上 下
1,062 / 1,544
第十七部・クリスマスパーティー 編

クリスマスの妖精

しおりを挟む
「いやぁ、女の子のこのルーズっぽい髪っていいよねぇ。隙のあるうなじってかぶりつきたくなる」

「ふぁっ!」

 そう言ったクラウスにうなじをくすぐられ、香澄は肩を跳ねさせてくすぐったがる。

「クラウス、Warte待て

 いきなりマティアスがドイツ語の犬用コマンドを出し、クラウスが「だーかーらー!」と彼を振り向く。

「タスクもだけどさ、僕らに犬用コマンド使うのやめてよねー」

 嫌がりつつも、その顔は笑っているので彼の本音が分からない。

 その間、アロイスは香澄の目蓋にアイプライマーを塗りハイライトとコンシーラーで目元のくすみを飛ばしてから、パウダーで押さえる。

「下地のあとにパウダーしておくと、マスカラが落ちにくいよ」

 そしてビューラーで睫毛を上げ、「クリスマス用」と赤みがかったブラウンやゴールドのアイシャドウでグラデーションを作っていく。

「このグリッター可愛いし使おうか」

 そう言って偏光パールのグリッターを、目蓋の中央と下目蓋にトントンとつけていく。

「ん、可愛いね。クリスマスの妖精みたいだ」

 アロイスは素のまま口説く様子もなく呟き、香澄のメイクを続ける。

「マスカラつけるから、ちょっと半眼気味になって」

「はい」

 言われたとおり伏し目になると、アロイスはマスカラ下地を付けた後に、ボルドーのカラーマスカラをつけ、仕上げに金色のラメマスカラを睫毛に絡める。

 それからノーズシャドウ、アイブロウで眉毛を描いたあと、やはりボルドーのアイブロウマスカラで眉毛を赤っぽく仕上げていく。

「さて、仕上げにリップを美味しそうな色にしよっか。俺好みのグラデリップにするよ」

「グラデ……ーションリップ?」

 きょとんとする香澄の目の前でリップやリップティントの色を確認しつつ、アロイスが返事をする。

「そ。仕組みは簡単なワケ。コンシーラーでさっき輪郭消したでしょ? 薄い色のティントを全体に塗って、あとから同系色かつ色の濃いのを中心にポンポン置くんだ。で、指とか筆でぼかしたら終わり。クラ、何系統がいいと思う?」

 香澄に答え、アロイスは弟に意見を尋ねる。

「んー、目元とかにボルドー使ったから、薄めの色のがいいんでない? 僕は個人的にチェリーレッドみたいな美味しそうな色が好きだけど。今使うにはちょっと濃いかな?」

「あー、俺もその色味好き。強い女の場合、ダークカラーのリップも似合ってて好きだけど。ヌードカラーのナチュラル感もいいよね。まー、今のカスミの場合、可愛い系だよね。透明感重視……と」

 言いながら、アロイスは沢山リップの入った引き出しを確認する。

「この仕上がり見たら、タスク怒るぞ。たっのしみ」

 くくく、と笑っている双子を見ていると、何とも言えない気持ちになる。

「お二人とも、佑さんに怒られるの好きなんですか?」

 そう言った途端、双子がバッと香澄を見て物凄い顔をした。

「まさか! そんな趣味ないよ!」

「そうそう! 嫌がらせをするのが楽しいだけでさ!」

(まったくもう……)

 呆れている香澄の目の前でリップカラーが決まったらしく、アロイスが香澄に指示を出してくる。

「カスミ、ちょっと唇を半開きにしてみて。そうそう」

 言われた通り少し唇を開くと、リップブラシを使ってアロイスが先にリッププランパーを塗り、「んってして」とティッシュオフさせてくる。

 それから、リップティントを唇に重ねてきた。

 塗られるまま鏡を見ていると、リップカラーはプルンとしたピンクだ。

「リップティントとかグロス、オイルとか、チップタイプになっていると直接唇につけがちだけど、唾液がついて雑菌沸きやすくなるから、なるべくリップブラシを使うといいよ」

 言われて香澄はギクッとする。

 確かにそのまま使っている美容オイルは、チップの部分が少し匂うような気がして気になっていたのだ。

「化粧品も消費期限があるからねー。まぁ、こんだけ取りそろえておきながら、全部数か月以内に使うとか無理ゲーだけど。コスメって見た目変わんないように思えるけど、皮脂のついたブラシとかつけてると、そっから雑菌広がってくからね。ブラシもマメに洗わないと」

 メイクブラシは専用のクリーナーで定期的に洗っているので、一応そこはクリアだと香澄は思った。
 だが今は口を開いていて、クラウスに何か返事ができる状況ではない。

「カスミ、唇閉じないでね」

 リップティントを塗り終えたアロイスは、唇の内側に塗るワントーン濃い色のリップを取りだし、ティッシュで軽く拭いたリップブラシで塗ってくる。

(はずかし……)

 すぐ目の前にイケメンがいて、唇を見られているのは非常に恥ずかしい。

 一生懸命呼吸を抑えているものの、アロイスとは言えイケメンの手に自分の吐息や鼻息がかかっていると思うと、恥ずかしくてのたうち回りたくなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

なりゆきで、君の体を調教中

星野しずく
恋愛
教師を目指す真が、ひょんなことからメイド喫茶で働く現役女子高生の優菜の特異体質を治す羽目に。毎夜行われるマッサージに悶える優菜と、自分の理性と戦う真面目な真の葛藤の日々が続く。やがて二人の心境には、徐々に変化が訪れ…。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...