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第十七部・クリスマスパーティー 編

彼の腕の中にいれば何も怖い事はない

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「俺たちは二十二時くらいには部屋に戻る。明日も会社だし、ゆっくりしたいから」

「ん、分かった」

「酒は好きに飲んでいいが、飲み過ぎたり騒いで物を壊すのだけはやめてくれ。上で俺たちが個人の時間を過ごしているのを忘れないこと」

「りょ!」

「違うってアロ、り! だって」

 双子はどこかから仕入れてきた日本の若者言葉を楽しそうに使い、香澄はほろ酔いのまま生ぬるい笑みを浮かべた。





 それから二十二時まで談笑して二階に上がり、メイクを落として風呂に入ってから眠る事にした。

「香澄、おいで」

 歯磨きをしていると、風呂を終えた佑が顔を覗かせて手招きをする。

「ん?」

 シャコシャコと歯磨きをしつつ首を捻ると、佑が微笑んだ。

「終わったら俺の寝室においで。一緒に寝よう」

「…………ん……」

 ジワッと顔が熱くなったのは、ワインのせいだけではない。

 香澄は歯磨きを終え、鏡で顔や髪などをチェックし、どうしても頬の赤みが取れないのに溜め息をついてから佑の寝室に向かった。





 寝室に入ると、佑は枕元の明かりで本を読んでいた。

「お邪魔します」

 羽根布団をめくりモソモソとベッドに入ると、佑の温もりが気持ちいい。

「何読んでるの?」

「今年賞を取った作家の本。読んでおかないとと思って」

「私も積み本あるなぁ。小説は紙の本で買うんだけど、つい電子書籍の漫画ばっかり読んじゃって」

 香澄は布団の中で伸びをし、片脚を佑の脚に絡める。

 枕に頭を置くと、アルコールも手伝って目蓋がトロトロと落ちてしまう。
 おまけに酔っ払っているからか、気持ちまでフニャフニャしている。

「佑さん……。ちょっとだけ。頭撫でて」

「ん、分かったよ」

 佑は本を閉じてベッドサイドに置くと、照明を消す。
 そして香澄を優しく抱き締め、背中を撫でてくれる。

「今日も一日お疲れ様。怖い事は忘れてゆっくりおやすみ」

 犯人が捕まったと聞いたあとも、何となく背後を気にしてゾワゾワしていた。
 けれど佑の腕の中にいれば何も怖い事はない。

 額へのキスとぬくもり、そしてポン、ポンと一定のリズムで背中を撫でられて、香澄はあっという間に眠ってしまった。



**



 睡眠管理アプリのアラームが鳴り、香澄は穏やかなメロディーを耳にして目覚める。

 ぼんやりと目を開いて天井を見て、枕元にあるスマホを手に取って操作し始めた。

 グラフでレム睡眠とノンレム睡眠のパターンを見て、いびきがなかったのを確認してホッとする。
 時々寝言は言っているようなのだが、佑と一緒に寝ていていびきをかくのは流石に恥ずかしい。

「おはよ」

 すでに起きている佑が声を掛けてくる。
 彼はタブレットで世界のニュースや株価を見ているようだった。

「……おはよ。……それいつも見てるね」

「んー、証券取引所は世界中にあるからな。日本のは普通に九時からだけど、この時間ならニュージーランドとか」

「ニュージーランド……にも株の取引所があるの?」

「あるよ。興味があるなら米国の積立からやってみる?」

「い、いやいや。やらない」

 ブンブンと首を横に振り、香澄は少しだけ佑から離れる。

「もし興味を持ったらいつでも言ってくれ。香澄が資産運用したいと言うなら、優しく教えるから」

「いいの」

 佑はただでさえ忙しい人なのに、これ以上自分に時間を割くような事があってはいけない。

「んっ……」

 香澄はもう一度伸びをしたあと、枕元に置いてあった水を飲む。

「さて、いろいろ支度してきます」

 洗面所で用事を済ませたあと、時間が掛かるので最初にメイクをする。
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