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第十六部・クリスマス 編
犯人
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「こんにちは。御劔です。このたびはお騒がせ致します」
「傷害事件との事で宜しいですね?」
「はい。うちの秘書がイベント中に切りつけられました。浅く切れた程度ですが、本人に病院に向かってもらい、診断書を書いてもらうようにしています。その後、被害届を提出する予定です」
「証拠となるものはありますか?」
「私の持ちビルで起きた事件ですので、すぐ防犯カメラの確認をしました。その上、私の従兄弟が来日しておりまして、秘書をオペラグラスで見ていたそうです。事件を終始見た上で、現場から逃げていった女を追い、現在そこのカフェに引き留めているとの事です」
佑がそこまで話した時、「よう」とアロイスが近付いてきた。
それほど長時間ではないが、十二月の寒空の下ずっと外にいたからか、鼻や耳が赤くなっている。
「こちらが私の従兄弟の、アロイス・クラウザーです」
「ども。こういうもんです」
アロイスは警官に向かってピラッと名刺を渡す。警官二人は世界的なハイブランドのロゴを目にして、アロイスの顔を二度見した。
続いて河野も自分の名刺を出し「何かあった場合の連絡は秘書の私にお願いします」と手渡す。
「それでマティアスっていうのが、いま店内で女と一緒にいます」
「それでは……」
警官がカフェに向かおうとしたところ、佑が彼らを留めた。
「少し、犯人の女と話をしてもいいでしょうか? 護衛も連れていますし、逃がすつもりはありません。ただ、なぜ私の秘書に、婚約者に傷を付けたのか、理由を聞かないと納得できませんので」
強い目で年嵩の警官を見つめると、彼は溜め息をつき承諾した。
「分かりました。ただし私たちも立ち会わせて頂きます。凶器を持った容疑者が他の客を傷つけてはいけませんので」
「分かりました」
佑は警官に会釈をし、カフェに入った。
「いらっしゃいませ」
女性店員が挨拶をし、佑とアロイスの姿を見て目を瞠る。
そのあとに続いてきた警官の姿を見て、厄介な事なのかと表情を曇らせた。
「すみません。少しご迷惑をお掛けします。店内にいるお客さんにもあとでお詫びをしますと、店長とオーナーにお伝えください」
顔を寄せた佑に小声で言われ、女性店員はポーッとした顔つきで「はい……」と頷く。
「あ、いた。奥の席」
その隣でアロイスが奥のボックス席を指差した。
どんな女が……、と思ってそちらを見た時、佑は強張った表情で瞠目した。
マティアスの向かいに座っていたのは、――かつて付き合っていた希美だった。
彼女はマティアスとまんざらでもない様子で会話していたが、周囲がざわついて「あれ、御劔さまじゃない?」と言ったのを聞いてこちらを見たようだ。
みるみる希美の表情が驚愕と絶望に変わり、彼女はガタンッと立ちあがった。
「違うの!」
ニット帽を被り伊達眼鏡を掛け、ロングヘアを帽子に押し込んで変装したつもりだろうが、佑が希美を見間違えるはずがない。
彼は表情を険しくさせ、ツカツカと希美に近づく。
「……久しぶりだな。アメリカへ行ったと聞いたが」
佑の冷淡な声を聞き、希美は顔面蒼白になって小さく首を横に振る。
「……違う。……違うの。だって……」
こんな状況になってまで、言い訳をして自分の弱さを他人のせいにしようとする彼女に、心の底からの怒りを覚える。
「こんな愚かな真似をしなければ、警察に捕まる事もなかったのに」
佑はヘーゼルの目を怒りでギラつかせ、忌々しげに吐き捨てる。
「君のまとわりつきには迷惑していた。俺と君は完全に終わり、道も分かたれた。あれから何年も経っているのに、君は何をしている? せっかく海外でステップアップできるチャンスだって手にしたのに」
業界で干されかけていた自分に、急に海外でのオファーがきたのを彼女もおかしいと思っていたのだろう。
佑が裏で手を回し、自分を遠ざけようとしたのに気づいた希美は、クシャリと表情を歪める。
「……どぉしてぇ……。こんなに好きなのにぃ……っ」
ボロボロと涙を流す希美を見て、アロイスが「うわ、メンヘラだ」と言って目だけで天井を見る。
マティアスはもとの無表情に戻って事態を静観していた。
周囲は修羅場を見て口々に何か言い、佑はあとから週刊誌沙汰になると覚悟する。
