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第十七部・クリスマスパーティー 編
食の申し子
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「海鮮ならスペイン、ポルトガルがんまいでしょ? それからやっぱりイタリア、フランス、マルタ、ギリシャとか地中海に面した所は強いね。新鮮なオリーブオイルをふんだんに使うから、ヘルシーだしね」
「ああ……。美味しそうです」
今ご馳走を食べているのに、話を聞いただけで涎が出てくる。
「マルタの名物は、うさぎの煮込みだけどね」
ニヤニヤと笑ったクラウスがウインクしながら言う。
香澄はスペインに行った時も、伝統的なパエリアはウサギ肉だと言われたのを思い出した。
「お二人はよくヨーロッパ内に出掛けているんですか?」
「そーだね。タスクが日本国内の自社店舗を見に行くみたいに、ヨーロッパ内だったら気軽に様子を見に行くよ。何ならちょっとしたゲリライベントもやるし」
(お二人ならサプライズが好きだろうなぁ)
そう思っていた時、佑が取り皿を渡してきた。
「はい、香澄。チキン」
「ありがとう、佑さん」
彼はついでにローストビーフやペンネアラビアータなど、香澄が好きそうな物もよそってくれる。
「ありがとう」
「好きなだけ食べろよ。香澄が美味しそうにしている顔が好きだから」
「ん、んんっ」
蕩けそうな甘い微笑みで甘やかされ、香澄はにやけそうになるのを咳払いで誤魔化す。
後にも先にも、食べる事でこんなに褒めてくれるのは、佑だけだろう。
「カスミ! タラバ食いなよ!」
すると対抗したのかアロイスがタラバの脚をドンッと香澄の取り皿に載せ、クラウスが「エビも!」と言って大きな伊勢海老をドンッと置こうとする。
「ちょ、ちょ、待ってくださ……っ、のらない……っ、溢れちゃう……っ」
はっとしてマティアスを見ると、彼はカットレモンを片手に手を伸ばしていたところだ。
(なぜレモン……)
香澄は心の中で突っ込み、マティアスに向かって無言で首を横に振る。
通じたのか、彼は一つ頷いて静かに着席してくれた。
佑は「何をやっているんだ」という顔をしていたが、香澄の隣に座って自分も食事を始める。
ダイニングテーブル向かい合わせに十人、両端に二人座れる大きさで、佑は香澄の隣に座っている。双子はその向かいに座り、マティアスが上座についていた。
「待っててくださいね。順番に食べますから」
「ヒュ~! その『全部食ってやる』っていう感じカッコイイ!」
「ちょ……っ、やめてくださいよ。その、食の申し子みたいな言い方……」
仮にも女性なのに、と顔を赤らめるとマティアスまで参戦してくる。
「カスミは細いから、もっとしっかりした体つきになったほうがいい」
「いや、そういう問題じゃなくてですね……」
香澄はテリーヌを食べつつ、助けを求めて隣を見る。
「香澄の食いしん坊を弄っていいのは、俺だけなんだから、そろそろいい加減にしろよ」
「っもう! 佑さんまで!」
呆れて突っ込んだ香澄を見て、全員が笑った。
クリスマスケーキを食べ、五人はリビングでまったりとする。
斎藤たちは後片付けをして、残った食べ物を保存容器に入れて冷蔵庫に収めた。
(本当に贅沢。毎日こんなんだったら、お母さんももっと楽できるんだろうな)
思わず母の事を考え、もし自分が母親になった時は……と思うと、こんなに楽でいいのだろうか? と悩んでしまう。
「どうした?」
佑は双子、マティアスと一緒にワインをカパカパと空けていたが、指先でちょいちょいと香澄の顎の下をくすぐってくる。
「ん……。プロが自宅でご馳走を作ってくれて、私は何にもしなくて……。こんなのっていいのかな? って贅沢さを噛みしめていたところ」
