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第十六部・クリスマス 編
目撃者
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「いい? 赤松さんの人生の主役は赤松さんなの。仕事も好きな人も、自分が望むようにすればいいわ。その他大勢に遠慮する事はないのよ。人生の脇役に遠慮したって、誰もあなたの人生に責任を取ってくれない。責任取ってくれるのは家族だけよ。そこをはき違えたら駄目」
目を見つめられて言われ、香澄の心の奥で何かがコトンと落ちる。
「はい」
返事をした香澄に、花織はにっこり笑う。
「赤松さんは溜め込むタイプみたいだから、何かあったら気晴らしに医務室にいらっしゃい。カウンセリングって言っても、ハードルを高く感じる事はないの。今みたいに雑談したらスッキリする事もあるわ。カウンセラーは『ああしなさい、こうしなさい』は言わない。患者さんが話していくうちに、自分の心と向き合って気持ちの整理をするものなの」
「……悪い所はないのに、来てもいいんですか?」
きょとんとして尋ねると、花織はクシャッと笑った。
「いいわよ! 私だって仕事しないと。必要経費と称して美味しいお菓子を用意してるから、それを食べておしゃべりしましょう。何か話したい事があったら、気楽に来てちょうだい」
ぐっと親指を立てられ、気持ちが楽になる。
「はい。じゃあ……、来年からタイミングを見てお世話になります」
「ん! 分かったわ。じゃあ、今は取りあえず着替えちゃいましょうか」
「はい」
佑と花織の二人に話を聞いてもらって、随分元気になった気がした。
**
時を遡り、イベント会場の二階バルコニーにて。
『タスクの癖になかなかなイベントだね』
『シンガーやダンサーは実力者だからね。僕らが感動したのはアーティストの実力!』
『そうだねー。……って、マティアスはさっきからナニ覗いてるワケ?』
マティアスは小型の単眼鏡でイベント会場を見ている。
『いや、カスミがいると思って』
『マジで? 見せて。貸して』
クラウスに言われるがまま、マティアスは単眼鏡を彼に渡す。
『お前、なんでそんなもん持ってるワケ?』
アロイスに尋ねられ、マティアスはいつもの表情で答える。
『公園に行ったらバードウォッチングしないか? 日本の鳥にも興味があるし』
『あー。お前そういう趣味あったよね。釣りに行ってもやけに魚に詳しいし』
『ポケットサイズだから持ち運びに便利なんだ』
『ふーん。ま、カスミが見られるなら、持っておく価値はあるかもね』
そう言った時、クラウスがキャッキャとはしゃぐ。
『カスミ可愛いー! サンタのコスしてるぜ。で、カゴにお菓子持ってんの。あれ、サンタっていうより狼に食べられに行く赤ずきんだね』
『狼? その狼はもちろん俺たちだろ?』
『あたぼーよ』
そんな会話をしていたが、クラウスの様子が急に変わった。
『……どした? クラ』
『や。一人、妙な女を見つけて。皆、お菓子をもらうのにニコニコしてるのに、そいつだけ緊張した顔をしてる』
その言葉を聞いた瞬間アロイスの表情が引き締まり、すぐマティアスに指示をだす。
『マティアス、電話かけるからイヤフォン入れてハンズフリーにしとけ。で、今すぐ一階にダッシュ!』
『了解した。荷物は任せる』
マティアスは耳にワイヤレスイヤフォンを入れ、すぐにアロイスの命令に従った。
彼は黒いコートを翻し、周囲の人が驚くなか走っていく。
『クラ。カスミはどうだ? あー、マティアス、聞こえるか? OK。電話は切らずにそのまま行動』
『カスミに変化なし。あの子鈍いねー。女はすぐ近くまで接近した。お菓子を無視してカスミの死角に入ってる』
単眼鏡を覗いたクラウスの報告に、アロイスは舌打ちする。
『女の外見は? マティアスが遭遇した、カスミを攫おうとした女か?』
『いや。フツーの日本の女の子だ。服装もクリスマスイベントに来た感じ。スリムで背が高くてモデル体型』
『先日の誘拐未遂とは無関係?』
『そのセンも高いね。マティアスが戦ったのはロシア系とかなのに、日本人の女の子が単独でくるのは別件だと考えたほうがいい。何にせよ、タスクといるなら色んな奴に恨まれるだろ』
そこまで会話をした時、クラウスが舌打ちをした。
