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第十六部・クリスマス 編
馬鹿ですよね?
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「ワンピースの後ろ、切れてます。痛くないんですか? カッターか何かで切ったような感じでした。……あっ、腕も!」
そう言って生島は香澄の左腕を取り、赤いロンググローブをつけた腕の外側を香澄に見せようとする。
「赤松さん!」
その時、客に押し出されて遠くへ行ってしまった久住と佐野が、完全に出遅れた形で走ってくる。
「あ……」
生島に言われて確認すれば、確かに肘の下辺りが切れている。
割と厚手の生地だったのに、ざっくりと鋭利な刃物で布地ごと香澄の腕が切れていた。
「痛くありませんか?」
「……分かったら、今になって痛くなってきた気がします……」
呆然としたまま返事をした香澄は、左腕と腰――ちょうど尻の谷間の始まり辺り――がジンジンと痛み出したのを感じる。
「あは……。今ごろ痛くなるなんて、恐竜並みですね」
「いいですから! 医務室行きますよ! そこの護衛の人二人は、周囲に怪しい人がいないか確認してください! 赤松さんは俺が責任持って医務室に連れて行きますから!」
生島の剣幕に押され、久住と佐野は走りだした。
彼は香澄の手首を掴むと、近くにいる社員に「赤松さんが怪我を負ったので、オフィスの医務室に行きます」と伝えた。
香澄は生島に引っ張られて、ととと……と小走りに歩いて行く。
途中で「あー、サンタさんだー」と無邪気に喜ぶ子供に手を振り、バックヤードに入ってやっと息をつく。
エレベーター待ちになるとさすがに生島も手を離し、混乱した顔で尋ねてくる。
「赤松さん、犯人の顔は見なかったんですか?」
「いえ。切られたっていうのも全然分かっていなくて……。お菓子を配るのに夢中になっていたので……」
「はぁ……。これを社長が知ったら、どれだけ荒れる事やら」
溜め息混じりに言い、生島は腕を組んでトントンと指で神経質に自分の腕を打つ。
(それもそうだ)
ギクッとし、香澄はそろっと生島に頼む。
「……だ、黙っていてくれませんか?」
「何言ってんですか。黙ってたって無駄でしょう。赤松さん、社長と同棲してるんですよね? それで婚約者でしょう? ケツだって見られてるでしょう? 即バレですよ」
ズバッと言われ、思わず赤面する。
「こういう場合、速やかに報告したほうがいいんです。社長なら金と人脈でスピード解決してくれますから。逆に黙っていたら俺の立場が悪くなります。それぐらい察してくださいよ」
そう言う生島は、営業部での成績が良くて佑からも覚えもいい。
佑が昼休みに社内を見回っている時、彼に腕相撲の勝負を申し込むほどには仲が良く、誰にでもオープンに話し掛け、裏表のない性格をしている。
二十七歳ながら面倒見がよく、後輩から慕われていると聞いた。
「……す、すみません……」
小さく謝った時、目の前でポーンと電子音がしてエレベーターのドアが開く。
二人してゴンドラに乗り込み、生島が医務室がある三十三階を押した。
「はぁ……。赤松さん。あんまりうるさく言いたくありませんが、あなたは社長の掌中の珠なんですからね? それを傷付けられたら、社長がどうなるか分かってますよね? 赤松さんって可愛いやり手っていう雰囲気を醸し出しておきながら、結構抜けてて馬鹿ですよね?」
「……そ、そんなにハッキリ言わなくたっていいじゃないですか」
双子にも頻繁に「バカだねー」と言われるが、生島のように心底……という様子で言われると落ち込んでしまう。
「社長の婚約者である自覚はありますか? 中小企業の社長じゃないんですよ? 〝世界の御劔〟って言われてる億万長者ですよ? 石油王の友達がいて、大統領・首相クラスと会っている存在ですよ? その婚約者がサンタコスプレしてノコノコと大勢の前に出て、さっきなんて野郎に絡まれてたじゃないですか。俺も配置にいたんで、ヘルプにいけなくて悪かったですけど」
「ちゃ、ちゃんと解決しました! それにお菓子配り隊に志願したのは、人手が足りなさそうで大変だなって思ったからで……」
「そんなの他の社員に任せたらいいじゃないですか。うちは男女ともにコスプレ衣装はふんだんにあるんですから。赤松さんがやらなくても菓子を配る係は誰でもできます。でも赤松さんにもしもの事があった場合、代わりはいないんですからね?」
ぐうの音も出ないほど言い負かされ、香澄はとうとう降参した。
「……はい。……反省します」
その時、ゴンドラが三十三階に着いた。
「どもっす」