「いーんじゃない? 僕らのムッティも基本的に家政婦を頼ってるよ。オーマは今は食事を作る相手がオーパぐらいだから、楽しんで日本食を作ってるみたいだけど」
「そうなんですか?」
きょと、と目を瞬かせると、アロイスが言い含めてくる。
「ああ……。美味しそうです」
今ご馳走を食べているのに、話を聞いただけで涎が出てくる。
「マルタの名物は、うさぎの煮込みだけどね」
ニヤニヤと笑ったクラウスがウインクしながら言う。
香澄はスペインに行った時も、伝統的なパエリアはウサギ肉だと言われたのを思い出した。
「お二人はよくヨーロッパ内に出掛けているんですか?」
「そーだね。タスクが日本国内の自社店舗を見に行くみたいに、ヨーロッパ内だったら気軽に様子を見に行くよ。何ならちょっとしたゲリライベントもやるし」
(お二人ならサプライズが好きだろうなぁ)
そう思っていた時、佑が取り皿を渡してきた。
「はい、香澄。チキン」
「ありがとう、佑さん」
彼はついでにローストビーフやペンネアラビアータなど、香澄が好きそうな物もよそってくれる。
「ありがとう」
「好きなだけ食べろよ。香澄が美味しそうにしている顔が好きだから」
「ん、んんっ」
蕩けそうな甘い微笑みで甘やかされ、香澄はにやけそうになるのを咳払いで誤魔化す。
後にも先にも、食べる事でこんなに褒めてくれるのは、佑だけだろう。
「カスミ! タラバ食いなよ!」
すると対抗したのかアロイスがタラバの脚をドンッと香澄の取り皿に載せ、クラウスが「エビも!」と言って大きな伊勢海老をドンッと置こうとする。
「ちょ、ちょ、待ってくださ……っ、のらない……っ、溢れちゃう……っ」
はっとしてマティアスを見ると、彼はカットレモンを片手に手を伸ばしていたところだ。
(なぜレモン……)
香澄は心の中で突っ込み、マティアスに向かって無言で首を横に振る。
通じたのか、彼は一つ頷いて静かに着席してくれた。
佑は「何をやっているんだ」という顔をしていたが、香澄の隣に座って自分も食事を始める。
ダイニングテーブル向かい合わせに十人、両端に二人座れる大きさで、佑は香澄の隣に座っている。双子はその向かいに座り、マティアスが上座についていた。
「待っててくださいね。順番に食べますから」
「ヒュ~! その『全部食ってやる』っていう感じカッコイイ!」
「ちょ……っ、やめてくださいよ。その、食の申し子みたいな言い方……」
仮にも女性なのに、と顔を赤らめるとマティアスまで参戦してくる。
「カスミは細いから、もっとしっかりした体つきになったほうがいい」
「いや、そういう問題じゃなくてですね……」
香澄はテリーヌを食べつつ、助けを求めて隣を見る。
「香澄の食いしん坊を弄っていいのは、俺だけなんだから、そろそろいい加減にしろよ」
「っもう! 佑さんまで!」
呆れて突っ込んだ香澄を見て、全員が笑った。
クリスマスケーキを食べ、五人はリビングでまったりとする。
斎藤たちは後片付けをして、残った食べ物を保存容器に入れて冷蔵庫に収めた。
(本当に贅沢。毎日こんなんだったら、お母さんももっと楽できるんだろうな)
思わず母の事を考え、もし自分が母親になった時は……と思うと、こんなに楽でいいのだろうか? と悩んでしまう。
「どうした?」
佑は双子、マティアスと一緒にワインをカパカパと空けていたが、指先でちょいちょいと香澄の顎の下をくすぐってくる。
「ん……。プロが自宅でご馳走を作ってくれて、私は何にもしなくて……。こんなのっていいのかな? って贅沢さを噛みしめていたところ」
「いーんじゃない? 僕らのムッティも基本的に家政婦を頼ってるよ。オーマは今は食事を作る相手がオーパぐらいだから、楽しんで日本食を作ってるみたいだけど」
「そうなんですか?」
きょと、と目を瞬かせると、アロイスが言い含めてくる。
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