『アロ、女が引き返した。カスミに何かした直後かもしれない。凄い勢いで人混みに逆らって出入り口に向かってる。マティアスに指示出して』
弟の報告を聞き、アロイスはマティアスに指示をだす。
目を見つめられて言われ、香澄の心の奥で何かがコトンと落ちる。
「はい」
返事をした香澄に、花織はにっこり笑う。
「赤松さんは溜め込むタイプみたいだから、何かあったら気晴らしに医務室にいらっしゃい。カウンセリングって言っても、ハードルを高く感じる事はないの。今みたいに雑談したらスッキリする事もあるわ。カウンセラーは『ああしなさい、こうしなさい』は言わない。患者さんが話していくうちに、自分の心と向き合って気持ちの整理をするものなの」
「……悪い所はないのに、来てもいいんですか?」
きょとんとして尋ねると、花織はクシャッと笑った。
「いいわよ! 私だって仕事しないと。必要経費と称して美味しいお菓子を用意してるから、それを食べておしゃべりしましょう。何か話したい事があったら、気楽に来てちょうだい」
ぐっと親指を立てられ、気持ちが楽になる。
「はい。じゃあ……、来年からタイミングを見てお世話になります」
「ん! 分かったわ。じゃあ、今は取りあえず着替えちゃいましょうか」
「はい」
佑と花織の二人に話を聞いてもらって、随分元気になった気がした。
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時を遡り、イベント会場の二階バルコニーにて。
『タスクの癖になかなかなイベントだね』
『シンガーやダンサーは実力者だからね。僕らが感動したのはアーティストの実力!』
『そうだねー。……って、マティアスはさっきからナニ覗いてるワケ?』
マティアスは小型の単眼鏡でイベント会場を見ている。
『いや、カスミがいると思って』
『マジで? 見せて。貸して』
クラウスに言われるがまま、マティアスは単眼鏡を彼に渡す。
『お前、なんでそんなもん持ってるワケ?』
アロイスに尋ねられ、マティアスはいつもの表情で答える。
『公園に行ったらバードウォッチングしないか? 日本の鳥にも興味があるし』
『あー。お前そういう趣味あったよね。釣りに行ってもやけに魚に詳しいし』
『ポケットサイズだから持ち運びに便利なんだ』
『ふーん。ま、カスミが見られるなら、持っておく価値はあるかもね』
そう言った時、クラウスがキャッキャとはしゃぐ。
『カスミ可愛いー! サンタのコスしてるぜ。で、カゴにお菓子持ってんの。あれ、サンタっていうより狼に食べられに行く赤ずきんだね』
『狼? その狼はもちろん俺たちだろ?』
『あたぼーよ』
そんな会話をしていたが、クラウスの様子が急に変わった。
『……どした? クラ』
『や。一人、妙な女を見つけて。皆、お菓子をもらうのにニコニコしてるのに、そいつだけ緊張した顔をしてる』
その言葉を聞いた瞬間アロイスの表情が引き締まり、すぐマティアスに指示をだす。
『マティアス、電話かけるからイヤフォン入れてハンズフリーにしとけ。で、今すぐ一階にダッシュ!』
『了解した。荷物は任せる』
マティアスは耳にワイヤレスイヤフォンを入れ、すぐにアロイスの命令に従った。
彼は黒いコートを翻し、周囲の人が驚くなか走っていく。
『クラ。カスミはどうだ? あー、マティアス、聞こえるか? OK。電話は切らずにそのまま行動』
『カスミに変化なし。あの子鈍いねー。女はすぐ近くまで接近した。お菓子を無視してカスミの死角に入ってる』
単眼鏡を覗いたクラウスの報告に、アロイスは舌打ちする。
『女の外見は? マティアスが遭遇した、カスミを攫おうとした女か?』
『いや。フツーの日本の女の子だ。服装もクリスマスイベントに来た感じ。スリムで背が高くてモデル体型』
『先日の誘拐未遂とは無関係?』
『そのセンも高いね。マティアスが戦ったのはロシア系とかなのに、日本人の女の子が単独でくるのは別件だと考えたほうがいい。何にせよ、タスクといるなら色んな奴に恨まれるだろ』
そこまで会話をした時、クラウスが舌打ちをした。
『アロ、女が引き返した。カスミに何かした直後かもしれない。凄い勢いで人混みに逆らって出入り口に向かってる。マティアスに指示出して』
弟の報告を聞き、アロイスはマティアスに指示をだす。
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