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第十六部・クリスマス 編
第十六部・終章 ランチ食べた?
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「じゃあ、傷口を見ますね」
「はい」
香澄はうつ伏せになったまま、医師が肘の下を診やすいように、腕をぴったりと体につけた。
「もうちょっとリラックスしていいですからね」
「あ、は……はい……」
けれど少し笑い混じりに言われ、慌てて体から力を抜く。
「今日は診断書を書くという目的でいいでしょうか?」
「はい。どうも……その。人に切られてしまったようなので、社長が起訴すると言って……その。……お願いします」
起訴するとか被害届を出すとか、気が引けてしまう。
それでも大人として、社会人として、こういう時に泣き寝入りをするのはいけないと理解しているつもりだ。
「分かりました。作成までに少し時間がかかりますから、ご自宅に郵送か、取りに来て頂く事になりますが、どちらがいいですか?」
「じゃあ郵送でお願いします」
「分かりました。後日、郵送の切手代のお支払いをお願いします」
その後、診察は十分も経たずに終わり、香澄は「ありがとうございました」と言って診察室を出た。
「赤松さん、クラウザー様は一階の総合会計前にいらっしゃるようです」
「分かりました」
(目立つだろうなぁ……)
香澄はコートを着て「失礼しました」と特別診察室を出る。
エスカレーターで階下に下りながら総合会計の椅子を見下ろし、目立つ金髪二人組がいるか目を懲らす。
「あ、いた」
三人は椅子に座っておらず、立っていた。
加えて、患者とおぼしき老婦人と話し込み、楽しそうだ。
香澄は一階に下りたあと、ファイルを会計に出して三人のほうへ向かった。
「すみません、来て頂いて」
「あー、カスミ。終わったの? この子サチコちゃんだって。キャンディくれたよ」
クラウスが老婦人の事を「サチコちゃん」と言い、飴の包み紙をヒラヒラさせる。
「あら~、あなたがカスミさん? さすがイケメンをはべらせる可愛子ちゃんねぇ。はい、飴ちゃん」
サチコ――老婦人は香澄にも飴をくれ、久住と佐野にも「はい」と手渡す。
「ありがとうございます」
香澄は礼を言い、ぱくんと飴を口に入れた。
「じゃあ、待ち人も来たし私はそろそろ。お嬢さんもお大事にね」
「はい」
幸子は会釈をしてゆっくり出入り口に向かい、香澄は会釈をしつつ口の中でコロコロと飴を転がす。
「何を話してたんですか?」
「んー? 別に? 『カッコイイわね』とか『背が高いわね』とか、そういう話」
「なるほど」
「カスミはランチ食べた? イベントって十二時までだったろ?」
「あ、まだなんです」
言われて、「そう言えばお腹が空いたな……」と急に空腹を覚える。
「じゃあさ、僕たちと一緒にランチ食べてから帰ろうか。和食、洋食、中華、イタリアン、アジアン、なんでも付き合うよ」
「はい、ありがとうございます」
「カスミは何が食べたい?」
「えーと……。夜は多分お肉がメインなので……。軽めがいいですね。高級なお料理は特にいいので、お蕎麦とかうどんでサラッと」
「え~? マジで?」
とたんに双子がやる気のない顔になり、香澄は笑う。
「もう。お二人とも、お金をかければいいってもんじゃないんですよ。麺類はめっちゃ奥が深いので、お二人とも蕎麦・うどん道に嵌まればいいですよ」
「マジ? 奥深いの?」
「ですよ。お蕎麦なら蕎麦粉の産地や打ち方とか、詳しくは分かりませんけど、十割とか色々あって、通がいるんですから。うどんだって本場に行ったら、きっとぶっとんじゃうほど美味しいうどんがあると思います」
人に「嵌まればいい」と言っておきながら、香澄は本場のうどんを食べた事がない。
そのくせ偉そうに言うので、双子が笑いだした。
「OK。じゃあ、この辺から帰り道にあるソバかウドン、店を探しておこっか」
「はい」
「ハイヤー捕まえておくけど、マティアスはクズミたちともう一台に乗ってね。僕ら、カスミをサンドイッチして乗りたいから」
「承知した」
車内で双子にからかわれる事を想像し、香澄は「あああ……」と頭を抱えた。
そのあと病院の会計を終え、近くにある蕎麦屋に行った。
和風の建物は雰囲気があり、坪庭を囲むように席があって趣がある。
夜は居酒屋になっているようで、日本酒やアテになるメニューも書かれてあった。
お腹が空いていたので、香澄は親子丼と蕎麦のセットにした。
久住と佐野も双子にご馳走になり、彼らの護衛と一緒に近くの席に座っていた。
