上 下
1,073 / 1,549
第十七部・クリスマスパーティー 編

思いがけない来客

しおりを挟む
「社長も生島さんには感謝していると言っていました。……って、私から言うのも変な話なんですが」

「そうですか? なら良かったです。ホント、赤松さんはもうちょっと気を付けたほうがいいですよ。さすがにオフィス内なら大丈夫かもしれませんが、自社ビルとは言えどんな人が入ってくるか分かりませんから。ま、次の正月イベントは社長の側にいるか、オフィスで大人しくしてる事ですね」

「はい。気を付けます」

 ペコリと頭を下げた香澄を見て、生島は松井と河野に視線を向けて二人にも会釈をする。

「じゃ、そろそろ戻ります」

「はい。ありがとうございました」

 生島を見送ってから室内に戻り、「生島さんっていい人ですね」と思わず表情が緩む。

「彼は営業のエースらしいですが、やはり気が利くんでしょうね。個人的に話をしてもユーモアのある人だと思いますし、学生時代もきっと人気者だったと思います」

「ん? 河野さん、生島さんに憧れてますか?」

「いえ、私は自分を陰キャだと自覚していますから。陽キャに憧れても光を浴びすぎて消滅します」

 よく分からない表現に、香澄は思わず笑う。

「そんな陰キャの私は、これからクリスマスライブ二日目を満喫して参ります。それでは、お先に失礼致します」

 いつのまにコートを着てマフラーを巻いた河野は、ピッタリ三十度のお辞儀をしてから社長秘書室を出ていった。

「好きな事があるっていいですね」

「そうですねぇ」

 松井とほのぼのと言ったあと、家で双子がぶーぶー言いながら待っていると思いだし、笑みを零す。

「私も家にお客様がいるので、そろそろ帰宅します」

「はい。お疲れ様です。私は昨日、妻とディナーを楽しんで少し胃が重いので、今日は妻が作ってくれた胃に優しい食べ物です」

「ふふ、素敵ですね」

 香澄はパソコンの電源を落としてデスク周りを整頓したあと、隣室でコートとマフラーを身につけ、「お先に失礼致します」と頭を下げた。

 コンコンと社長室のドアをノックすると、「どうぞ」と返事があった。
 香澄は「失礼致します」と言ってドアを開ける。

「あっ……」

 だが社長室には来客があり、香澄は慌ててマフラーを外そうとした。
 M-techの社長、真澄がいたのだ。

「あぁ、香澄ちゃんいらっしゃい。入っていいよ」

 気軽に話し掛けられ、香澄はおずおずと「いいんですか?」と尋ねる。

「赤松さん、仕事の話はもう終わったから、中に入って待っていていいよ」

 ソファに座っていた佑にも言われ、香澄は「失礼致します」と再度頭を下げてから、マフラーを外す。

「いやいや、香澄ちゃん。本当に俺の用事は終わったから、マフラー取らなくていいよ」

 お洒落髭をたくわえた真澄は快活に笑い、香澄に遠慮するなと手で制する。

「Chief Everyのアプリのアップデートが終わって、次に増やしたら良さそうなメニューとかを話し合っていたんだ。そのあと普通にクリスマスの事とか話してた。本格的な話し合いならちゃんとした場で話してるし、ホント気にしないで」

「はい」

 テーブルの上を見るとお茶も出ておらず、香澄は「一言声を掛けてくれたら、すぐにお茶を出したのに……」と申し訳なくなる。
 香澄の視線を見て察したのか、真澄が笑う。

「いや、お茶とかは俺が『いらない』って言ったからいいんだ。じゃあ佑、そろそろお暇する。あと二日だな。お疲れさん」

 佑と真澄は立ち上がってトントンとお互い拳をぶつけ合い、真澄は「じゃあ」と足取り軽く社長室を出ていく。

「……社長。本当に一言くだされば」

「彼はもう仕事を切り上げたあとだし、これで良かったんだよ。さて、帰る支度をするから少し待っていてくれ」

 佑はデスクに戻ってメールがないか確認し、パソコンをシャットダウンするとコートフックから黒いチェスターコートとえんじ色のマフラーを外し、身につける。

「秘書室は?」

「河野さんは先に上がりました。松井さんはまだ残っていますが、いつものように施錠確認をして帰宅されると思います」

「分かった」

 佑はもう一度室内を確認したあと、「行こうか」と一緒に社長室を出る。

 Chief Everyのオフィスはスマートロック化されていて、オートロックになったドアを、権限を持たせたICカードで開閉する事になっている。
 佑はマスターキーを保有し、社長秘書は一般社員と同じ権限に加え、社長室のドアを開ける権限も持っている。

 社員食堂やジムなどの共有スペースは、そこで勤める者が朝に大元になるカードキーで開く仕組みだ。
しおりを挟む
感想 556

あなたにおすすめの小説

『逃れられない淫らな三角関係』番外編 ヘルプラインを活用せよ!

臣桜
恋愛
『逃れられない淫らな三角関係』の番外編です。 やりとりのある特定の読者さまに向けた番外編(小冊子)です。 他にも色々あるのですが、差し障りのなさそうなものなので公開します。 (他の番外編は、リアルブランド名とかを出してしまっている配慮していないものなので、ここに載せるかは検討中)

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...