生島は受付に挨拶をし、香澄を先導してズンズンと廊下を奥に進んでいく。
やがて生島は医務室とプレートのある部屋の前で立ち止まり、ドアをノックした。
そう言って生島は香澄の左腕を取り、赤いロンググローブをつけた腕の外側を香澄に見せようとする。
「赤松さん!」
その時、客に押し出されて遠くへ行ってしまった久住と佐野が、完全に出遅れた形で走ってくる。
「あ……」
生島に言われて確認すれば、確かに肘の下辺りが切れている。
割と厚手の生地だったのに、ざっくりと鋭利な刃物で布地ごと香澄の腕が切れていた。
「痛くありませんか?」
「……分かったら、今になって痛くなってきた気がします……」
呆然としたまま返事をした香澄は、左腕と腰――ちょうど尻の谷間の始まり辺り――がジンジンと痛み出したのを感じる。
「あは……。今ごろ痛くなるなんて、恐竜並みですね」
「いいですから! 医務室行きますよ! そこの護衛の人二人は、周囲に怪しい人がいないか確認してください! 赤松さんは俺が責任持って医務室に連れて行きますから!」
生島の剣幕に押され、久住と佐野は走りだした。
彼は香澄の手首を掴むと、近くにいる社員に「赤松さんが怪我を負ったので、オフィスの医務室に行きます」と伝えた。
香澄は生島に引っ張られて、ととと……と小走りに歩いて行く。
途中で「あー、サンタさんだー」と無邪気に喜ぶ子供に手を振り、バックヤードに入ってやっと息をつく。
エレベーター待ちになるとさすがに生島も手を離し、混乱した顔で尋ねてくる。
「赤松さん、犯人の顔は見なかったんですか?」
「いえ。切られたっていうのも全然分かっていなくて……。お菓子を配るのに夢中になっていたので……」
「はぁ……。これを社長が知ったら、どれだけ荒れる事やら」
溜め息混じりに言い、生島は腕を組んでトントンと指で神経質に自分の腕を打つ。
(それもそうだ)
ギクッとし、香澄はそろっと生島に頼む。
「……だ、黙っていてくれませんか?」
「何言ってんですか。黙ってたって無駄でしょう。赤松さん、社長と同棲してるんですよね? それで婚約者でしょう? ケツだって見られてるでしょう? 即バレですよ」
ズバッと言われ、思わず赤面する。
「こういう場合、速やかに報告したほうがいいんです。社長なら金と人脈でスピード解決してくれますから。逆に黙っていたら俺の立場が悪くなります。それぐらい察してくださいよ」
そう言う生島は、営業部での成績が良くて佑からも覚えもいい。
佑が昼休みに社内を見回っている時、彼に腕相撲の勝負を申し込むほどには仲が良く、誰にでもオープンに話し掛け、裏表のない性格をしている。
二十七歳ながら面倒見がよく、後輩から慕われていると聞いた。
「……す、すみません……」
小さく謝った時、目の前でポーンと電子音がしてエレベーターのドアが開く。
二人してゴンドラに乗り込み、生島が医務室がある三十三階を押した。
「はぁ……。赤松さん。あんまりうるさく言いたくありませんが、あなたは社長の掌中の珠なんですからね? それを傷付けられたら、社長がどうなるか分かってますよね? 赤松さんって可愛いやり手っていう雰囲気を醸し出しておきながら、結構抜けてて馬鹿ですよね?」
「……そ、そんなにハッキリ言わなくたっていいじゃないですか」
双子にも頻繁に「バカだねー」と言われるが、生島のように心底……という様子で言われると落ち込んでしまう。
「社長の婚約者である自覚はありますか? 中小企業の社長じゃないんですよ? 〝世界の御劔〟って言われてる億万長者ですよ? 石油王の友達がいて、大統領・首相クラスと会っている存在ですよ? その婚約者がサンタコスプレしてノコノコと大勢の前に出て、さっきなんて野郎に絡まれてたじゃないですか。俺も配置にいたんで、ヘルプにいけなくて悪かったですけど」
「ちゃ、ちゃんと解決しました! それにお菓子配り隊に志願したのは、人手が足りなさそうで大変だなって思ったからで……」
「そんなの他の社員に任せたらいいじゃないですか。うちは男女ともにコスプレ衣装はふんだんにあるんですから。赤松さんがやらなくても菓子を配る係は誰でもできます。でも赤松さんにもしもの事があった場合、代わりはいないんですからね?」
ぐうの音も出ないほど言い負かされ、香澄はとうとう降参した。
「……はい。……反省します」
その時、ゴンドラが三十三階に着いた。
「どもっす」
生島は受付に挨拶をし、香澄を先導してズンズンと廊下を奥に進んでいく。
やがて生島は医務室とプレートのある部屋の前で立ち止まり、ドアをノックした。
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