好きだが、キャリアを積むにつれ、業界で俳優やタレント、モデルたちがのびのび活動できる場を整えたいと思う気持ちが強くなったそうだ。
俳優としてやはり業界のあり方や、後輩の将来を案じる気持ちがあるのだろう。
彼は若い頃に年下の女優と結婚し、今はおしどり夫婦として知られている。
現在では大御所扱いされ、惹かれた作品には出演するが、あとは社長として精力的に働いている。
若い頃は人気があったため何かと話題になった人だが、今はすっかり落ち着いてダンディな俳優の代表格となっていた。
「その後、芸能部はどうですか?」
三井が佑に尋ねる。
「ええ、基盤はしっかりしてきたと思います。芸能部を本社に置くか独立させるかで話し合っていますが、いずれM-techのように子会社化する事も予測して、独立させる方向で考えています。アパレル会社が芸能部を持つ……というのも変な話かもしれませんが、自社の服を一番良く見せる、信頼できるモデルを確保する意味では、不思議な話でもないと思っています。同時に、スカウトするモデルやタレントも見定めています」
佑は三井と、芸能部の社外顧問になってもらう契約をした。
今年の後半から三井と顔を合わせて会議する事も多く、香澄はChief Everyの新たな発展を前にワクワクしていた。
「その時は、うちの事務所から移籍したいっていう子が出るんでしょうかねぇ……」
ぼやくように言った三井の言葉に、佑は笑う。
「こちらとしても、優秀な人材は欲しいです。ですが最初は少数精鋭でやっていきたいと思っているので、基準は厳しめにする予定です」
「確かに社長が御劔さんというだけで、応募したがる人はいるでしょうね。専属モデルを得たとして、Chief Everyの今後の展開に変化はありますか?」
その質問に、佑は唇の前に人差し指を立て魅力的に微笑んでみせた。
「……でしょうね。いやぁ、正直最初に会った時は顔がいいもんだから、顔で食べていくタイプの経営者かと思っていました。ですがここまで会社を大きくした実力は本物ですね。私は御劔さんが次に何をしても、きっと驚かないと思います。あなたなら多角経営をしても成功するタイプの人だと思うので。その時はうちを贔屓にしてもらって広告してもらえたら……と思っていましたが、……あー、芸能部作っちゃうんですよねぇ……」
三井は最後に「あはは」と笑い、お茶を飲む。
「そう仰いますが、うちが芸能部を作ったとしても新参者です。老舗の芸能事務所には敵いません。芸能業界は育ててくれた会社への恩を大切にするでしょうし、三井さんに恩義を感じている方は残ると思いますよ」
「そう願いましょう。ところで、赤松さんは御劔さんの婚約者ですよね?」
「はい。彼女が何か?」
食後の柚子シャーベットを食べていた香澄は、二人の会話を聞いて背筋を伸ばす。
「以前に御劔さんが『ミューズを得た』と仰ったのを聞いてから、興味を持っていたんです。改めてスタイルのいい女性ですね。あと、透明感があるのにそれとなく妖艶さもあります」
「彼女は私の秘書ですから、三井さんのところにはやりませんよ?」
佑は意地悪に笑う。
「スカウトしよう……とは半分しか思っていません。お伝えしたかったのは、彼女を起用すれば、御劔さんは思い描く世界をもっとストレートに伝えられるのでは……? という事です」
(ないないない。芸能人になんてなりません)
香澄は内心でプルプルと首を横に振る。
「あり得ません。彼女は確かに魅力的ですが、私個人のミューズです。大切な宝物を、大勢の前に晒そうなんて思いません。彼女を魅力的だと思う人を、これ以上増やしたくないという、狭量な男のエゴでもあります」
他人の前で壮大な愛の告白をされ、香澄は真っ赤になった。
(嬉しい……。けど、恥ずかしい……!)
三井は香澄と佑を見比べ、魅力的に笑ったあと腕時計を見た。
「おやおや、ご馳走様です。それではそろそろ時間ですね。どうぞ年の瀬をゆっくりお過ごしください。私は年末年始の番組もありますから、マネージャーたちの報告に耳を傾けなければ……ですが」
「ありがとうございます。三井さんも良いお年を」
食後のコーヒーもなくなり、会食は終わろうとしていた。
11
お気に入りに追加
2,541
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!
臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。
やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。
他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。
(他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる