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第十七部・クリスマスパーティー 編

クリスマスの妖精

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「いやぁ、女の子のこのルーズっぽい髪っていいよねぇ。隙のあるうなじってかぶりつきたくなる」

「ふぁっ!」

 そう言ったクラウスにうなじをくすぐられ、香澄は肩を跳ねさせてくすぐったがる。

「クラウス、Warte待て

 いきなりマティアスがドイツ語の犬用コマンドを出し、クラウスが「だーかーらー!」と彼を振り向く。

「タスクもだけどさ、僕らに犬用コマンド使うのやめてよねー」

 嫌がりつつも、その顔は笑っているので彼の本音が分からない。

 その間、アロイスは香澄の目蓋にアイプライマーを塗りハイライトとコンシーラーで目元のくすみを飛ばしてから、パウダーで押さえる。

「下地のあとにパウダーしておくと、マスカラが落ちにくいよ」

 そしてビューラーで睫毛を上げ、「クリスマス用」と赤みがかったブラウンやゴールドのアイシャドウでグラデーションを作っていく。

「このグリッター可愛いし使おうか」

 そう言って偏光パールのグリッターを、目蓋の中央と下目蓋にトントンとつけていく。

「ん、可愛いね。クリスマスの妖精みたいだ」

 アロイスは素のまま口説く様子もなく呟き、香澄のメイクを続ける。

「マスカラつけるから、ちょっと半眼気味になって」

「はい」

 言われたとおり伏し目になると、アロイスはマスカラ下地を付けた後に、ボルドーのカラーマスカラをつけ、仕上げに金色のラメマスカラを睫毛に絡める。

 それからノーズシャドウ、アイブロウで眉毛を描いたあと、やはりボルドーのアイブロウマスカラで眉毛を赤っぽく仕上げていく。

「さて、仕上げにリップを美味しそうな色にしよっか。俺好みのグラデリップにするよ」

「グラデ……ーションリップ?」

 きょとんとする香澄の目の前でリップやリップティントの色を確認しつつ、アロイスが返事をする。

「そ。仕組みは簡単なワケ。コンシーラーでさっき輪郭消したでしょ? 薄い色のティントを全体に塗って、あとから同系色かつ色の濃いのを中心にポンポン置くんだ。で、指とか筆でぼかしたら終わり。クラ、何系統がいいと思う?」

 香澄に答え、アロイスは弟に意見を尋ねる。

「んー、目元とかにボルドー使ったから、薄めの色のがいいんでない? 僕は個人的にチェリーレッドみたいな美味しそうな色が好きだけど。今使うにはちょっと濃いかな?」

「あー、俺もその色味好き。強い女の場合、ダークカラーのリップも似合ってて好きだけど。ヌードカラーのナチュラル感もいいよね。まー、今のカスミの場合、可愛い系だよね。透明感重視……と」

 言いながら、アロイスは沢山リップの入った引き出しを確認する。

「この仕上がり見たら、タスク怒るぞ。たっのしみ」

 くくく、と笑っている双子を見ていると、何とも言えない気持ちになる。

「お二人とも、佑さんに怒られるの好きなんですか?」

 そう言った途端、双子がバッと香澄を見て物凄い顔をした。

「まさか! そんな趣味ないよ!」

「そうそう! 嫌がらせをするのが楽しいだけでさ!」

(まったくもう……)

 呆れている香澄の目の前でリップカラーが決まったらしく、アロイスが香澄に指示を出してくる。

「カスミ、ちょっと唇を半開きにしてみて。そうそう」

 言われた通り少し唇を開くと、リップブラシを使ってアロイスが先にリッププランパーを塗り、「んってして」とティッシュオフさせてくる。

 それから、リップティントを唇に重ねてきた。

 塗られるまま鏡を見ていると、リップカラーはプルンとしたピンクだ。

「リップティントとかグロス、オイルとか、チップタイプになっていると直接唇につけがちだけど、唾液がついて雑菌沸きやすくなるから、なるべくリップブラシを使うといいよ」

 言われて香澄はギクッとする。

 確かにそのまま使っている美容オイルは、チップの部分が少し匂うような気がして気になっていたのだ。

「化粧品も消費期限があるからねー。まぁ、こんだけ取りそろえておきながら、全部数か月以内に使うとか無理ゲーだけど。コスメって見た目変わんないように思えるけど、皮脂のついたブラシとかつけてると、そっから雑菌広がってくからね。ブラシもマメに洗わないと」

 メイクブラシは専用のクリーナーで定期的に洗っているので、一応そこはクリアだと香澄は思った。
 だが今は口を開いていて、クラウスに何か返事ができる状況ではない。

「カスミ、唇閉じないでね」

 リップティントを塗り終えたアロイスは、唇の内側に塗るワントーン濃い色のリップを取りだし、ティッシュで軽く拭いたリップブラシで塗ってくる。

(はずかし……)

 すぐ目の前にイケメンがいて、唇を見られているのは非常に恥ずかしい。

 一生懸命呼吸を抑えているものの、アロイスとは言えイケメンの手に自分の吐息や鼻息がかかっていると思うと、恥ずかしくてのたうち回りたくなる。
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