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第十六部・クリスマス 編

あとはお任せします

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「だって……っ、あなたの隣にいるのは私なのにぃ……っ」

 その返事を聞き、もう彼女に何を言っても届かず、通じないのだと痛感した。

 佑は警官を振り向き、一礼する。

「すみません。あとはお任せします。何かありましたら秘書まで連絡をください。目撃者という事で、従兄に話を聞きたい場合もご連絡ください」

 彼の声に合わせて河野が一礼する。

「待ってぇ! 愛してるの! あなたの側にいられないなら生きてる意味がないぃ……っ!」

 泣き叫ぶ希美の言葉を聞き、佑は彼女に冷静な眼差しを向けた。

「どうか男に依存しなくても、一人で立てる女性になってほしい。人生は愛だけがすべてじゃない。男も一人だけじゃない。取り戻せない過去に縋って今を無駄にしないでほしい。過去と他人は変えられない。この言葉だけ、最後に君に送っておく」

 告げたあと、佑はカフェの店長に頭を下げた。

「すみません。お騒がせ致しました。お客さんたちにも、ご迷惑をお掛けしました」

「い……いえ。だ、大丈夫ですか?」

 店長に小さく微笑みかけ、佑はつけ加える。

「店内にいらっしゃるお客さんの代金は、私が負担させて頂きます。お店にも迷惑料を支払わせて頂きます。あとは秘書に任せますので、請求金額をお申し付けください」

 香澄が心配なので、佑は会釈してカフェを出た。

 すぐ追いかけてきたアロイスがポンと肩を叩いてくる。
 チラッと振り向くと、マティアスも店を出てきた。

「タスクお疲れさん。マティアスも」

「二人とも礼を言う。今度美味いワインでも贈る」

「ワインはいーけどさ、とっておきの寿司屋を教えてよ。あと懐石とか豆腐・湯葉もいいね」

「分かった」

 アロイスに続き、マティアスが言う。

「俺は日本に住むにあたって、オススメの場所の情報がほしい。カイが住みよいと言うならその通りだと思うから」

「分かった。eホームの社長にピックアップするよう伝えておく」

 ハァ……と白い息を吐き、佑は会社への道を辿る。

「カスミは?」

「病院に行かせた。浅い傷でも医師から『これだけの傷を負った』という診断書を書いてもらえれば、今後役立つだろう」

「病院から戻ったら働かせるの?」

 アロイスの質問に、佑はそれもそうだと顔をしかめる。

(香澄の事だから、『かすり傷だから大丈夫』と言って仕事を続けそうだな)

 十分にあり得そうで、佑はまた溜め息をつく。

 正直、先日の誘拐未遂が解決していなくてピリピリしている。
 それに加えて今日なので、佑はクリスマスイブだというのに最高に苛立っていた。

「大事をとって先に帰らせておく」

「そーだね。俺たちも一緒にいるから、お前は安心して働きなよ」

 一人だけ働け言われ、佑は一瞬アロイスを睨むが、異論はないので頷く。

「お前たちには……どうしてもらおうかな。香澄には久住たちがついているが、病院にどれだけ時間が掛かるか分からないな」

 ブツブツ呟く佑を見て、マティアスが声をかける。

「病院は遠いのか?」

「かかりつけだから近い」

「なら、俺たちが迎えに行くよ。行き違いにならないように、クズミに連絡しておいて」

「分かった」

「俺たちはクラと合流してそのまま向かうからさ、カスミの荷物があるならタスクが持って帰ってよ」

「分かった。……本当に任せていいんだな? 信じるぞ?」

「任せてよ。っていうか、前にカスミにイタズラしたのは謝るけどさ、カスミに本気で手出しする気持ちはもうないから」

「〝もう〟か」

 突っ込んで睨む佑に向かって、アロイスは軽やかに笑う。

「あはは! ごめんって。今はミサトがいるし。カスミは可愛いから、観賞用、愛でる用で、性的な目ではちょっとしか見てないよ」

「そこが信用ならないんだよ」

「包み隠さず言っただけじゃん。だってあんなにいい女を前にして、『女として見てない』なんて無理があるだろ?」

「確かに。カスミは女性として魅力的だと思う」

 そこにマティアスも参戦し、佑は物凄い顔で彼を睨んだ。

「お前が言うと洒落にならないんだよ」

「すまない」

 そんな会話をしつつ、歩いてTMタワーまで戻ると、外にクラウスが立っていた。
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