【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜

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第十六部・クリスマス 編

クラウスとビァネ

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 湯上がりでヘアセットされていないが、アシンメトリーの分け目からクラウスだろう。

「フルーツ?」

 白Tシャツにグレーのスウェットズボン姿の彼は、ルームシューズを履いた足でキッチンに来た。

「はい。ラ・フランスです」

「あぁ、いいね。ビァネ好きだよ」

「びあね」

「そっか、日本だと和梨もあるから、洋梨、和梨って括りになってんのか。こっちだとビァネでまるっと洋梨を差すよ。ラ・フランスもあるし、バートレット、オーロラ、マルゲリット・マリーラとか色々種類がある」

「ドイツって和梨ないんですか?」

「一応あるよ。商品名はそのままローマ字でNashiって書いてある」

「んふふふ。なんか面白い」

「ドイツにある日本の果物ったらみかんがあるね。いわゆる冬みかん。皆、サツマって呼んでるね」

「ふぅん……。〝サツマ〟って日本名で呼ばれてるの、何か嬉しいです」

 微笑むと、クラウスが皮を剥いたラ・フランスを指さした。

「一個食べていい?」

「はい、どうぞ」

 深緑色の焼き物の大皿にあったラ・フランスを、クラウスは指で摘まんで齧り付く。

「ん、おいし」

「良かったです」

 そのあとクラウスは大人しくラ・フランスを切ったり剥いたりしている香澄を見ていたが、ぽつんと尋ねてきた。

「マイちゃん、どれだけ怒ってた?」

「ん、あー……。……すみません、気にしちゃいますよね」

「ううん。僕らが悪かったんだし、全然いい。今でもカスミはよく許してくれたなって思うし」

 クラウスは一九十センチメートル近くある長身を折り曲げるように、キッチン台の上に頬杖をついて香澄の顔を覗き込む。

「……喧嘩は嫌なんです。ギスギスした空気とか苦手です。好きな人には笑っていてほしいです。私が優しいからとかじゃなくて、心地よく過ごしたいだけのエゴなんです」

「カスミは本当に平和主義だよね。僕らだったら、自分の感情ややりたい事を優先しちゃう」

「ふふ。和を重んじる日本人で、共感主義の女性ですから」

 香澄は微笑み、わざとらしく言う。

「そんなカスミの親友だから、何を言われても謝ろうって思うよ。僕らがカスミの人の良さを利用したのは事実なんだから」

 寂しそうに笑うクラウスを見て、香澄は胸の奥にキュッとした痛みを感じる。

「私は怒っていませんから、もう自分を責めないでください。むしろ今回はマティアスさんに助けて頂いて、チャラ以上になったと思っています」

「そう? 全然チャラになってないと思うけど。まぁ、全部あの女のせいって言ったらそれまでなんだけど、僕らがした事を棚に上げるのはまた違うからね」

 クラウスが「あの女」と言ったのがエミリアだと察し、香澄はラ・フランスを一つ囓りながら尋ねた。

「……佑さんがいない今だからお聞きますが、私、八月のイギリスの記憶があまりないんです。気が付いたら帰国していた感じでした。……クラウスさんはイギリスで何があったか知っていますか? ……知って、……いますよね?」

 尋ねた時、サッとクラウスの表情が曇った。

「知らないほうが幸せな事ってあるんだよ。タスクも僕たちも、意地悪でカスミに隠し事をしているんじゃない。君を守りたいから沈黙しているだけだ。『寝た子を起こすな』って言葉があるだろう?」

 警告を受け、香澄は口の中にある果実を咀嚼して考え込み、呑み込む。

「……良くない事なんですね」

「記憶がなくて不安になるのは分かる。自分の事なら自分で把握し、理解していたいもんだ。……でも、思い出せないっていうのは、本能のサインでもある。防衛本能に従っておいたほうがいいよ」

 香澄は知らずと溜め息をつき、最後の一口を口に入れる。
 もぐもぐと口を動かしながら溜め息をつくと、ラ・フランスの芳醇な香りがする。

 いつもならとても幸せな気持ちになれるのに、今はばかりは元気が出ない。

「僕はできる事なら、カスミに思い出してほしくない。もしその時がきたら、カスミは『思い出したくなかった』って思うんじゃないかな。どうにもならない事を気にしても仕方がないでしょ。これから楽しい事があるし楽しもうよ。マイちゃんも来るんでしょ?」

 優しく言われ、香澄はコクンと頷く。

「何話してんのー?」

 その時、湯上がりとおぼしきアロイスが現れた。
 彼もキッチンに来て、「お、ビァネ」と笑顔になる。

 そしてすぐに、香澄とクラウスの様子に気づいた。
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