「確認するが、香澄を傷つけたのは君で間違いないな?」
佑に質問され、希美は潤んだ目で彼を見上げる。
「傷害事件との事で宜しいですね?」
「はい。うちの秘書がイベント中に切りつけられました。浅く切れた程度ですが、本人に病院に向かってもらい、診断書を書いてもらうようにしています。その後、被害届を提出する予定です」
「証拠となるものはありますか?」
「私の持ちビルで起きた事件ですので、すぐ防犯カメラの確認をしました。その上、私の従兄弟が来日しておりまして、秘書をオペラグラスで見ていたそうです。事件を終始見た上で、現場から逃げていった女を追い、現在そこのカフェに引き留めているとの事です」
佑がそこまで話した時、「よう」とアロイスが近付いてきた。
それほど長時間ではないが、十二月の寒空の下ずっと外にいたからか、鼻や耳が赤くなっている。
「こちらが私の従兄弟の、アロイス・クラウザーです」
「ども。こういうもんです」
アロイスは警官に向かってピラッと名刺を渡す。警官二人は世界的なハイブランドのロゴを目にして、アロイスの顔を二度見した。
続いて河野も自分の名刺を出し「何かあった場合の連絡は秘書の私にお願いします」と手渡す。
「それでマティアスっていうのが、いま店内で女と一緒にいます」
「それでは……」
警官がカフェに向かおうとしたところ、佑が彼らを留めた。
「少し、犯人の女と話をしてもいいでしょうか? 護衛も連れていますし、逃がすつもりはありません。ただ、なぜ私の秘書に、婚約者に傷を付けたのか、理由を聞かないと納得できませんので」
強い目で年嵩の警官を見つめると、彼は溜め息をつき承諾した。
「分かりました。ただし私たちも立ち会わせて頂きます。凶器を持った容疑者が他の客を傷つけてはいけませんので」
「分かりました」
佑は警官に会釈をし、カフェに入った。
「いらっしゃいませ」
女性店員が挨拶をし、佑とアロイスの姿を見て目を瞠る。
そのあとに続いてきた警官の姿を見て、厄介な事なのかと表情を曇らせた。
「すみません。少しご迷惑をお掛けします。店内にいるお客さんにもあとでお詫びをしますと、店長とオーナーにお伝えください」
顔を寄せた佑に小声で言われ、女性店員はポーッとした顔つきで「はい……」と頷く。
「あ、いた。奥の席」
その隣でアロイスが奥のボックス席を指差した。
どんな女が……、と思ってそちらを見た時、佑は強張った表情で瞠目した。
マティアスの向かいに座っていたのは、――かつて付き合っていた希美だった。
彼女はマティアスとまんざらでもない様子で会話していたが、周囲がざわついて「あれ、御劔さまじゃない?」と言ったのを聞いてこちらを見たようだ。
みるみる希美の表情が驚愕と絶望に変わり、彼女はガタンッと立ちあがった。
「違うの!」
ニット帽を被り伊達眼鏡を掛け、ロングヘアを帽子に押し込んで変装したつもりだろうが、佑が希美を見間違えるはずがない。
彼は表情を険しくさせ、ツカツカと希美に近づく。
「……久しぶりだな。アメリカへ行ったと聞いたが」
佑の冷淡な声を聞き、希美は顔面蒼白になって小さく首を横に振る。
「……違う。……違うの。だって……」
こんな状況になってまで、言い訳をして自分の弱さを他人のせいにしようとする彼女に、心の底からの怒りを覚える。
「こんな愚かな真似をしなければ、警察に捕まる事もなかったのに」
佑はヘーゼルの目を怒りでギラつかせ、忌々しげに吐き捨てる。
「君のまとわりつきには迷惑していた。俺と君は完全に終わり、道も分かたれた。あれから何年も経っているのに、君は何をしている? せっかく海外でステップアップできるチャンスだって手にしたのに」
業界で干されかけていた自分に、急に海外でのオファーがきたのを彼女もおかしいと思っていたのだろう。
佑が裏で手を回し、自分を遠ざけようとしたのに気づいた希美は、クシャリと表情を歪める。
「……どぉしてぇ……。こんなに好きなのにぃ……っ」
ボロボロと涙を流す希美を見て、アロイスが「うわ、メンヘラだ」と言って目だけで天井を見る。
マティアスはもとの無表情に戻って事態を静観していた。
周囲は修羅場を見て口々に何か言い、佑はあとから週刊誌沙汰になると覚悟する。
「確認するが、香澄を傷つけたのは君で間違いないな?」
佑に質問され、希美は潤んだ目で彼を見上げる。
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