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第十六部・クリスマス 編

腰に巻き付けられたジャケット

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『お菓子配り隊の皆さん、配置場所にいますね? これから会場が明るくなり、イベント終了となります。司会がサンタクロースからお菓子がありますとアナウンスをしますから、混雑しないよう予定通りの場所にバラけて配布をお願いします』

 指示を聞いていると、『FULL ORDER』が全員そろってお辞儀をし、ステージの左右にハケていく。

 そのあと司会の女性と芸人の男性が中央に出て、佑も拍手しながら姿を現す。

「はい! 以上でTMタワークリスマスは終わりになります! 最後に御劔社長から会場の皆様にメッセージをお願いします」

 バトンタッチをされ、佑は軽く会釈をして前に進み出る。

「皆さん、今日はご多忙の中、当社ビルにお越し頂き誠にありがとうございます。名のあるアーティストたちの共演をお楽しみ頂けたでしょうか。今日はクリスマスイブです。これから予定のある方もない方も、このイベントで、クリスマス気分を深められたらと思っています」

「予定のない方も」のところで、客がドッと笑う。

「なお、宣伝ですが、二階にありますChief Every本店フロアでは、ショーに出てきた来春のアイテムが揃っております。また、冬物もセールをしておりますので、ご興味を持たれましたら、ぜひお買い上げ頂けたら幸いです。本日のイベントはこれにて終わりとなりますが、最後に当社のサンタクロースたちよりささやかなプレゼントをご用意致しました。数は十分ございますので、お足元に十分お気を付けの上、サンタクロースたちよりお受け取りください」

 そのタイミングで、パッと会場を囲むように立っているサンタクロースたちにスポットライトが当たった。
 サンタガールもサンタクロースも、十分な人数がいる。
 あらかじめ決められた通り、香澄はバスケットを掲げて観客に手を振ってみせた。

「会場にいらっしゃる皆様が、良いクリスマスを過ごせるようお祈り申し上げます。また、これから年の瀬となり、ますます忙しくなりますが、体調など崩されないようお気をつけください。新年になりましたら、またイベントを予定しております。Chief Every本店限定福袋も用意しておりますので、どうぞ宜しくお願い致します」

 佑は商売人としてきっちりと宣伝をし、完璧な笑みを浮かべる。

 ポーッとした女性たちは、絶対に正月もこのビルに足を運ぶだろう。

「私からは以上です。皆さま、良いクリスマスをお過ごしください。そして、良いお年を!」

 佑は会場に向かって大きく振ったあと、舞台役者のように胸に手を当てて丁寧にお辞儀をする。

 会場からは割れんばかりの拍手が起こり、「御劔さーん!」という声が聞こえた。

 挨拶が終わったあと、佑が現場にいるとなかなか客が帰らないので、彼はすみやかにステージ袖にハケる。

 MCの女性が客に帰りを促した。

「それでは皆さん、長い時間イベントをお楽しみくださりありがとうございます! お足元にお気を付けて、サンタクロースからミニプレゼントをお受け取りください」

 ライトもいつもの状態に戻り、観客たちがゾロゾロと動きだす。

(よし、今だ!)

 香澄は笑顔で歩みでて、大きなカゴに入ったお菓子を近くの客に配り始める。
 会場のあちこちにいるサンタクロースが動き、警備員の誘導もあってお菓子配りはスムーズに行われた。

「ありがとうございました」

 香澄は笑顔でお菓子を配り、周りにいる客たちに会釈をする。
 中には早く帰りたいがために直接カゴに手を伸ばし、サッと取っていく者もいたが、いちいち注意をしていられない。

 周りには大勢人がいたため、香澄は一瞬その違和感を気のせいだと思った。

 腰の辺りが一瞬熱くなった気がしたのだが、今はそれどころではなく、笑顔でお菓子を配り続ける。

 バスケットの中身がなくなると、補充スタッフが中身の詰まった物と交換してくれる。

 壁際には段ボール一杯にお菓子の袋があり、集客人数分は十分にある。

 お菓子を配り続けて二十分もすると、正面ホールの人手は通常通りに戻った。
 あちこちで後片付けをし始めるスタッフが動き、佑は今頃出演アーティストに挨拶をしているはずだ。

「お疲れ様でした」

 香澄も笑顔で近くにいるスタッフに挨拶をし、後片付けを手伝おうとする。

「赤松さん!」

 が、そのとき近くにいた若い男性社員が大きな声を上げた。

「はい? 何でしょう? 生島いくしまさん」

 キョトンとして振り返ると、生島は大急ぎでスーツのジャケットを脱いでいる。

「……あの?」

 戸惑っている香澄をよそに、生島はグイッと香澄の腰に自分のジャケットを巻き付けた。

「えっ? え?」

 生島は目をぱちくりとしている香澄のお腹でギュッと袖を縛り、少し顔を赤くしてボソッと囁く。
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