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第十六部・クリスマス 編
犯人がいるカフェへ
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本音と建て前を切り離し〝相手が望む姿〟を演じるのは、エミリアの秘書を通じて慣れている。
コツを掴めば女性を騙すくらいたやすい。
「私、お洒落なカフェを知ってるの。どうせならそこに行かない?」
「あまり土地勘がないから、ここから遠くないならどこにでも」
「ちょっと歩くけど、交通機関は使わないから大丈夫」
マティアスのポケットの中には、通話状態になったスマホがあり、耳にはイヤフォンがある。
女性は「音楽でも聞いているんだろうな」と思っているのだろう。
そのままマティアスは演技をしたまま、少し離れたカフェに向かった。
**
「社長」
佑が廊下で生島に話を聞いていると、河野が小走りにやってくる。
「どうした?」
「警備室から連絡が」
「早いな」
佑の言葉を聞いて河野は一瞬瞠目し、すぐ訂正する。
「社長が手を打たれたのとは別件で、クラウザー様がお会いしたいとの事です」
(……双子が?)
クラウザーと言っても大勢いるが、現実的に考えて双子だろう。
河野は生島をチラッと見てから、声を潜めて告げる。
「どうやらお二人はイベントをバルコニーからご覧になっていたようです。そこから赤松さんを観察していたらしく、不審な女性の接近を見たとの事で連絡を受けました。お連れ様があとを追いかけ、現在ナンパを装い、近くのカフェにいるとの事です」
思わぬ所から情報が転がり込み、佑は「ツイている」と思った。
「すぐ向かう。警察にも連絡してくれ」
「承知致しました」
すると生島が口を挟んでくる。
「社長自ら犯人に会うんですか?」
「……顔を見てどんな人物か確認したい。一般人なら二度とそんな気持ちにならないようにする。厄介な筋なら、専門の人に連絡する」
顔色一つ変えずに答えた佑の返事を聞いて、生島は真顔になって固まる。
「河野、コートを持ってきてくれ。俺はエレベーター前で待つ」
「承知致しました」
河野はすぐに踵を返し、佑は生島に声をかける。
「巻き込んですまない。すぐ知らせてくれて助かった。スーツの皺は彼女を庇ってのものだろう? こちらで弁償するから、連絡を待っていてほしい」
「ありがとうございます!」
その後、生島がスーツ一着には多すぎるほどの金を受け取ったのは、また別の話になる。
**
佑は松井に外出すると伝え、あとの事を頼んだ。
香澄には仕事に戻らず、護衛つきで病院へ行くように言った。
エレベーターの前で待っていると河野がすぐに来た。
佑はコートを着ながらゴンドラに乗り込む。
「双子は何と言っていた?」
「私のスマホにアロイス様から連絡がありました」
息をついた佑に、河野は続ける。
「犯人とおぼしき女性はマティアス様とカフェに向かい、外からアロイス様が見張っているようです。クラウス様はイベント会場に残っているようですが、撤収が始まっていますし、動かれているかもしれません。久住さんと佐野さんは、遠くまで走っていたようで、引き返すよう指示しました」
「警察にはもう連絡をしてあるな?」
「はい。すぐに駆けつけると返答がありました」
確認後、佑は黙って一階に着くのを待つ。
やがてゴンドラは一階に着き、歩き出した佑に河野はカフェの位置を教える。
「少し揉めるだろうから、カタがついたあと、店へのフォローを頼む」
「承知致しました」
カフェは徒歩すぐの距離らしいので、歩いていく事にした。
へたに車を動かせば時間が取られる。
ビルの裏手から外にでると、佑は河野に先導されて歩く。
カフェはTMタワーから歩いて十分の場所にあった。
警察には直接カフェに来てもらうよう言ってあり、すでに店舗から少し離れた場所に立っている警官に挨拶をした。
コツを掴めば女性を騙すくらいたやすい。
「私、お洒落なカフェを知ってるの。どうせならそこに行かない?」
「あまり土地勘がないから、ここから遠くないならどこにでも」
「ちょっと歩くけど、交通機関は使わないから大丈夫」
マティアスのポケットの中には、通話状態になったスマホがあり、耳にはイヤフォンがある。
女性は「音楽でも聞いているんだろうな」と思っているのだろう。
そのままマティアスは演技をしたまま、少し離れたカフェに向かった。
**
「社長」
佑が廊下で生島に話を聞いていると、河野が小走りにやってくる。
「どうした?」
「警備室から連絡が」
「早いな」
佑の言葉を聞いて河野は一瞬瞠目し、すぐ訂正する。
「社長が手を打たれたのとは別件で、クラウザー様がお会いしたいとの事です」
(……双子が?)
クラウザーと言っても大勢いるが、現実的に考えて双子だろう。
河野は生島をチラッと見てから、声を潜めて告げる。
「どうやらお二人はイベントをバルコニーからご覧になっていたようです。そこから赤松さんを観察していたらしく、不審な女性の接近を見たとの事で連絡を受けました。お連れ様があとを追いかけ、現在ナンパを装い、近くのカフェにいるとの事です」
思わぬ所から情報が転がり込み、佑は「ツイている」と思った。
「すぐ向かう。警察にも連絡してくれ」
「承知致しました」
すると生島が口を挟んでくる。
「社長自ら犯人に会うんですか?」
「……顔を見てどんな人物か確認したい。一般人なら二度とそんな気持ちにならないようにする。厄介な筋なら、専門の人に連絡する」
顔色一つ変えずに答えた佑の返事を聞いて、生島は真顔になって固まる。
「河野、コートを持ってきてくれ。俺はエレベーター前で待つ」
「承知致しました」
河野はすぐに踵を返し、佑は生島に声をかける。
「巻き込んですまない。すぐ知らせてくれて助かった。スーツの皺は彼女を庇ってのものだろう? こちらで弁償するから、連絡を待っていてほしい」
「ありがとうございます!」
その後、生島がスーツ一着には多すぎるほどの金を受け取ったのは、また別の話になる。
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佑は松井に外出すると伝え、あとの事を頼んだ。
香澄には仕事に戻らず、護衛つきで病院へ行くように言った。
エレベーターの前で待っていると河野がすぐに来た。
佑はコートを着ながらゴンドラに乗り込む。
「双子は何と言っていた?」
「私のスマホにアロイス様から連絡がありました」
息をついた佑に、河野は続ける。
「犯人とおぼしき女性はマティアス様とカフェに向かい、外からアロイス様が見張っているようです。クラウス様はイベント会場に残っているようですが、撤収が始まっていますし、動かれているかもしれません。久住さんと佐野さんは、遠くまで走っていたようで、引き返すよう指示しました」
「警察にはもう連絡をしてあるな?」
「はい。すぐに駆けつけると返答がありました」
確認後、佑は黙って一階に着くのを待つ。
やがてゴンドラは一階に着き、歩き出した佑に河野はカフェの位置を教える。
「少し揉めるだろうから、カタがついたあと、店へのフォローを頼む」
「承知致しました」
カフェは徒歩すぐの距離らしいので、歩いていく事にした。
へたに車を動かせば時間が取られる。
ビルの裏手から外にでると、佑は河野に先導されて歩く。
カフェはTMタワーから歩いて十分の場所にあった。
警察には直接カフェに来てもらうよう言ってあり、すでに店舗から少し離れた場所に立っている警官に挨拶をした。
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