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第十六部・クリスマス 編

聖夜の切り裂き魔

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花織かおり先生いますかー?」

「はいはーい」

 生島に呼ばれ、奥から白衣を着た美女が出てくる。

 医務室勤務の、二十九歳の小倉おぐら花織は、その色っぽい雰囲気から男性社員に人気がある。
 だが外見に反して割とサバサバした姉御肌でもあるので、女性人気も高かった。

 彼女はもともと看護師として病院に勤務していたが、二十五歳の時に転職をしてChief Everyの医務室勤務になったらしい。

 以前は別の看護師が勤めていたのだが、結婚と出産を機に退職し、そこに彼女が収まったのだとか。

「赤松さんどうしたの? もしかして……」

 花織は香澄を見て、腰にジャケットを巻いているため、急に生理が始まったのかと気遣わしげな表情を見せる。
 だが生島が「違うんですって」と香澄の腕を取った。

「見てください、これ! イベント中に多分、客に切りつけられたんです」

「えぇ……?」

 花織は香澄の腕の傷をしげしげと見て、綺麗な顔を歪める。
 そしてすぐ真剣な表情になると、香澄の腰に視線をやった。

「腰はどうしたの?」

「赤松さん、俺にケツ向けないでくださいよ」

 言われて香澄は花織にお尻を向け、腰のジャケットの結び目を解く。

「ケツの辺りも切れてるでしょ。赤松さん、菓子配りしてたから、切りつけられたのに気づかなかったみたいで」

「はぁー……」

 後ろから深い溜息が聞こえる。
 そして花織が「警察案件になるわね」と呟いたのが聞こえてギクッとした。

「け……けいさつ……」

 呟いた香澄を無視し、花織は生島に声をかける。

「生島くん、ありがとう。怖いと思うけど社長に報告をお願い」

「うっす」

 生島は体育会系な返事をし、袖がしわくちゃになったジャケットを着た。

「生島さん、ありがとうございます! 後ほど、ジャケット代を支払います」

「それだったら、社長に昇給するようお願いしといてください」

 そう言って、生島は「じゃあ戻ります」と医務室を出て行った。

「赤松さん、カーテンの中で服を脱いでくれる? 他に痛む部分は?」

「痛む部分は……特にありません」

 ベッドまで行き、香澄はカーテンを閉じてその中で服を脱ぐ。
 グローブを腕から抜く時、微かな痛みを感じた。
 ボレロを脱ぎワンピースの背中のファスナーを下げ、ばんざいをして脱ぐ。

「わぁ……」

 ずっと気になっていたワンピースのお尻部分を見ると、ざっくりと大きく切れていた。

(……パンツ丸出しだったんだ。……恥ずかしい。というか、生島さんにあとでお礼しないと)

 今さら恥ずかしくなり、穴があったら入りたい心地になる。

「赤松さん、脱いだ?」

「はい」

「消毒するから、無理のない範囲でベッドにうつ伏せになってくれる?」

「はい、ただいま」

 香澄は慌ててストレッチブーツを脱ぎ、ストッキングも膝まで下ろしてからベッドにうつ伏せになった。

「入るわよー」

 カーテンを開閉する音がし、花織の気配がする。

「傷、どれぐらいですか?」

 うつ伏せになったまま尋ねると、ベッドの縁に座った花織が「消毒するわね」と断りを入れてくる。

「傷そのものはかすり傷ね。浅く切れてちょっと血が滲んでいる程度。二週間ぐらいもすれば綺麗になるでしょ。包丁でざっくりやった時は傷跡が残るけど、これぐらい浅かったら大丈夫だと思うわ」

 消毒液を染みこませた脱脂綿でちょんちょんと傷を消毒され、微かに染みる。

「傷の幅は、二十センチいかないぐらいかしら。左肘下の傷は、七、八センチぐらいよ」

「うーん……。治るんだったらいいんですけど……。恨みを買うような事したかな……。というか、社長絡みのやっかみなら、心当たりがありすぎなんですが」

「赤松さんも大変ね。あんな厄介な人が婚約者なんて」

 ストレートに言った花織の言葉に、香澄は思わず笑う。

「やっぱり厄介ですよね。さっきも生島さんに、如何に社長が大物かを力説されたところです」

「知名度だけで言えば、俳優やアイドルって言っても過言ではないわ。その上、世界的な資産家で投資家、経営者、頭が良くて顔も良くて、今のところ独身で、母親の家系を辿ればドイツのクラウザー社。ハイブリッドセレブよ」

 言いながら、花織は肘の下もちょんちょんと消毒していく。
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