満たされたあと、ハイヤーを店まで呼び、御劔邸に帰宅した。
第十三部・完
「はい」
香澄はうつ伏せになったまま、医師が肘の下を診やすいように、腕をぴったりと体につけた。
「もうちょっとリラックスしていいですからね」
「あ、は……はい……」
けれど少し笑い混じりに言われ、慌てて体から力を抜く。
「今日は診断書を書くという目的でいいでしょうか?」
「はい。どうも……その。人に切られてしまったようなので、社長が起訴すると言って……その。……お願いします」
起訴するとか被害届を出すとか、気が引けてしまう。
それでも大人として、社会人として、こういう時に泣き寝入りをするのはいけないと理解しているつもりだ。
「分かりました。作成までに少し時間がかかりますから、ご自宅に郵送か、取りに来て頂く事になりますが、どちらがいいですか?」
「じゃあ郵送でお願いします」
「分かりました。後日、郵送の切手代のお支払いをお願いします」
その後、診察は十分も経たずに終わり、香澄は「ありがとうございました」と言って診察室を出た。
「赤松さん、クラウザー様は一階の総合会計前にいらっしゃるようです」
「分かりました」
(目立つだろうなぁ……)
香澄はコートを着て「失礼しました」と特別診察室を出る。
エスカレーターで階下に下りながら総合会計の椅子を見下ろし、目立つ金髪二人組がいるか目を懲らす。
「あ、いた」
三人は椅子に座っておらず、立っていた。
加えて、患者とおぼしき老婦人と話し込み、楽しそうだ。
香澄は一階に下りたあと、ファイルを会計に出して三人のほうへ向かった。
「すみません、来て頂いて」
「あー、カスミ。終わったの? この子サチコちゃんだって。キャンディくれたよ」
クラウスが老婦人の事を「サチコちゃん」と言い、飴の包み紙をヒラヒラさせる。
「あら~、あなたがカスミさん? さすがイケメンをはべらせる可愛子ちゃんねぇ。はい、飴ちゃん」
サチコ――老婦人は香澄にも飴をくれ、久住と佐野にも「はい」と手渡す。
「ありがとうございます」
香澄は礼を言い、ぱくんと飴を口に入れた。
「じゃあ、待ち人も来たし私はそろそろ。お嬢さんもお大事にね」
「はい」
幸子は会釈をしてゆっくり出入り口に向かい、香澄は会釈をしつつ口の中でコロコロと飴を転がす。
「何を話してたんですか?」
「んー? 別に? 『カッコイイわね』とか『背が高いわね』とか、そういう話」
「なるほど」
「カスミはランチ食べた? イベントって十二時までだったろ?」
「あ、まだなんです」
言われて、「そう言えばお腹が空いたな……」と急に空腹を覚える。
「じゃあさ、僕たちと一緒にランチ食べてから帰ろうか。和食、洋食、中華、イタリアン、アジアン、なんでも付き合うよ」
「はい、ありがとうございます」
「カスミは何が食べたい?」
「えーと……。夜は多分お肉がメインなので……。軽めがいいですね。高級なお料理は特にいいので、お蕎麦とかうどんでサラッと」
「え~? マジで?」
とたんに双子がやる気のない顔になり、香澄は笑う。
「もう。お二人とも、お金をかければいいってもんじゃないんですよ。麺類はめっちゃ奥が深いので、お二人とも蕎麦・うどん道に嵌まればいいですよ」
「マジ? 奥深いの?」
「ですよ。お蕎麦なら蕎麦粉の産地や打ち方とか、詳しくは分かりませんけど、十割とか色々あって、通がいるんですから。うどんだって本場に行ったら、きっとぶっとんじゃうほど美味しいうどんがあると思います」
人に「嵌まればいい」と言っておきながら、香澄は本場のうどんを食べた事がない。
そのくせ偉そうに言うので、双子が笑いだした。
「OK。じゃあ、この辺から帰り道にあるソバかウドン、店を探しておこっか」
「はい」
「ハイヤー捕まえておくけど、マティアスはクズミたちともう一台に乗ってね。僕ら、カスミをサンドイッチして乗りたいから」
「承知した」
車内で双子にからかわれる事を想像し、香澄は「あああ……」と頭を抱えた。
そのあと病院の会計を終え、近くにある蕎麦屋に行った。
和風の建物は雰囲気があり、坪庭を囲むように席があって趣がある。
夜は居酒屋になっているようで、日本酒やアテになるメニューも書かれてあった。
お腹が空いていたので、香澄は親子丼と蕎麦のセットにした。
久住と佐野も双子にご馳走になり、彼らの護衛と一緒に近くの席に座っていた。
満たされたあと、ハイヤーを店まで呼び、御劔邸に帰宅した。
第十三部・完
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